横領を行う問題社員についてよくある相談
①お客様から受領したお金を従業員が着服していました。
②不正行為を行った従業員に対して損害賠償を請求したい。
③横領を行った従業員と連絡が取れなくなったため、刑事告訴したい。
業務上横領とは?
刑法253条では、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。」とされており、これを業務上横領罪といいます。
業務上横領罪の具体例は、以下のとおりです。もっとも、実務的には、業務上横領罪ではなく、窃盗罪(刑法235条)、詐欺罪(刑法246条)、背任罪(刑法247条)と判断されることもあります。
そのため、問題行為(違法行為)が、どのような犯罪に当たるかどうかは、証拠を踏まえて、事実関係を確定した上で法的判断が必要となります。
具体例
①顧客から集金したお金を、借金の返済のために着服した。
②経理担当者が会社の預金口座から現金を引き出し、消費した。
③顧客に対して、自己の口座を振込先に指定して、振り込ませて、その金員をギャンブルで利用した。
従業員や役員が会社のお金を横領してしまった!対処法は?
横領行為が発覚してしまったとき、会社が行うべき対処法は、以下のとおりです。
①証拠の収集と事実関係の調査
横領行為の具体的内容を検討するため、証拠を収集するとともに、事実関係を調査する必要があります。
証拠を収集できなければ、刑事告訴でも支障が生じます。また、証拠の収集は、民事裁判を利用して損害賠償を請求するためにも必要となります。さらに、事実関係を調査し、損害額を確定しなければ、違法行為を行った従業員や役員に対して求める損害賠償額も決まりませんし、適切な方針を決めることも難しくなります。
②懲戒処分(懲戒解雇を含む。)
横領行為は犯罪行為に該当するため、懲戒処分を行うことが可能です。懲戒処分の内容について、問題行為の内容や悪質性によって決めますが、懲戒解雇も検討可能です。
ただ、懲戒解雇を行うことが、常に正しいわけではないため、横領行為が発覚したとき、会社の利益を最善に確保するための方策を検討する必要があります。
特に、懲戒解雇では、労働法に従った手続を求められるとともに、従業員が横領行為を否認する場合、懲戒解雇の有効性が争われる場合もあるため、注意する必要があります。
会社が犯罪行為があると判断する場合でも、見通しを間違ってしまうと、深刻な労働トラブルになってしまうことがあります。
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③損害賠償請求
従業員や役員が横領行為を行った場合、もちろん、会社は、従業員に対して損害賠償を求めることができます。
損害賠償を求める方法としては、A)裁判外交渉とB)裁判手続があります。
A)裁判外交渉では、弁護士に依頼するか、弁護士に依頼せず、会社で対応するかどうかを決める必要があります。
B)裁判手続では、損害賠償請求権を保全するために民事保全手続(仮差押え)という手段を選択する場合もあります。仮差押えとは、民事訴訟を提起する前に、相手方の不動産や預金等の財産が流出することを予防し、将来の回収を容易にするための手続です。
被害回復に向けて、どの手段を選択することがベストかどうかについて、早急に判断する必要があります。初動を間違ってしまうと、費用だけが増えてしまい、損害賠償を回収できなくなったりするリスクがあります。
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④刑事告訴
刑事訴訟法230条では、「犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる。」とされており、犯罪の被害者等が捜査機関に対して犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求めることができます。
会社は、横領行為が発覚した場合、警察等に対して、刑事告訴することができます。刑事告訴が受理されれば、警察等による捜査が始まります。捜査次第では、犯罪行為を行った者が逮捕されたり、勾留されたりする等強制捜査が行われることがあります。
また、捜査の結果、起訴又は不起訴の判断が行われ、起訴されたら、刑事裁判が開始され、有罪又は無罪の判断が下されます。有罪の場合、実刑となることもありますが、執行猶予の判断が下されることもあります。
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業務上横領の対応で会社が陥りがちなトラブル・失敗
①証拠の収集や事実関係の調査を行わずに、対象従業員・役員と面談する。
証拠の収集や事実関係の調査を十分に行わず、全体像が明らかとなっていない状況で、対象従業員・役員と面談する場合、対象従業員・役員が横領行為を否認したり、証拠を隠滅することがあります。
そうすると、損害賠償請求をしても、対象従業員・役員が責任回避を目的として、虚偽の主張を繰り返したり、他人に責任を転嫁して、結局、被害弁償を求めることが難しくなったりすることがあります。
業務上横領の対応では、初動が極めて大切です。対象従業員・役員と面談する前に、事件の全体像を把握し、言い逃れができないように証拠の収集や事実関係の調査が必要となります。
②感情的になり、冷静な判断をせず、懲戒解雇を行う。
横領行為や犯罪行為は、会社(経営者)にとっては、信頼していた従業員による違法行為です。そのため、許すことができないと考え、安易に懲戒解雇してしまう事例がいくつかあります。横領(犯罪行為)があれば、懲戒解雇は当たり前と考えることも、もちろん理解できます。
もっとも、懲戒解雇(特に即時解雇)するためには、労働法に規定された手続を踏まなければならず、また、対象者に対して、反論の機会を与えなければなりません。
安易な懲戒解雇は、労働者に反論の機会を与えるとともに、深刻な労働トラブルに発展するケースがあります。
また、もちろん、企業秩序や服務規律の維持のためには、懲戒処分も必要ですが、横領金額(被害金額)次第では、被害回復を優先すべき場合もあります。
まずは、全体像の把握に努め、会社が優先すべき利益を冷静に判断し、適切な対応策を検討しなければなりません。
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③損害賠償の回収手段を十分に検討しない。
横領行為(犯罪行為)があれば、当然に損害賠償を回収できることは、当たり前と考え、損害賠償の回収手段を十分に検討していないケースがあります。
横領行為が発生すれば、その金額によっては、企業にとって重大なリスクとなるため、損害の回復に向けて、回収可能性を高めるための手段を検討する必要があります。回収方法を工夫すれば、回収可能性も高まります。
業務上横領で刑事告訴は可能?注意点やデメリットとは?
