マタニティハラスメント(マタハラ)とは?~広島中央保健生協事件をもとにマタハラの判例傾向を解説~

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広島中央保健生協事件を弁護士が解説

広島中央保健生協事件・最判平成26年10月23日(以下「本判決」といいます。)は、軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことについて、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)9条3項に違反するかどうかが問題となりました。

マタニティハラスメント(マタハラ)とは?

 職場における妊娠、出産等に関するハラスメント(マタニティハラスメント/マタハラ)とは、上司又は同僚から行われる以下の①又は②をいいます。

①制度等の利用への嫌がらせ型

 その雇用する女性労働者の産前産後休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの

②状態への嫌がらせ型

 その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの

 もちろん、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて 業務上の必要性がある言動によるものについては、マタハラには該当しません。

参考条文

労働基準法653

 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)9条3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

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事案の概要

(1)当事者

 ア 被上告人(事業主)は、医療介護事業等を行う消費生活協同組合であり、A病院(以下「本件病院」)など複数の医療施設を運営している。

 イ 上告人(従業員)は、平成6年3月21日、被上告人との間で、理学療法士として理学療法の業務に従事することを内容とする期間の定めのない労働契約を締結し、本件病院の理学療法科(「リハビリ科」)に配属された。

 上告人は、平成16年4月16日、訪問リハビリチームから病院リハビリチームに異動するとともに、リハビリ科の副主任に任ぜられ、病院リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。

 その頃に第1子を妊娠した上告人は、平成18年2月12日、産前産後の休業と育児休業を終えて職場復帰するとともに、病院リハビリチームから訪問リハビリチームに異動し、副主任として訪問リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。

(2)被上告人が副主任を免ぜられた経緯

 ア 被上告人は、平成19年7月1日、リハビリ科の業務のうち訪問リハビリ業務を被上  告人の運営する訪問介護施設であるBに移管した。この移管により、上告人は、リハビ  リ科の副主任からBの副主任となった。

 イ 上告人は、平成20年2月、第2子を妊娠し、労働基準法65条3項に基づいて軽易  な業務への転換を請求し、転換後の業務として、訪問リハビリ業務よりも身体的負担が  小さいとされていた病院リハビリ業務を希望した。

   これを受けて、被上告人は、軽易な業務への転換として、同年3月1日、上告人をB  からリハビリ科に異動させた。その当時、同科においては、上告人よりも理学療法士と  しての職歴の3年長い職員が、主任として病院リハビリ業務につき取りまとめを行って  いた。

 エ 被上告人は、平成20年3月中旬頃、本件病院の事務長を通じて、上告人に対し、手  続上の過誤により上記異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していた  と説明し、その後、リハビリ科の科長を通じて、上告人に再度その旨を説明して、副主  任を免ずることについてその時点では渋々ながらも上告人の了解を得た。

    その頃、上告人は、被上告人の介護事務部長に対し、平成20年4月1日付けで副  主任を免ぜられると、上告人自身のミスのため降格されたように他の職員から受け取ら  れるので、リハビリ科への異動の日である同年3月1日に遡って副主任を免じてほしい  旨の希望を述べた。

   上記経過を経て、被上告人は、平成20年4月2日、上告人に対し、同年3月1日付  けでリハビリ科に異動させるとともに副主任を免ずる旨の辞令を発した(本件措置)。

(3)訴訟に至る経緯

 上告人は、平成20年9月1日から同年12月7日まで産前産後の休業をし、同月8日から同21年10月11日まで育児休業をした。

  被上告人は、リハビリ科の科長を通じて、育児休業中の上告人から職場復帰に関する希望を聴取した上、平成21年10月12日、育児休業を終えて職場復帰した上告人をリハビリ科からBに異動させた。

 その当時、Bにおいては、上告人よりも理学療法士としての職歴の6年短い職員が本件措置後間もなく副主任に任ぜられて訪問リハビリ業務につき取りまとめを行っていたことから、上告人は、再び副主任に任ぜられることなく、これ以後、上記の職員の下で勤務することとなった。

 上記の希望聴取の際、育児休業を終えて職場復帰した後も副主任に任ぜられないことを被上告人から知らされた上告人は、これを不服として強く抗議し、その後本件訴訟を提起するに至った。

(4) 争点

 労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことについて、副主任を免じた措置が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)9条3項に違反する無効なものかどうか。

(5) 本判決

 「均等法の規定の文言や趣旨等に鑑みると、同法9条3項の規定は、上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。」

 「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。」

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 「そして、上記の承諾に係る合理的な理由に関しては、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から、その存否を判断すべきものと解される。また、上記特段の事情に関しては、上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきものと解される。」

 「上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではない一方で、上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、上告人の意向に反するものであったというべきである。それにもかかわらず、育児休業終了後の副主任への復帰の可否等について上告人が被上告人から説明を受けた形跡はなく」、上告人は、「本件措置による影響につき不十分な内容の説明を受けただけで、育児休業終了後の副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま、本件措置の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れたにとどまるものであるから、上告人において、本件措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず」、上告人につき「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできないというべきである。」とした。

 「本件については、被上告人において上告人につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等は明らかではなく、前記のとおり、本件措置により上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で、上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、上告人の意向に反するものであったというべきであるから、本件措置については、被上告人における業務上の必要性の内容や程度、上告人における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り」、「均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。したがって、これらの点について十分に審理し検討した上で上記特段の事情の存否について判断することなく、原審摘示の事情のみをもって直ちに本件措置が均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断した原審の判断には、審理不尽の結果、法令の解釈適用を誤った違法がある。」

本判決のポイント

①均等法9条3項は強行規定であり、均等法9条3項に違反する措置は違法、無効となる。

②原則として、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、均等法9条3項が禁止する不利益な取扱いに該当する。

③もっとも、ア)労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき又はイ)業務上の必要性がある等均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、均等法9条3項が禁止する不利益な取扱いに該当しない。

実務上の留意点

 労働人口・生産年齢人口が減少し、ダイバーシティマネジメントが求められる現代において、社会や個人の価値観が次々と変化し、課題やリスクも複雑化・多様化しており、予期しない紛争やトラブルも生じます。

 企業が持続的に成長していくためには、働きやすい環境を作っていくことが重要であることを再認識し、マタニティハラスメント(マタハラ)がなくなるように取り組んでいかなければなりません。

 もし妊娠や出産に伴い軽作業への転換が業務上必要となる場合でも、労働者本人に有利又は不利な影響を丁寧に伝え、労働者の意向も考慮しながら、適切なコミュニケーションを行い、その処遇を検討しなければなりません。

 降格措置について、従業員の自由な意思に基づく承諾があるかどうか、また、均等法の趣旨や目的に実質的に反しないといえるような特段の事情があるかどうかは、企業側が主張立証責任を負担することを認識しなければなりません。

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  • 物流事業者向け「コンプライアンスから考える労務管理の重要性」(2016年)
  • 訪問看護サービス事業者向け「コンプライアンス研修~リスクを回避し、質の高いサービスを目指す~」(2022年)
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Last Updated on 2023年12月21日 by roumu-osaka.kakeru-law

この記事の執筆者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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