従業員に対する懲戒処分とは?懲戒処分の種類や注意点を弁護士が詳しく解説!

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従業員に対する懲戒処分とは?懲戒処分の種類や注意点を弁護士が詳しく解説!

懲戒処分にまつわる相談例

①懲戒処分の種類に悩んでいる。

②懲戒処分の手続を知りたい。

③懲戒解雇が無効と言われないか心配である。

懲戒処分とは?

 懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反行為(服務規律違反、業務命令違反等)に対する制裁を目的として、従業員に対して、雇用契約上の不利益処分を課すことをいいます。

 懲戒処分は、服務規律や企業秩序を維持するために必要不可欠な制度であり、企業の持続的な成長を実現するためにも、懲戒権の行使を検討しなければならないこともあります。

 その一方で、懲戒権の行使は、従業員に対する不利益処分となるため、その行使に際して、労働トラブルや労働紛争が発生するきっかけにもなります。

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懲戒事由の具体例

 懲戒処分が有効と認められるためには、懲戒事由の存在が必要です。就業規則において、懲戒事由が定められていますが、以下の言動について、懲戒事由として問題となることが多くあります。

①経歴詐称

②無断欠勤

③遅刻

④職場離脱

⑤業務妨害

⑥横領・背任

⑦会社物品の窃盗・損壊

⑧顧客情報の持ち出し

⑨ハラスメント(パワーハラスメント、セクシャルハラスメント)

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懲戒処分の種類と注意点を解説!

 従業員が企業秩序違反行為を行ったとき、普通解雇・配転・損害賠償請求・昇給や昇格の低査定等の通常の方法もあります。

 もっとも、通常の企業では、懲戒処分について、以下の種類を用意しています。注意点とともに、懲戒処分の種類を解説します。

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戒告・けん責

 将来を戒める処分であり、始末書の提出を伴わないものを「戒告」といい、始末書の提出を伴うものを「けん責」といいます。懲戒処分の中では、比較的、軽い処分といえます。

 始末書の提出を求めたが、始末書を提出しなかったとき、さらに懲戒処分できるかどうかについては、別途検討する必要があるため、注意する必要があります。

減給 

 賃金額から一定額を差し引くことをいいます。減給は労働基準法上の制約があるため、労働基準法のルールを確認して、そのルールに従う必要があります(労働基準法91条)。

労働基準法91条(制裁規定の制限)

 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

降格

 役職・職位・職能資格を引き下げることをいいます。降格は、企業の人事権の行使として行われることがありますが、懲戒権の行使として行われることもあります。

 懲戒処分として降格を行うためには、就業規則に定めておく必要があるため、注意が必要です。

出勤停止

 従業員による労務提供について、一定期間、禁止することをいいます。出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤続年数にも算入されないと定めているケースが多いといえます。

 出勤停止の期間は、実務的には、1週間以内や10日程度とされることが多いです。

 出勤停止は、懲戒処分として行われるものと、業務命令として行われるものがあり、両者を明確に区別する必要があります。

 業務命令としての出勤停止(自宅待機)は、解雇や懲戒処分を行うかどうかを調査・判断することを目的としてます。この期間中は、賃金を支払う必要があるかどうかは、別途検討する必要があり、原則として賃金を支払わなければなりません。

諭旨退職

 退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求めることをいいます。この求めに応じない場合、懲戒解雇を行うという取扱いを行う企業が多くあります。諭旨退職でも、不利益処分であることは変わりがないため、その有効性が裁判で争われることもあります。

懲戒解雇

 企業秩序違反行為に対する制裁としての解雇をいいます。懲戒解雇は、懲戒処分の極刑と言われており、裁判所では、その有効性が慎重に判断される傾向にあります。

 懲戒解雇では、解雇予告や予告手当の支払なしで即時になされることがありますが、労働基準法における即時解雇(労働基準法20条1項但書)の要件を満たす必要があります。

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懲戒処分を行う際の注意点

従業員に対する不利益処分であることー合理的な理由と相当性ー

 懲戒処分は、会社からすれば、企業の秩序や利益を維持するためには必要不可欠な制度といえます。

 その一方で、従業員にとって、懲戒処分が課されると、重大な不利益を被ることになるため、従業員を保護するため、一定の制約が課されており、無条件に許されるわけではありません。

 具体的には、懲戒処分について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒権の濫用として無効になります(労働契約法15条)。

 そのため、懲戒処分の種類や手続を間違えてしまうと、懲戒処分が無効と判断されることもあるため、注意する必要があります。

 特に、懲戒行為が認められるとしても、懲戒行為の性質や態様に照らして、懲戒処分の種類が重すぎる場合、相当性を欠くことを理由に無効となる場合もあります。

 また、本人に弁明の機会を与えずに懲戒処分を行うと、相当性を欠くと判断される場合もあるため、本人に弁明の機会を与える等適正な手続を踏む必要があります。

労働契約法15条(懲戒)

 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

就業規則に懲戒事由と手段を定めること

 就業規則では、懲戒処分の種類や程度を定めなければならないとされており(労働基準法89条9号)、通常の会社では、就業規則において、懲戒事由や手段を定めています。

 つまり、懲戒処分を行うためには、就業規則において、懲戒処分の種類や手段を定めておく必要があります。

 懲戒処分を行うに際しては、就業規則をしっかりと確認して、進める必要があります。経営者や担当者の直感や感覚で行うことを回避する必要があります。就業規則の定めを無視すると、懲戒処分が無効になるリスクもあります。

