
懲戒解雇が問題となる具体的なケース
①従業員(労働者)によって顧客情報が持ち出され、ライバル会社に流出した。
②経理担当社員による横領行為が発覚した。
③パワーハラスメントを繰り返す従業員に対して注意や指導を行ったが、改善されなかった。
④日常的に会社の備品を持ち出して、第三者に転売し、ギャンブルに費消した。
⑤無断欠勤が繰り返された。
⑥重大な経歴詐称が発覚した。
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懲戒解雇とは?
会社は、規律違反や秩序違反に対する制裁として懲戒処分を科すことが可能ですが、懲戒解雇は懲戒処分(制裁)として行われる解雇であり、懲戒の中で最も重い処分です。懲戒処分において、従業員(労働者)に対する極刑とも言われることがあります。
懲戒処分の具体例
訓告→戒告→減給→出勤停止→論旨解雇→懲戒解雇
懲戒解雇事由(典型例):
①業務における不正行為
②情報漏洩、営業秘密の不正取得・使用
③重大な業務命令違反
④経歴詐称
⑤暴力行為、脅迫行為、特に悪質なハラスメント行為
⑥繰り返し行われる無断欠勤や無断早退
懲戒解雇と退職金不支給
懲戒解雇とともに、退職金を不支給とすることがよくあります。ただ、懲戒解雇事由があれば、当然に退職金不支給が認められるわけではありません。懲戒解雇の有効性と退職金不支給の適法性は別途検討する必要があります。具体的には、退職金不支給が適法といえるためには、懲戒解雇が有効であるだけでは足りず、懲戒事由が長年の功労を抹消してしまう程度に著しく重大なものである必要があります。
懲戒解雇の要件
懲戒処分は、懲戒処分の懲戒処分の種別や事由が就業規則に定められていることを前提に、当該懲戒に係る従業員(労働者)の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、①客観的に合理的理由があり、②社会通念上相当でなければなりません(労働契約法15条)。
特に、懲戒解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分(極刑)であり、従業員にとっても再就職が困難となったり、退職金が不支給になったり、重大な不利益を与えるため、裁判になった場合、懲戒解雇の有効性は、特に厳しく判断されます。
例えば、東京地判平成28年2月19日(平成27年(ワ)5288号・平成27年(ワ)5299号)では、懲戒解雇が「最も重い懲戒処分で、労働者を雇用関係から排除し、その名誉にも重大な悪影響を及ぼし、再就職の重大な障害にもなる懲戒解雇の性質に照らしても、懲戒解雇に値する懲戒事由は相当に重大なものでなければならず、懲戒解雇に値する懲戒事由は、行為の性質及び態様その他の事情に照らして、その悪質性が著しく、雇用関係における信頼関係を根本的に破壊する、又は労働者を制裁として雇用関係から排除しなければ企業秩序の回復は望めない程度のものであることを要すると解すべきである」とし、懲戒解雇の有効性を厳格に判断しています。
ポイント① 懲戒解雇事由の有無は慎重に判断されます。
ポイント② 懲戒解雇事由が重大な企業秩序違反といえる必要があります。
ポイント③ 懲戒解雇の選択がやむを得ず、社会通念上相当といえる必要があります。
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懲戒解雇の手続
1 就業規則で懲戒処分の種別や事由を定めておくこと
最判平成15年10月10日(フジ興産事件)では、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ 就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」とされており、懲戒解雇を行う ためには、就業規則において、懲戒処分の種別や事由を定めておくことが必要です。
実務的には、就業規則に定める懲戒事由に該当するかどうか判断しづらいことがありますが、ほとんどの就業規則では、包括条項(例えば、「前各号に準じる程度の行為がある時」)を規定していることが多く、包括条項によって、基本的には対応可能です。
2 従業員本人に対して弁明の機会を付与することー適正手続の必要性
懲戒解雇に際して、就業規則で定める手続(弁明の機会の付与、懲罰委員会の審議)を行わず、 懲戒解雇を行うと、重大な手続違反として、懲戒解雇の相当性を欠き、懲戒解雇の濫用として無効となる可能性があります。
就業規則に懲戒解雇の手続を定めていないとしても、従業員本人に対して弁明の機会を付与せず、懲戒解雇を行うと、相当性を欠くと判断される可能性があるため、従業員本人に対して弁明の機会を付与し、言い分(反論)を確認した上で懲戒解雇を行うことが望ましいといえます。また、弁明の機会を与えず、懲戒解雇を行うと、懲戒解雇の対象となる従業員(労働者)も不公平感を強く感じ、裁判等に発展する可能性も高まります。
懲戒解雇の有効性を担保するためにも、また、裁判手続を回避するためにも、適正手続の必要性を忘れてはいけません。
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3 懲戒解雇の場合、即時解雇ができるか??
