
横領を行う問題社員とは?
刑法253条では、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。」とされ、業務上横領罪が規定され、犯罪行為とされています。
「横領」とは、他人から委託を受けて金銭等を管理している者が、その金銭等を勝手に消費したり、着服したりすることをいいます。
横領を行う問題社員の具体例について
①経理担当者が会社の預金1000万円を勝手に引き出し、ギャンブルで消費した。
②営業担当者がお客様から集金したお金200万円を会社に渡さず、借金返済のために着服した。
③会社で管理する郵便切手を事務局長が会社に秘匿して転売し、生活費に充てた。
*従業員による不正行為について、業務上横領罪だけではなく、詐欺罪(刑法246条)や背任罪(刑法247条)が問題となることもあります。法的には、「横領」、「詐欺」、「背任」のいずれの行為に該当するかどうか検討する必要があります。
刑法246条(詐欺)1項
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
刑法247条(背任罪)
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
横領を行う問題社員による会社への影響
横領行為は、犯罪行為であり、もちろん許されるべき行為ではありません。経営者の方々の中には、会社に横領行為を行う従業員がいるわけがなく、無関係と考える方もいるかもしれません。
しかしながら、実際の弁護士業務の中では、従業員による横領を含む不正行為について相談を受ける機会が多く、どのような規模・業種の会社でも無関係とはいえないと考えています。
また、横領を行う問題社員による会社への影響も大きく、横領を防ぐ仕組みを構築するとともに、横領が発覚したときは、迅速にかつ適切な対応を行う必要があります。
①経済的損害ー売上及び利益の喪失
横領行為が発生すると、会社に経済的損害が発生します。特に、長年にわたる横領行為である場合、その損害金額は数百万円、数千万円となることもあります。
そのため、横領を行う問題社員が発覚した場合、会社として、経済的損害を回復させるためのアクションを起こす必要があります。
②取引先の信用の低下
横領が発生し、取引先等の関係者も巻き込んだものであれば、取引先の信用が低下し、レピュテーションリスクが発生します。そのため、取引先の信用を回復するためにも、会社として、毅然とした対応を行う必要があります。曖昧な対応は、取引先の信用をさらに低下させることにもつながりかねません。
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③従業員のモチベーションの低下
横領行為が発覚した社員が、長年勤めていた社員であったり、部長であったり、他の従業員から特に信頼されていた方であればあるほど、他の従業員のショックも大きいといえます。
横領事件の発生によって、従業員のモチベーションが低下し、最悪の場合、離職につながることもあります。会社としては、毅然とした対応を取りながらも、従業員のモチベーションの低下を防ぐとともに、他の従業員を守りながら、問題解決に努めなければなりません。
横領を行った従業員への対応方法
1 横領行為の特定・証拠の確保
まず、横領が発覚した場合、横領行為を特定し、被害金額や犯罪態様を把握するとともに、横領行為に関する証拠を確保しなければなりません。横領を行う問題社員の中には、横領行為を否認したり、他人に責任を転嫁したりすることもあります。
そのため、損害賠償請求等を円滑に進めるためにも、横領を行った問題社員に事情聴取をする前に、十分な事実や証拠を確保しておく必要があります。
もちろん、スピーディーな対応も求められますが、横領を行った問題社員に事実を突きつける前に、横領行為を特定して証拠を確保しておくことが、被害を最小限に抑えるためにも、事件を解決するためにも必要です。
2 横領を行った問題社員への事情聴取
横領行為の事実や証拠が確実であるとしても、横領を行った問題社員の事情聴取は必要になります。この事情聴取では、対象社員が横領を否定したり、他人に責任を転嫁したりすることも想定しておかなければなりません。事情聴取における目的やゴールを明確にしたうえで、事情聴取を行うことになります。単に事情を聞けばいいというわけではありません。
3 損害賠償請求
横領行為によって経済的損害が発生しているため、経済的損害の回復に向けて損害賠償請求を検討することになります。