1つの違反行為に対して2回の懲戒処分を行うことができないこと(一事不再理の原則)

 懲戒処分は、従業員の企業秩序違反行為(服務規律違反、業務命令違反等)に対する特別の制裁であり、罪刑法定主義に類似する原則が適用されると考えられているため、1つの違反行為に対して2回の懲戒処分を行うことができないと解釈されています(一事不再理の原則)。

 従業員の企業秩序違反行為(服務規律違反、業務命令違反等)は、突然発覚することもあり、速やかな対応や判断を求められることもありますが、急ぐあまりに懲戒処分の種類を間違えて、再度、懲戒処分を課す必要になったとき、一事不再理の原則を理由に懲戒処分が無効とされてしまうことがあります。

 懲戒処分を行う際には、慌てずに懲戒処分の内容をしっかりと調査した上で、外部の専門家の意見を聞きながら、判断する必要があります。

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懲戒解雇と退職金の不支給

 懲戒解雇を行ったからといって、直ちに退職金の不支給が適法とされるわけではありません。退職金の全部又は一部の不支給を行うためには、退職金規定等に明記する必要があります。

 また、懲戒事由がある場合、退職金の減額や不支給を定めることも適法ですが、退職金の全部又は一部の不支給を行うためには、退職金の賃金の後払い的性格及び功労報償的性格を考慮すれば、労働者のそれまでの功績を失わせるほどの重大な背信行為がある場合などに限られます。 

 法的には、懲戒解雇=退職金不支給と考えるのではなく、個別に検討する必要があります。

東京高判平成151211日(小田急電鉄事件)【退職金不支給を無効】

1 事案の概要

 度重なる電車内での痴漢行為を理由に被控訴人会社から懲戒解雇された控訴人が、解雇手続には瑕疵があるし、事案の程度等からして重すぎる処分であるとして、解雇は無効であり、また、懲戒解雇に伴い退職金を不支給とするには、長年の功労を消し去るほどの不信行為が必要であると主張した事案である。

2 本判決

(1)懲戒解雇を有効と判断

 「控訴人は、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、控訴人は、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止及び降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいとの始末書(乙6)を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。このような事情からすれば、本件行為が報道等の形で公になるか否かを問わず、その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、それはやむを得ないものというべきである。」

(2)退職金の全額不支給ではなく、一部支給すべきと判断
  • 「このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とする には、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反すると考えられる。」
  • 「もっとも、退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が、上記のような強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえない。そうすると、このような場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。」
  • 「本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、控訴人の過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去の被控訴人における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割である276万2535円であるとするのが相当である。」

弁護士による懲戒処分対応

雇用契約書・誓約書・就業規則の作成サポート

 懲戒処分を行うためにも、雇用契約書、誓約書や就業規則において、懲戒事由を明確に定めておくことが必要です。また、懲戒事由が会社にとって重大な影響を与えることを明確にするためにも、雇用契約書、誓約書や就業規則の整備が必要不可欠です。

 弁護士は、企業(経営者)の立場で、労働条件の整備(雇用契約書・誓約書・就業規則の作成)をサポートします。

懲戒処分に向けたアドバイス

 弁護士は、会社(経営者)の立場に立って、法的な視点から、懲戒処分に向けて適切な手続を踏むことができるようにアドバイスを行います。

 また、会社(経営者)が懲戒処分の判断を行うに際して、リスクの種類や内容を分析し、アドバイスを行います。

 特に、懲戒処分を行う場合、事実関係の確定や事後的な紛争に備えた証拠の確保も必要であり、関係者へのヒアリングや懲戒処分委員会への立会も含めて、弁護士はサポートできます。

 弁護士によるサポートによって、適切な手続を行いながら、リスクを踏まえた判断・アクションが可能となります。

懲戒処分通知書の作成

 弁護士は、会社(経営者)の立場に立って、法的な視点から、懲戒処分通知書の作成を行います。懲戒処分通知書では、懲戒理由や就業規則の根拠条文を具体的に記載する必要があり、労働法を中心とする専門的な知識や経験が必要となります。

労働トラブルの窓口対応/代理交渉

 対象従業員との間で懲戒処分の有無や内容を含めてトラブルとなる場合、ケースによっては、弁護士に窓口対応や代理交渉を依頼することも検討するべきです。

 特に、労働者側代理人(弁護士)が就任した場合や労働組合との団体交渉が必要となる場合には、弁護士によるサポートが有効かつ効果的です。

 会社(経営者)の意向を尊重しながら、民事裁判等重大なリスクに発展する前に解決できるように最善を尽くします。

コンプライアンス研修の実施

懲戒行為を行ってしまった社員の中には、問題点を十分に理解できていない社員や知らなかった社員もいます。そのため、懲戒行為を事前に予防するため、また、再発を防止するためには、コンプライアンス研修やパワーハラスメント(パワハラ)予防研修が有効な手段となります。

これらの研修は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環ともいえ、コンプライアンスが強く求められる現代社会において、多くの企業が取り組んでいます。

また、その取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージを向上できます。コンプライアンス研修やパワーハラスメント(パワハラ)予防研修は、弁護士に依頼できますので、是非、ご相談ください。

懲戒処分対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください

 弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

 顧問契約では、問題社員対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争(解雇、残業代、ハラスメント等)等の労働問題対応を行います。

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Last Updated on 2024年10月17日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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