即時解雇とは、解雇予告や予告手当の支払いをせずに即時に解雇を行うことをいいます。
労働基準法では、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない」(労働基準法20条1項本文)とする一方で、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない」(労働基準法20条1項但書)としています。
つまり、解雇では、30日前の予告又は予告手当の支払が原則として求められていますが、労働者の帰責事由に基づく解雇では30日前の予告又は予告手当の支払は不要とされています。
ここで注意が必要なのは、懲戒解雇事由があれば、当然に「労働者の責に帰すべき事由」が認められるわけではありません。
また、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇でも、即時解雇する場合、労働基準監督署長による除外認定も必要となります(労働基準法20条3項)。
「労働者の責に帰すべき事由」の具体例(重大又は悪質なものに限る。)
①原則として、極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑事犯に該当する行 為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事 件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に 又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外 で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく事業場の名誉もし くは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるもの と認められる場合。
②賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの行
為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するも の、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
③雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査 に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
④他の事業場へ転職した場合
⑤原則として二週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。また、日常的に出勤不良や欠勤が続いており、数回にわたって注意を受けても改めない場合
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懲戒解雇が有効と認められた裁判例ー東京地判平成11年3月26日(ソニー生命保険会社事件)
①事案の概要
原告(従業員・ライフプランナー)が、業務に使用するために被告(会社)から貸与されていた被告所有のパソコンを三回にわたり質入れしたあげく、質流れとなってした行為について、懲戒解雇事由「会社の金品等を費消又は流用したとき」に該当することを理由として、懲戒解雇した事案である。
②判旨
「被告のライフプランナーは、生命保険会社の営業社員であり、顧客から保険料等金銭を預かることも業務に含まれることからすれば、金銭に対しては、とりわけ潔癖性が要求されるのであって、そのことからすれば、被告の損害額が約二〇万円とさして大きくなく、質入れによる原告の利得がわずかであったとしても、見過ごしにはできない非行であることは否定できない上、パソコンを質入れしている期間、原告はパソコンを使用できず、被告の方針に反していたほか、業務上全く支障がなかったともいえず、原告の職務遂行態度に問題があることも否定できない。
また、貸与パソコンには、被告の機密情報や被告の開発したシステムがインストールされており、それらが外部に漏洩されることで被る被告の損害は計り知れない。前記のとおりパソコンにはセキュリティーが施されているとしても、そうしたセキュリティーが完全なものでないことは経験則上明らかであり、原告の行為によって、被告の機密情報等が外部に漏洩される危険があったことも否定できない。なお、原告は、この点に関して、ライフプランナーが携帯して被告外部に持ち出していることこそ危険であるかのような主張もするが、被告は従業員との信頼関係を前提として各従業員に対しパソコンを貸与しているのであって、第三者の手に渡ることとはその危険性は全く性質を異にしており、原告の主張は理由がない。