業務上横領があれば、もちろん刑事告訴は可能です。ただし、注意点やデメリットもあります。
①犯罪事実の特定を行い、早期の刑事告訴の受理を目指すこと
長期間に、かつ、継続的に行われている横領行為の場合、被害金額が多額となり、証拠の確保や事実関係の調査が難しくなったり、過重な負担が発生してしまうこともあります。
そうすると、刑事告訴の受理が遅れたり、会社の負担だけが重くなってしまうことがあります。
刑事告訴の目的や理由を明確にして、犯罪事実を一部に限定することによって、早期に刑事告訴の受理を目指す方が得策の場合もあります。
どのような事実で、刑事告訴を目指すべきかについて、法的観点を踏まえて、戦略的に検討する必要があります。
②刑事告訴=被害弁償ではないこと
刑事告訴を行ったからといって、直ちに被害弁償が行われるわけではありません。もちろん、刑事告訴の受理によって、被害弁償の交渉が有利に進むこともあります。
ただ、刑事告訴とは別に被害弁償(損害賠償請求)を求めなければならず、会社として、優先順位を考えながら、会社の利益を最善にするため、対処法を検討しなければなりません。
ケースによっては、刑事告訴以外の選択肢を選ぶことが適切な場合もあるため、初動や戦略を間違えないように注意する必要があります。
③捜査機関による捜査に協力が必要となること
刑事告訴が受理されれば、捜査機関による捜査が始まります。この際、捜査機関による現場の確認や担当者への事情聴取も必要となります。刑事告訴が受理されると、捜査機関による捜査の協力が必要であり、一定の負担が発生します。
この負担も考慮した上で刑事告訴を行うかどうかを判断する必要があります。
業務上横領が発覚した際の会社側の初動対応のポイント
①客観的証拠の確保
横領行為(犯罪行為)の一部が発覚した場合、まずは、客観的証拠を確保する必要があります。客観的証拠がなければ、対象従業員・役員による言い逃れや反論を許してしまうことになります。
また、客観的証拠があれば、刑事告訴も容易になりますし、法的手続(民事裁判)を行う場合でも、迅速に進めることができるので、初動対応のポイントとして、客観的証拠の重要性を理解する必要があります。
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②横領行為の全体像(ルール)の把握
長期的かつ継続的に行われる横領行為(犯罪行為)では、対象従業員・役員にとって、横領行為を行うルール(パターン)があります。
このルール(パターン)を見極めることによって、犯罪の全体像を理解することが可能となり、責任追及や損害額の確定が容易になります。
③優先順位を確認し、対処法を選択
横領行為に対して、被害金額の回復を優先するのか、それとも、厳罰又は企業秩序の維持を優先するのか、企業の利益を守るためには、優先順位を確認する必要があります。
優先順位を決めれば、対処法(損害賠償の回収、刑事告訴)の選択も可能となります。
横領行為(犯罪行為)が発生したことについて、動揺せず、また、感情的にならず、企業の利益を守るために有効な方法を選択する必要があります。
業務上横領が発生した際に弁護士に相談すべきポイント
①証拠収集や事実関係の調査も弁護士に相談できます。
会社(経営者)の中には、証拠を収集し、事実関係を調査してから、弁護士に相談しようという方もいます。もっとも、弁護士に相談すれば、有効な証拠を収集する方法やポイントとなる事実関係についてアドバイスが可能であるため、証拠や事実関係の調査を始める前に相談してもらった方がいい場合があります。
繰り返しになりますが、業務上横領のケースでは、初動対応が極めて重要です。できる限り、早期の段階で、弁護士に一度相談することをおすすめします。
また、事実関係の調査において、本人から事情を聴取する必要がある場合、弁護士も事情聴取に同席することは可能です。
②業務上横領に対する対応方針や戦略も弁護士に相談できます。
業務上横領に対する対応方針や戦略についても、紛争・訴訟に精通する弁護士に相談できます。回収可能性や対応費用についても、早い段階で知ることが今後の対応方針や戦略を決めるうえでは、重要となります。
対応方針や戦略を決めることに迷っている場合でも、是非、弁護士に相談してください。
③裁判手続だけでなく、刑事告訴の代理対応もできます。
裁判手続(民事訴訟や仮差押え)だけでなく、弁護士は、刑事告訴状の作成や代理人として刑事告訴手続の代行も可能です。刑事告訴もテクニックや経験が必要であり、弁護士に依頼することによって、刑事告訴の受理に向けた負担を軽減できます。
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業務上横領について、弁護士法人かける法律事務所がサポートできること
弁護士法人かける法律事務所は、労務・人事問題(経営者側)を注力的に取り扱っており、従業員・役員による業務上横領について、以下のサポートが可能です。
①証拠収集や事実関係の調査のサポート・アドバイス
②本人や関係者へのヒアリング・事情聴取のサポート(同席を含む。)
③示談交渉
④本人に対する損害賠償請求(民事裁判、仮差押え)
⑤刑事告訴状の作成や刑事告訴手続の代行
⑥再発防止に向けた対応策のサポート・アドバイス
⑦コンプライアンス研修の実施
⑧本人との和解契約書や合意書の作成
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Last Updated on 2024年6月18日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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