固定残業代制度の注意点とは?企業が知っておくべき固定残業代制度(対価性の要件)について、弁護士が解説します。

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固定残業代制度の注意点とは?企業が知っておくべき固定残業代制度(対価性の要件)について、弁護士が解説します。

残業代についてよくある相談

①固定残業代を導入していますが、従業員から残業代の支払を求められています。

②会社で固定残業代を導入したいです。

③就業規則に固定残業を記載すれば、固定残業代制度として有効ですか?

固定残業代制度とは?

固定残業代制度とは、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する各割増賃金(残業代)について、一定の金額(定額)をあらかじめ合意して残業代を支払う制度をいいます。みなし残業代制度ということもあります。

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固定残業代の種類

固定残業代の支払方法には、①定額手当制と②定額給制の2種類があるといわれます。

①定額手当制【いわゆる手当型】

基本給とは別に支払われる定額手当の支給による場合

②定額給制【いわゆる組込型】

基本給の中に通常の労働に対応する賃金と割増賃金とを併せて支払う基本給組込みの場合

固定残業代制度が無効と判断される場合のリスクやデメリット

固定残業代制度が無効と判断されると、固定残業代部分についても、割増賃金の計算の基礎に算入すべきとされ、割増賃金算定の基礎賃金が高額となります。また、固定残業代部分について、残業代として支払っていたという会社の反論が認められません。

つまり、固定残業代制度が無効と判断されると、会社に二重の不利益が発生し、高額な残業代請求が認められるリスクやデメリットが発生します(いわゆるダブルパンチ)。

具体例

(1)事案の設定(定額手当制【いわゆる手当型】)

①従業員(原告)が、2023年1月から12月の1年間、毎月50時間ずつの時間外労働(残業)をしたと主張し、月給30万円(基本給25万円、業務手当5万円)を基礎として割増賃金を請求している。

②会社(被告)は、「固定残業代制度をとっており、業務手当5万円には固定残業代の趣旨で支払っているため、業務手当5万円は、定額の割増賃金手当であるから、既に残業代は一部支払済みである。」と主張している。

③1日の所定労働時間を8時間、所定休日が土日祝日等の119日、(したがって、所定労働日数は365日-119日=246日)、所定労働時間は、8時間×246日=年間1968時間、2023年度における1月平均所定労働時間数を1968時間÷12か月=164時間として計算する。

*深夜労働や休日労働はないものと仮定する。

(2)固定残業代が無効と判断される場合

従業員(原告)側からすると、月額賃金30万円すべてが割増賃金算定の基礎賃金となるので、30万円÷164時間=約1,829円が基礎単価となります。

この基礎単価(1,829円)に、時間外労働時間600時間(50時間×12か月)を乗じたものに2割5分割増した金額である137万1750円が、従業員(原告)の求める割増賃金となります。

1,829円 × 600時間 × 1.25(割増率) = 137万1750円

(3)固定残業代が有効と判断される場合

一方、会社(被告)側からすると、割増賃金計算の基礎金額から当該固定残業代5万円が除外されて計算されるうえ、毎月5万円は弁済しているという主張になります。

したがって、割増賃金の基礎単価は、25万円÷164時間=約1524円となり、割増賃金の合計額は、114万3000円となります。

1,524円 × 600時間 × 1.25(割増率) = 114万3000円

さらに、固定残業代分の5万円×12か月=60万円は既に支払済みなので、支払うべき金額は54万3000円となります。

114万3000円 - 60万円 = 54万3000円

以上の具体例からわかるように、固定残業代制度が有効かどうかによって、会社側は、未払賃金として支払わなければならない金額に大きな差が生じることになります。

固定残業代制度が無効とされる場合:137万1750円

固定残業代制度が有効とされる場合: 54万3000円

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固定残業代制度の2つの有効要件(明確区分性と対価性)

固定残業代制度が有効となるためには、少なくとも、①明確区分性と②対価性の2つの要件が必要となります。このコラムでは、特に、対価性について説明します。

①明確区分性

通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分が明確に区分されていること

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②対価性

固定残業代の支払が、雇用契約において時間外労働の対価としての性質を有していること

固定残業代制度の有効要件ー対価性

固定残業代制度が有効となるためには、①定額手当制【いわゆる手当型】であっても、②定額給制【いわゆる組込型】であっても、固定残業代の支払が、雇用契約において、時間外労働の対価としての性質を有していることが必要となります。これを対価性の要件といい、固定残業代制度が有効となるために必要です。

最判平成30年7月19日(日本ケミカル事件)では、「使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる」とし、「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである」としています。

