就業規則とは?
就業規則とは、労働条件や職場内の規律を定めた職場のルールです。常時10人以上(*)の労働者を雇用する事業者(会社)は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければならないとされています(労働基準法89条)。
就業規則の主な内容
①始業・終業の時刻、休憩時間及び休暇
②賃金/給与に関する事項
③退職/解雇事由に関する事項
④安全及び衛生に関する事項
⑤服務規律や懲戒処分の事由、内容及び手続
*「常時10人以上」とは、常態として10人以上を雇用しているという意味です。繁忙期のみ一時的に10人以上となる場合は含まれませんが、通常は10人以上を雇用しており、一時的に10人未満となる場合は含まれます。
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まず、就業規則がなければ、労働条件や職場内の規律を統一的・画一的に定めることができないため、すべて従業員との間で個別に合意しなければなりません。就業規則があり、従業員にも周知されていた場合、就業規則で定める内容が労働契約の内容にもなるため、労働トラブル・紛争を回避できることがあります(労働契約法7条1項本文)。
また、就業規則がなければ、懲戒処分や休職のための手続が規定されておらず、どのような要件や手続において懲戒処分や休職を行うことができるか不明となり、懲戒理由や休職理由が発生したとき、適切な判断ができないこともあります。
しかも、就業規則には従業員が守るべきルール(競業避止義務、秘密保持義務、副業・兼業のルール、職務専念義務)が規定されることが通常で、就業規則がないということは、これらの重要なルール(服務規律)が会社に存在しないということになります。問題社員(モンスター社員)が迷惑行為や不適切な言動を行ったとき、ルールがないという理由で対応が難しくなることがあります。
また、問題社員(モンスター社員)の場合、独自の価値観を有していることもあり、ルールが存在しないと、問題行為について、何が問題が理解してもらえないこともあり、説得・対話が難しくなる場合もあります。
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さらに、就業規則がないということは、労働条件や職場内の規律を定めた職場のルールがないため、安心して働くことができないという従業員も一定数存在し、優秀な人材を採用できなかったり、定着してもらえないケースもあります。現代では、就業規則は、会社であれば、当然に存在するという認識が広がっていることに注意する必要があります。
従業員の中には「就業規則がない=雇用管理が十分にできていない」と考える人もいるため、会社に対する信頼・信用を確保するためには、就業規則の作成・届出義務がない会社でも就業規則の作成・届出を検討するべきです。
*労働トラブル・紛争が労働裁判に発展する場合、裁判所から、まず就業規則を提出するように促されます。就業規則がない場合、労働裁判における争点整理に労力や時間が必要となったり、裁判所の判断が難しくなる場合もあります。
就業規則がない場合は違法になる?
常時10人以上の労働者を雇用する事業者(会社)は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければならないとされています(労働基準法89条)。
そのため、就業規則を作成・届出すべき会社が就業規則の作成・届出を怠ると、罰則(30万円以下の罰金)が適用される可能性があります(労働基準法120条1号)。
就業規則を作成したのに届出していない場合は違法になる?
就業規則の作成・届出義務がある会社が就業規則を作成したのに、労働基準監督署への届出をしていない場合も罰則の対象となり(労働基準法89条、120条1号)、違法な状態といえます。
就業規則を作成しただけでは労働基準法を遵守した状態ではないため、就業規則の届出を忘れないようにしなければなりません。
また、就業規則の作成だけではなく、就業規則の必要的記載事項(労働基準法89条各号)を変更した場合も届け出る義務があるので、注意する必要があります。
就業規則の必要的記載事項(労働基準法89条各号)
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
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就業規則を整備するために必要なステップ(手順)
中小企業や規模の小さな会社では就業規則を準備する余裕がないという会社も多いと思われます。もっとも、就業規則がない場合、会社にもデメリットやリスクもあるため、以下のステップを踏み、就業規則の整備を検討してみてはいかがでしょうか?