さらに、原告が、同僚が被告から貸与されていたパソコンを質出しするために、原告が貸与されていたパソコンを質入れしたのは前記のとおりであり、出来心でやむを得なかったとも主張する。同僚のためであれば、確かに原告自身が利得した場合に比較して悪質ではないとも言えるが、一方、同僚のパソコンを質出しするためというのは、同僚の被告に対する非行を隠蔽、助長する行為とも評価できるのであって、その動機においても決して許されるべきものではない。」
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懲戒解雇が無効とされた裁判例ー前橋地判平成29年10月4日(国立大学法人群馬大学事件)
①事案の概要
本件は、被告(国立大学法人)との間で労働契約を締結していた原告(大学教授)が、被告による原告のパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメント等を理由とする解雇は無効であると主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。
②判旨
「本件で提出された証拠によっては、被告が主張する非違事由のほとんどが懲戒事由に該当するものとは認められないものであり、原告の懲戒事由に該当するハラスメントの内容及び回数は限定的である。その上、原告のパワーハラスメントはいずれも業務の適正な範囲を超えるものであるものの業務上の必要性を全く欠くものとはいい難いし、また、原告のセクシュアルハラスメントが殊更に嫌がらせをする目的に基づいてなされたものとはいえないことからすれば、原告のハラスメント等の悪質性が高いとはいい難い。」
「原告は、過去に懲戒処分を受けたことがあることをうかがわせる事情はないし、本人ヒアリング結果(乙18)等において、ハラスメントの一部を認め、反省の意思を示していたことも認められる。そうすると、教職員に対する懲戒処分として最も重い処分であり、即時に労働者としての地位を失い、大きな経済的及び社会的損失を伴う懲戒解雇とすることは、上記懲戒事由との関係では均衡を欠き、社会通念上相当性を欠くといわざるを得ない。」
「以上によれば、本件懲戒解雇は、社会通念上相当とは認められず、被告の懲戒権又は解雇権を濫用するものであるから、無効であるといわざるを得ない。したがって、原告は、現在も被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるといえる。」
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懲戒解雇の注意事項・リスク
1 懲戒解雇が無効となる可能性があること
懲戒解雇の意思決定を行う際に、確実に懲戒解雇事由があると確信していても、裁判において、懲戒解雇が無効と判断されるリスクもあります。客観的証拠が十分でなかったり、懲戒解雇の手続が相当でない場合、会社の判断と裁判所の判断が異なることがあります。
そのため、懲戒解雇を行う場合、事後的に裁判所によって無効と判断される可能性があることを考慮し、懲戒解雇以外の選択肢についても検討しておくことがベストです。
2 懲戒解雇の効力が争われると、労力や費用の負担が増大すること
懲戒解雇の効力が裁判で争われると、労力や費用の負担が増大し、本来的に専念すべき業務に専念できず、業務全体の生産性の低下を招くこともあります。
特に、懲戒解雇の効力が問題となる労働裁判では、詳細な事実を主張する必要があるとともに、その事実を裏付ける客観的証拠が求められます。
懲戒解雇を行う場合、労力や費用負担が増大するリスク・可能性を考慮しておく必要があります。また、労働裁判に備えて、客観的証拠をしっかりと確保しておくことも必要です。
3 適正な手続を行うこと
懲戒解雇事由が明確であったとしても、本人に弁明の機会を付与しなかったり、就業規則に規定する手続を行わなかったりする場合、相当性を欠くことを理由に懲戒解雇が無効と判断されることがあります。
不正行為を理由とする懲戒解雇では、懲戒解雇事由が突然発覚することがあり、感情的になったり、緊急の判断を迫られる場合もありますが、冷静で、かつ、客観的な判断が求められます。適正な手続を怠らないように注意する必要があります。
弁護士による懲戒解雇サポート
弁護士は、懲戒解雇において、以下のサポートが可能です。労働法や紛争・訴訟対応に精通している弁護士だからこそ、できることが多くあります。
①懲戒解雇事由の調査サポート(関係者へのヒアリング、調査報告書の作成)
②懲戒解雇通知書の作成及び懲戒解雇手続に向けたアドバイス
③従業員(労働者)又はその代理人(弁護士)との交渉・窓口対応
④労働裁判(解雇無効)の代理人対応
④労働組合との団体交渉サポート
懲戒解雇については弁護士にご相談を
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Last Updated on 2025年1月29日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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