変形労働時間制とは?制度の概要・割増賃金請求の注意点についても弁護士が解説します!

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変形労働時間制とは?変形労働時間制や割増賃金請求の注意点を弁護士が解説します!

よくある相談例

①変形労働時間制を導入すれば、割増賃金を支払わなくてもいいですか?

②変形労働時間制を導入するときの注意点を知りたい。

③変形労働時間制を採用していましたが、割増賃金請求訴訟が起こされました。

変形労働時間制とは?

1 変形労働時間制とは

 労働基準法32条は、1日及び1週間の労働時間の上限を定めており、1日8時間を超える労働や1週間40時間を超える労働を規制しています(休憩時間を除く)。そのため、法定労働時間を超える労働がある場合、会社は、従業員に対して割増賃金を支払わなければなりません。

 変形労働時間制とは、労働基準法32条が定める1日及び1週間の労働時間の上限を、ある特定の1日又は1週間において超えることがあっても、一定期間において、平均して週の法定労働時間を超えなければ、労働基準法32条に違反しないことを定める制度です。

 つまり、変形労働時間制を定める場合、法定労働時間を超える労働があっても、割増賃金の支払義務を負わないことになります。

2 変形労働時間制の趣旨

 変形労働時間制は、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、会社と従業員が工夫しながら労働時間の配分等を行い、これによって全体としての労働時間の短縮を図ろうとすることを目的としています。

 交代労働制を採用する会社や業務に繁閑の波がある業種で、変形労働時間制の活用が想定されています。

3 変形労働時間制の種類

 労働基準法では変形労働時間制は、以下の3種類を予定しています。

①1か月単位の変形労働時間制(労働基準法32条の2)

 1か月以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

②1年単位の変形労働時間制(労働基準法32条の4、32条の4の2)

 1ヶ月を越え1年以内の一定の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間以下の範囲内において、特定の日又は週に1日8時間又は1週40時間を超え、一定の限度で労働させることができる制度です。

③1週間単位の変形労働時間制(労働基準法32条の5) 

 1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、 労使協定により、1週間単位で毎日の労働時間(上限:10時間/日)を弾力的に定めることができる制度です。

変形労働時間の注意点

休日手当や深夜手当を支払う必要があること

 変形労働時間制を導入したとしても、休日労働規制や深夜労働規制の適用はあるため、休日労働や深夜労働があれば、休日や深夜の割増賃金(休日手当や深夜手当)を支払う必要があります。

労使協定の締結や就業規則等で定めることが必要であること

 変形労働時間制を導入するためには、労使協定の締結や就業規則等で定めることが必要となります。労働基準法は、変形労働時間制の導入に関する要件や手続を規定しているため、労働基準法に従った対応が必要となります。

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年少者や妊産婦には変形労働時間制の適用に一定の制限があること

 年少者(18歳未満)や妊産婦については、変形労働時間制の適用に一定の制限があるため、注意する必要があります。

変形労働時間を導入していても、裁判において、変形労働時間制が否定される可能性があること

 変形労働時間制度を導入し、その制度が適用されることを前提として、残業代を支払っていなかったとしても、裁判手続において、変形労働時間制度が否定され、残業代の請求が肯定されることもあります。

 以下では、変形労働時間制の適用を否定した裁判例を紹介します。

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裁判例ー東京地判平成27年12月11日(変形労働時間制を否定)

1 事案の概要

 本件は、被告の従業員であった原告(従業員)が、変形労働時間制を適用する旨記載された被告(会社)の就業規則は、従業員に周知されていなかったと主張し、被告に対して、未払賃金及び遅延損害金の支払、そして、未払割増賃金と同額の付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 判旨

・「被告の就業規則28条2項(2)は、「社員の勤務時間計算の起算日は、平成23年5月9日とします。」と規定しており、同規定は変形労働時間制の変形期間の起算日を毎月9日と定めるものと認められるから、被告が行っていた毎月1日を起算日とするローテーション表による労働時間の特定方法は同規定に反するものであり、仮に被告が毎月末日までに翌月分のローテーション表を作成していたとしても、翌々月1日から8日までの労働時間は特定されていないから、変形期間全てにおける労働時間が特定されていないことになる。」