横領を行う問題社員の中には、経済的困窮を理由として犯罪行為を行う場合やプライベートにおける散財(ギャンブル等)を理由として犯罪を行う場合があり、問題社員本人に対して損害賠償を請求しても、回収が難しい場合もあります。
そのため、損害賠償請求を検討する場合、回収方法も、事前に十分に検討しておく必要があります。
4 懲戒解雇を含む懲戒処分
横領行為は犯罪行為であるため、横領行為が特定され、本人も犯罪行為を認めている場合、懲戒処分を検討することになります。懲戒処分の可否や種類については、横領行為の頻度や内容に加えて、本人の反省態度や被害弁償の有無も考慮して決定することになります。
5 刑事告訴
横領行為は犯罪行為であるため、横領を行った問題社員の態度次第では、刑事告訴も検討することがあります。
この際、告訴事実・罪名を検討するとともに、被害弁償の有無を考慮し、刑事告訴するかどうかを検討することになります。本人が深く反省し、被害弁償を行っている場合には、刑事告訴しないという選択肢もあり得ます。刑事告訴のメリット・デメリットを踏まえて判断します。
横領を行った従業員への対応についての注意点
注意点①ー従業員本人が横領を認めない、又は他人に責任を転嫁する場合があること
会社から見て、対象従業員が横領を行ったことが明らかであるとしても、従業員本人が横領を認めないことや他人に責任を転嫁する場合があります。例えば、「自分ではなく、他の従業員が行ったものである」とか、「他の従業員も関与している」とかです。
明らかに不合理な弁解でも、従業員本人が横領を認めないとか、他人に責任転嫁する場合、対象従業員に対する責任追及が難しくなる場合があります。
対象従業員が言い逃れできないように、横領行為を特定し、しっかりと事前に証拠を確保しておくことが大切です。
これを怠ると、最後まで対象従業員が言い逃れを行い、民事裁判や刑事裁判に発展したとしても、多大な労力や時間を要するとともに、損害賠償を回収できなくなる事態も生じます。
注意点②ー損害賠償の回収方法を十分に検討すること
横領を行う問題社員の中には、十分に資力がない方も多く、対象従業員と話し合いをする前に、損害賠償の回収方法について十分に検討しておくことが必要となります。ケースによっては、家族や知人が立て替えたり、保証人となってくれることもあり、人的担保を含めて回収方法を想定しておくことが必要です。
注意点③ー話し合いによる解決も視野にいれること
横領は犯罪行為であるため、会社として毅然な対応が必要であることはもちろんですが、損害賠償の回収を最優先事項とする場合、損害賠償の支払を条件として懲戒処分や刑事告訴等を行わないことも、選択肢の一つとして検討するべきです。
会社として、優先事項を決定し、優先事項に即した方法・手段で対応し、話し合いによる解決も視野に入れることも、経営判断として必要となります。
弁護士による横領を行う問題社員対応
1 横領に関する社内調査のサポート
弁護士は、横領に関する社内調査のサポートを行います。弁護士の視点から、横領行為が特定されているか、また、証拠が十分足りているかどうかを検討します。
【社内調査のサポートの具体例】
・事情聴取の立会
・横領行為の特定や証拠の精査
・報告書の作成
2 横領を行う問題社員に対する損害賠償請求のサポート
弁護士は、横領を行う問題社員に対して損害賠償を請求し、損害賠償を回収するための最適な方法を提案します。
【損害賠償請求のサポートの具体例】
・代理交渉
・民事訴訟・仮差押え
・合意書(和解書)の作成
3 刑事告訴のサポート
弁護士は、刑事告訴のために、告訴状を作成したり、会社の代理人として告訴状の提出手続を代行します。不正行為について、いかなる犯罪類型に該当するか、また、いかなる行為が告訴しやすいかについては専門的な判断が必要となるため、法的観点から、刑事告訴のサポートを行います。
【刑事告訴のサポートの具体例】
・告訴事実の特定や証拠の選別
・告訴状の作成
・告訴状の代理提出
・捜査機関の連絡窓口
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顧問契約では、問題社員対応、未払い賃金対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争(解雇、残業代、ハラスメント等)等の労働問題対応を行います。
ハラスメント研修も引き受けていますので、是非一度お問い合わせください。



Last Updated on 2023年9月11日 by roumu-osaka.kakeru-law
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