①雇用契約書や誓約書の整備
就業規則を作成する前提として、雇用契約書や誓約書が整備されていることが必要です。
雇用契約書や誓約書を整備する中で、会社にとって重要なルールや規律を確認できるため、まずは、雇用契約書や誓約書のひな形を整備することをおススメしています。
就業規則は、比較的、膨大な量となり、いきなり就業規則の整備から始めると、頓挫してしまうケースもあります。
まずは、雇用契約書や誓約書の整備の中で、重要な労働条件や職場のルールを検討し、就業規則を作成するために必要な土台を固めていきましょう。
②就業規則(ひな形)のカスタマイズ
専門家(社労士・弁護士)から就業規則や給与規定のひな形を提供してもらい、それぞれの会社の慣行や職場ルールに適した独自の就業規則を作成します。就業規則のひな形は存在しますが、会社ごとに独自のカスタマイズが必要です。就業規則は1日や2日で作成できるものではありません。
就業規則を作成する目的やスケジュールを確認し、計画的に検討することが大切です。また、助成金申請のためだけに就業規則を作成する会社もありますが、万が一、労働トラブルや労働紛争が発展すると、形式的に作成したはずの就業規則に従い、処理していかなければならないこともあるため、予期しない不利益が会社に生じることもあります。会社の実態や目的に即して、独自の就業規則の作成を推奨します。
会社のニーズや実態に即していない就業規則は、会社に不利益な結果を生むこともあるため、専門家に任せるとしても、会社で、しっかりと就業規則の内容を検討し、カスタマイズする必要があります。このプロセスによって、会社のルールが従業員にも周知され、会社や事業、社員の持続的な成長につながります。
③労働法や雇用契約等との整合性のチェック
就業規則のひな形を独自にカスタマイズした後、労働法に違反する内容となっていないか、また、労働紛争・トラブルに対応できる内容となっているかチェックする必要があります。また、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。」(労働契約法12条)とされているため、労働契約との整合性も検討する必要があります。つまり、個別の労働契約の内容が就業規則の内容を下回っていたとしても、就業規則の内容が優先されてしまいます(就業規則の最低基準)。就業規則と雇用契約の内容が矛盾してしまい、予期せぬ不利益を会社が被ることもあるため、注意しなければなりません。
就業規則を作成すれば、必ず会社に有利になるわけではないので、就業規則の内容について、労働法や雇用契約等の視点から、十分に精査する必要があります。
このチェックに際して、労働法や紛争・訴訟に精通する弁護士であれば、労働法に違反していないか、また、紛争・訴訟が発生したとき、対応できるかという視点から、チェック・精査が可能です。
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④就業規則の周知
就業規則を作成しただけでは従業員との関係で効力が生じず、従業員に対して周知する必要があります(労働基準法106条)。
合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させている場合、就業規則の内容は労働契約の内容に含まれます(労働契約法7条)。
就業規則を作成した後、労働者に就業規則を周知することを忘れないようにしましょう。
⑤就業規則の届出
就業規則を作成すれば、労働基準監督署に届け出る必要があります。届出方法は、労働基準監督署への持参や郵送に加えて、電子申請による方法も認められています。
⑥定期的な見直し
就業規則を作成した後も、定期的に見直し、会社の理念や目的に沿った就業規則に仕上げていく必要があります。最初から、完璧な就業規則を作成することは難しく、労働トラブル・紛争が起きる中で、就業規則(職場のルール)を見直していく必要があります。
就業規則は、作成したら、それで終わりではなく、業務効率や生産性の向上を目指すとともに、従業員が働きやすい職場を作っていくためにも、定期的な見直しが必要です。
また、最近では、毎年のように重要な労働法の改正が行われることもあるため、労働法の改正に対応した就業規則の見直しも必要となります。
弁護士による就業規則の作成・変更
就業規則の作成は、従業員から信頼を獲得し、無用なトラブル・紛争を回避して、事業を継続・発展させていくためには必要不可欠です。
弁護士は、紛争・訴訟対応や労働法に精通しており、就業規則の作成・変更について、以下の対応が可能です。継続的な法律サービスである顧問契約サービスでも、就業規則の作成・変更に対応しています。
会社の実情や特性を理解し、より現実的で柔軟なアドバイスを受けるためにも、就業規則の作成サービスでは、顧問契約の締結を推奨しています。
①就業規則の作成・チェック
②就業規則に関するトラブル・紛争対応
③従業員との労働裁判や労働審判への対応
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就業規則の作成・変更については弁護士にご相談ください
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Last Updated on 2024年9月30日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の中小企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の中小企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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