・「被告の就業規則には、変形労働時間制における各勤務の始業終業時刻及び休憩時間が定められているものの、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法等は定められていない。被告総務部作成の書面(乙1の2)には、ローテーション表作成の注意事項として、1か月の労働時間、出勤日及び休日、各月の勤務割の組合せの例等が記載されているが、上記文書は被告の内部文書とされており(証人B)、同文書が就業規則と一体のものとして従業員に周知されていたとは認められない。」

・「被告の就業規則28条2項(1)は、「会社は業務の都合等、必要ある場合は前項の時間配置を変更することがあります。」と規定しており、被告が業務の都合によって任意に労働時間を変更することを認めている。」

・「以上によれば、被告が採用する変形労働時間制は、変形期間における各日、各週の労働時間の特定を欠き、変形労働時間制適用の要件を満たさないものであるから、原告に変形労働時間制が適用されるとの被告の主張は採用することができない。」

3 ポイント

 被告の就業規則には、変形労働時間制を適用する旨の記載があるが、以下のポイントを踏まえたうえで、被告が採用する変形労働時間制は、原告に適用されないとしている。

 ・就業規則上、変形労働時間制の変形期間起算日を平成23年5月9日と規定しているが、実際には被告は毎月1日を起算日として、勤務ローテーション表を作成している。

 ・被告総務部作成の書面が、就業規則と一体のものとして、従業員に周知されていたとは認められない。

 ・被告が業務の都合によって任意に労働時間を変更することを認めている。

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裁判例ー名古屋地判令和4年10月26日【日本マクドナルド事件】(変形労働時間制を否定)

1 事案の概要

 本件は、被告(日本マクドナルド株式会社)との間で労働契約を締結していた原告(従業員)が、被告に対し、未払割増賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 判旨

 ・「被告は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。」

 ・現に原告が勤務していた店舗において、店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることを考慮すれば、「被告が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない。」

 ・全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は就業規則に基づくものであるという被告の主張に対し、「労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない。加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(労働基準局長通達昭和22年9月13日基発17号)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することもできない。」とし、被告の主張を否定している。

・「被告の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。」

3 ポイント

 以下のポイントを踏まえたうえで、被告が採用する変形労働時間制は、原告に適用されないとしている。

 ・被告の就業規則において、勤務シフトの規定はあるが、各店舗ごとに独自の勤務シフトを使って勤務割を作成している。

 ・各店舗ごとに勤務割が作成されているということは、就業規則によって労働時間を具体的に特定しているとはいえない。

裁判例ー東京地判令和4年10月28日(変形労働時間制を否定)

1 事案の概要

 本件は、被告(Y株式会社)と労働契約を締結した亡X1(以下「X1」という。)の訴訟承継人である原告(従業員X1の子)が、被告に対し、X1が就労した平成30年3月から平成31年3月までの期間(本件請求期間)における時間外労働及び休日労働に対する割増賃金並びに交通費の不払いがある旨を主張し、未払割増賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

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2 判旨

 ・「 1か月単位の変形労働時間制を就業規則により定める場合には、就業規則において、1か月以内の変形期間を定めたうえ、変形期間における各日、各週の労働時間を特定する必要があり、業務の実態から月ごとに勤務割表を作成する必要がある場合には、労働者に対し、労働契約に基づく労働日、労働時間数及び時間帯を予測可能なものとするべく、就業規則において、少なくとも、各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及び周知の方法を記載する必要があると解される。」

  ・「本件就業規則40条1項は、「会社は1か月を平均して1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内で、1日につき8時間又は1週間につき40時間を超えて勤務させることができる。」、同2項は、「前項の起算日は毎月1日とする。」旨記載するのみであり」、「変形労働時間制をとる場合の各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及び周知の方法の記載を全く欠くものであるから、労基法32条の2第1項の要件を満たすものとはいえない。」

 ・「1か月単位の変形労働時間制の適用されるためには、1か月以内の変形期間中の週平均労働時間が法定労働時間の範囲内であることを要するところ(労基法32条の2)、被告も自認するとおり、シフトを作成する時点で、あらかじめ変形期間中の週平均労働時間が法定労働時間である40時間を超える勤務になることを許容していたのであるから」変形労働時間制の適用は認められない。

