複数の従業員が同時に残業代請求する類型(パターン)
残業代請求は、各従業員との雇用契約に基づくため、複数の従業員から同時に残業代を請求される可能性を想像していない経営者の方々もいるかもしれません。また、残業代請求は、会社に強い不満がある特定の従業員が起こしてくるもので、他人事と考える経営者の方々もいるかもしれません。
もっとも、残業代トラブルでは、複数の従業員から同時に残業代を請求されるケースは散見されます。
類型①ー労働組合の関与
一部の従業員が労働組合(社内労働組合・社外労働組合)を設立し、労働組合の組合員が協調し、労働組合のサポートを受けながら、同時に残業代請求を行う。
類型②ー大量退職に伴う残業代請求
従業員が同時期に大量に退職し、退職した従業員が協調して同時に残業代請求を行う。
類型③ー競合会社の関与
複数の従業員が競合会社に転職や引き抜かれ、競合会社のサポートを受けながら残業代請求を行う。
実際に発生した最近の事例
運送会社に対して運転職労働者29名が未払残業代を求めて訴訟を提起し、運送会社が解決金として合計6200万円を支払う和解が成立した事例(2021年2月)
▼関連コラム▼
【コラム】固定残業代制度が否定される?最高裁令和5年3月10日判決を弁護士が解説
バックペイとは?解雇裁判で主張されるバックペイの意味や計算方法を弁護士が解説します!企業側のリスクとは?
変形労働時間制とは?制度の概要・割増賃金請求の注意点についても弁護士が解説します!
【2024年4月改正】専門業務型裁量労働制の対象となる業務や改正内容を弁護士が解説します
【2024年4月改正】企画業務型裁量労働制の改正や注意点を弁護士が解説します。
固定残業代制度の明確区分性とは?企業が知っておくべきポイントについて、弁護士が解説します。
企業が固定残業代制度を導入するに際して、注意すべきポイントについて、弁護士が解説します。
複数の従業員による残業代請求の重大なリスク
残業代の消滅時効(請求期間)は従来は2年でしたが、民法改正(2020年4月1日施行)によって、2020年4月1日以降に支払われる賃金から5年に延長され(当分の間は経過措置として3年)、残業代の請求期間が延長されています。
また、2023年4月1日から、大企業のみならず、中小企業でも月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
さらに、①労働時間の証拠化の容易性、②残業代計算システムの普及、③弁護士費用の軽減、④転職市場の充実によって、残業代請求が容易化されており、これまで残業代の請求を躊躇していた従業員でも会社に対して容易に残業代を主張できる環境があります。
このように残業代の請求期間の延長、割増賃金率の引き上げ、残業代請求の環境によって、会社は、従業員による残業代リスクが深刻化していることを理解する必要があります。
そのうえで、複数の従業員から同時に残業代請求をされる場合、1人の従業員から残業代請求をされる場合と比較すると、請求金額は高額となり、財務リスクも重大なものとなり、残業代請求者の数や金額によっては、事業継続の危機を生じさせます。
さらに、複数の従業員が同時に残業代請求する類型(パターン)を考えれば、社内や現場も混乱していることも多く、冷静な判断ができず、誤った経営判断を行い、損失をさらに拡大させてしまうこともあります。
複数の従業員から残業代請求された場合の対処方法
ポイント①ー残業代請求の根拠を十分に精査する。
複数の従業員から残業代請求される場合、請求金額も高額となるため、安易に残業代請求に応じず、残業代請求の根拠を法的観点から十分に精査する必要があります。
安易に残業代請求に応じてしまうと、今後も同様のケースが生じたとき、それを基準(標準)として残業代請求に応じていかなければならなくなります。
ポイント②ー労働裁判を見据えた対応
複数の従業員から残業代請求される場合、請求金額も高額となり、労働裁判で残業代が認められやすいケースでは、複数の従業員の代理人(弁護士)は、労働裁判を想定して残業代請求を行います。
そのため、裁判外交渉においても、労働裁判になることを想定し、会社側の主張や証拠を十分に準備し、精査しておくことが必要です。裁判外交渉で提出した主張や証拠が労働裁判で不利益とならないように注意する必要があります。
ポイント③ー残業代を支払う場合でも合意書(和解書)を作成し、将来的なリスクを回避する。
複数の従業員から残業代を請求され、一定の理由があり、残業代を支払う場合でも、合意書(和解書)を作成しておく必要があります。合意書(和解書)では、他には債権債務が存在しないことを確認する条項(清算条項)に加えて、守秘義務条項(非開示条項)を記載し、他の従業員への波及を回避する必要があります。
▼関連記事はこちらから▼
スシローに対する労基署による是正勧告(5分未満の労働時間の切捨て)から適切な労働時間の管理について弁護士が解説します。
不活動時間とは?12時間または24時間シフトで実作業がない時間帯について労働時間性を否定した裁判例について、弁護士が解説します~東京地判平成20年3月27日【大同工業事件】~
弁護士による残業代請求対応
1 従業員等の請求根拠に対する法的検討・法的精査
従業員/元従業員から残業代や未払い賃金が請求されたとしても、その請求が法的に正しいとは限りません。実際、従業員から法的根拠なく残業代を請求されるケースがよくあります。
そのため、法律の専門家である弁護士によって従業員等の請求根拠を法的な観点から緻密に精査することが必要となります。法的な根拠・理由を十分に精査することなく、安易に残業代や未払い賃金を支払ってしまうと、その情報が流布され、他の従業員から同様の請求がされてしまうケースもあります。
2 残業代や未払い賃金対応の代理交渉
従業員/元従業員から残業代や未払い賃金を請求されたとき、経営者や人事担当者の皆様が従業員等と交渉することは精神的・物理的な負担が大きく、また、従業員との過去のトラブル等から冷静に対応できないことも多々あります。また、従業員等が弁護士に依頼し、従業員側弁護士が交渉を求めてくることがあります。
このような場合、経営者や人事担当者の皆様が直接交渉を行うことは、得策ではない場合もあり、法律やトラブル・紛争の解決の専門家である弁護士に代理交渉を依頼する方がメリットが大きいといえます。
弁護士に代理交渉を依頼することによって、経営者や担当者の皆様の負担軽減につながるとともに、適切なタイミング・方法で解決することも可能となります。また、企業の主張・考えを法的枠組みで整理することによって、企業側の主張をより説得的に伝えることができます。
3 労働審判や労働裁判の代理活動
労働審判や労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。
4 労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)
残業代や未払い賃金トラブルが起きないようにするためにも、労働条件を整備する必要があります。具体的には、企業のニーズや実情を把握して、雇用契約書や就業規則・給与規定を法的な観点・枠組みを踏まえて検討しなければなりません。
そのためにも、労働条件を記載している雇用契約書や就業規則・給与規定のリーガルチェックが必要であり、企業の持続的な成長のためには将来のリスク予防は重要です。
また、残業代や未払い賃金トラブルは、他の従業員にも波及してしまう可能性もあるため、そのトラブルの原因や問題点を早期に把握して、見直し・改善していくことが必要となります。
弁護士は、企業の立場で、労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)をサポートします。
▼関連記事はこちらから▼
未払残業代を請求されたときに企業が対応すべきことについて、弁護士が解説します。
労務問題については弁護士にご相談を
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
顧問契約では、問題社員対応、未払い賃金対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争(解雇、残業代、ハラスメント等)等の労働問題対応を行います。
ハラスメント研修も引き受けていますので、是非一度お問い合わせください。
Last Updated on 2024年11月5日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
プロフィールはこちらから