対価性を判断する上では、固定残業代やみなし残業代という支給名目も大切ですが、そのような名目ではなくても、契約書や規則の記載内容、従業員の説明状況や勤務実態を考慮して、対価性の要件を満たすこともあります。

具体例(対価性が肯定される場合)

①雇用契約書で手当の趣旨や目的が残業代の対価であることを明記している場合

②就業規則や賃金規定で手当の趣旨や目的が残業の対価であることを明記している場合

③給与明細で固定残業代として明記され、従業員に対しても労働条件通知書を手渡す際に、固定残業代であることを説明している場合

具体例(対価性が否定される場合)

①管理職手当や職責手当に割増賃金が含まれていると会社は主張するが、管理職手当や職責手当に割増賃金が含まれていることについて、雇用契約書や就業規則等で規定されておらず、会社も従業員に対して説明したことがない場合

②ドライバーに対して、無事故手当が支給されているが、残業の有無にかかわらず、支給され、また、残業とは関係がなく、業務内容に応じて、支給されている場合

③実際の残業時間や深夜労働時間と比較すると、時間外労働の対価として取得できる金額が極めて低額である場合(残業の実態と手当の金額が乖離している場合)

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まとめー対価性のポイント

①固定残業代制度が有効となるためには、固定残業代が残業の対価としての性質を有していることが必要です(対価性の要件)。

②対価性があるかどうかは、雇用契約書等の記載内容に加えて、会社の従業員に対する説明の内容や従業員の実際の労働時間等の勤務状況等の事情が総合的に判断されます。

③固定残業代に対応する労働時間数があまりに多いと、対価性を否定され、固定残業代制度が無効とされることもあります。

弁護士による固定残業代制度に関するサポート内容

①従業員等の請求根拠に対する法的検討・法的精査

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金が請求されたとしても、その請求が法的に正しいとは限りません。実際、従業員から法的根拠なく残業代を請求されるケースがよくあります。

そのため、法律の専門家である弁護士によって従業員等の請求根拠を法的な観点から緻密に精査することが必要となります。法的な根拠・理由を十分に精査することなく、安易に残業代や未払い賃金を支払ってしまうと、その情報が流布され、他の従業員から同様の請求がされてしまうケースもあります。

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②残業代や未払い賃金対応の代理交渉

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金を請求されたとき、経営者や人事担当者の皆様が従業員等と交渉することは精神的・物理的な負担が大きく、また、従業員との過去のトラブル等から冷静に対応できないことも多々あります。また、従業員等が弁護士に依頼し、従業員側弁護士が交渉を求めてくることがあります。

このような場合、経営者や人事担当者の皆様が直接交渉を行うことは、得策ではない場合もあり、法律やトラブル・紛争の解決の専門家である弁護士に代理交渉を依頼する方がメリットが大きいといえます。

弁護士に代理交渉を依頼することによって、経営者や担当者の皆様の負担軽減につながるとともに、適切なタイミング・方法で解決することも可能となります。また、企業の主張・考えを法的枠組みで整理することによって、企業側の主張をより説得的に伝えることができます。

③労働審判や労働裁判の代理活動

労働審判や労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。

④労働組合対応

多くの会社経営者や役員の方にとって、団体交渉を経験した人は少なく、また、団体交渉の準備・参加について、心理的にも物理的にも過度な負担がかかります。

そのため、紛争・訴訟や労働法に精通する弁護士に団体交渉対応を依頼することによって、経営者の皆様の負担を軽減し、団体交渉を有利に進め、労働問題の適切な解決を目指すことができます。

労働問題を深刻化させないためにも、団体交渉申入書を受け取ったら、早めに労働法の専門家である弁護士に相談することを検討ください。

弁護士によるサポート内容

・労働組合との窓口対応

・団体交渉申入書に対する回答書の作成

・団体交渉への立会・参加

・団体交渉の準備・資料作成サポート

・和解書(合意書)の作成

・団体交渉に向けたアドバイス

・不当労働行為の対応

⑤労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)

残業代や未払い賃金トラブルが起きないようにするためにも、労働条件を整備する必要があります。具体的には、企業のニーズや実情を把握して、雇用契約書や就業規則・給与規定を法的な観点・枠組みを踏まえて検討しなければなりません。

そのためにも、労働条件を記載している雇用契約書や就業規則・給与規定のリーガルチェックが必要であり、企業の持続的な成長のためには将来のリスク予防は重要です。

また、残業代や未払い賃金トラブルは、他の従業員にも波及してしまう可能性もあるため、そのトラブルの原因や問題点を早期に把握して、見直し・改善していくことが必要となります。

弁護士は、企業の立場で、労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)をサポートします。

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Last Updated on 2024年8月21日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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