 ・「被告は、X1に対し、変形労働時間制の適用を前提に1週間に40時間又は1日8時間を超えて労働させることはできず、X1が1週40時間又は1日8時間を超えて労働した場合は、労基法37条1項の割増賃金の支払義務がある。」

3 ポイント

 以下のポイントを踏まえたうえで、被告が採用する変形労働時間制は、原告に適用されないとしている。

 ・被告の就業規則には、変形労働時間制を採用する場合の、下記①~④の情報の記載が全くない点

  ①始業及び終業時刻

  ②休憩時間

  ③勤務の組合せの考え方

  ④勤務割表の作成手続及び周知方法

 ・被告がシフトを作成する時点で、変形期間中の週平均労働時間が法定労働時間である40時間を超える勤務になることを認識していた点

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弁護士による変形労働時間制への対応

 変形労働時間制を採用していたとしても、その手続に不備があったり、その運用に問題がある場合、従業員から変形労働時間制の適用を否定され、割増賃金(残業代)を請求されることがあります。

 変形労働時間制の適用を否定して、割増賃金(残業代)を安易に支払ってしまうと、他の従業員からも同様の請求が行われ、残業代等の支払金額が膨大となってしまうことがあり、重大なリスクとなります。

 弁護士は、労働法や紛争・訴訟対応に精通しており、変形労働時間制に起因するトラブル・紛争を適切に解決します。

従業員への説明・面談に向けたアドバイス・サポート

 変形労働時間制を導入するにあたって、また、従業員から説明を求められたりする場合、変形労働時間制の趣旨や内容を正確に説明することによって、従業員の不安感や不満が解消されます。

 弁護士は、従業員への説明・面談に向けたアドバイス・サポートを行います。

従業員側弁護士との代理交渉

 従業員(労働者)が弁護士に依頼し、従業員側弁護士と交渉する必要が発生する場合があります。

 経営者にとっても、人事担当者にとっても、弁護士と交渉する経験が少なく、また、従業員側弁護士も労働法や紛争・訴訟に精通している可能性も高いため、その対応を間違ってしまうと、重大な不利益を被ってしまうことがあります。

 弁護士は、会社の代理人として、会社の利益を最大化するという視点から従業員側弁護士との間で交渉を行います。

労働組合対応

 多くの会社経営者や役員の方にとって、団体交渉を経験した人は少なく、また、団体交渉の準備・参加について、心理的にも物理的にも過度な負担がかかります。

 そのため、紛争・訴訟や労働法に精通する弁護士に団体交渉対応を依頼することによって、経営者の皆様の負担を軽減し、団体交渉を有利に進め、労働問題の適切な解決を目指すことができます。

 労働問題を深刻化させないためにも、団体交渉申入書を受け取ったら、早めに労働法の専門家である弁護士に相談することを検討ください。

弁護士によるサポート内容

・労働組合との窓口対応

・団体交渉申入書に対する回答書の作成

・団体交渉への立会・参加

・団体交渉の準備・資料作成サポート

・和解書(合意書)の作成

・団体交渉に向けたアドバイス

・不当労働行為の対応

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労働審判や労働裁判の対応

・会社の代理人として期日の対応

 代理人として労働審判や労働裁判に対応し、会社の負担を軽減しつつ、法律の専門家として適切な対応を行います。また、労働審判や労働裁判を有利に進めるために、労働審判・労働裁判への出席者や期日における回答内容にアドバイスを行います。

・期日へ出席

 労働審判や労働裁判の期日に代理人として出席し、企業側に有利な解決となるように労働審判委員会や裁判所との間で適切にコミュニケーションを行います。この期日において、法的判断を踏まえて、会社の考え方を整理し、主張します。

・主張書面/準備書面の作成や証拠の準備・選別

 企業の皆様の意向を踏まえて、法律の専門家として適切な主張を書面(答弁書や主張書面・準備書面)で作成し、労働審判や労働裁判を有利に進めるために証拠を準備し、選別します。

 労働審判や労働裁判では、当事者が提出した主張や証拠に基づいて原則として判断されるため、主張や証拠の準備・選別はとても重要な作業です。

変形労働時間制の対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。

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Last Updated on 2024年2月21日 by roumu-osaka.kakeru-law

この記事の執筆者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。

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