雇用契約書とは?
雇用契約書とは、会社と労働者(従業員)との間で合意した労働条件を記載した書面で、会社と従業員がそれぞれ記名押印又は署名押印したものです。
雇用契約は、口頭でも成立します。もっとも、労働条件を明確化し、従業員が安心して働くことができるようにするため、また、従業員とのトラブル・紛争の発生を予防するためには雇用契約書を作成することが重要です。
最近では、雇用契約書について、紙の書類に署名押印する代わりに、電子データを利用して雇用契約書を作成するケースも増えています(雇用契約の電子化・ペーパーレス化)。
雇用契約書の記載事項は、主に以下のとおりです。
①契約期間
②就業の場所
③業務内容
④業務時間及び休憩時間
⑤休日・休暇
⑥賃金
⑦退職
⑧社会保険や雇用保険の加入の有無
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雇用契約書と労働条件通知書との違い
雇用契約書も労働条件通知書も労働条件を書面で記載している点では同じです。労働基準法15条では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」(労働条件の明示義務)とされていますが、雇用契約書でも労働条件通知書でも、労働条件の明示義務の観点から問題はありません。
ただ、労働条件通知書は、会社が従業員に対して一方的に通知するのに対して、雇用契約書では、従業員の署名押印又は記名押印が求められます。
そのため、従業員が労働条件に同意していることを明確にするためには、労働条件通知書よりも雇用契約書の方が望ましいといえます。
雇用契約書が作成・整備できていないことによるリスク
①従業員から信頼を得ることができず、無用なトラブル・紛争が発生するリスク
個人事業主や中小企業では、労務管理が不十分で、雇用契約書を作成していない会社・事業主も多く存在します。
もっとも、労働人口・生産年齢人口の減少、ダイバーシティマネジメントが求められる現代において、優秀な人材を採用し、定着してもらうことが重要な経営課題となっています。従業員から信頼を得て、また、安心して業務に従事してもらうことは、事業の継続及び発展のためには必要不可欠です。
雇用契約書を作成・整備していない場合、従業員から信頼を得ることができず、無用なトラブル・紛争が発生するリスクがあります。
②みなし残業代(固定残業代)が否定されるリスク
みなし残業代(固定残業代)が有効とされるためには、通常の労働時間の賃金と割増賃金の部分が明確に区別できるようにすることと、その割増賃金が何時間分の時間外労働に対応するのか明示する必要があります。
そのため、雇用契約書において、みなし残業代(固定残業代)を明確にしておかなければ、その有効性が否定されます。
みなし残業代(固定残業代)を導入するのであれば、雇用契約書の作成は必要といえます。
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③管理監督者性が否定されるリスク
労働基準法上の「管理監督者」(労働基準法の労働時間、休憩時間、休日の規制が適用されない労働者)と評価されるためには、一般の従業員と比べて、管理監督者として相応な賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇が与えられている必要があります。
雇用契約書において、この処遇が定められていない場合、管理監督者性を判断できず、管理監督者性が否定されるリスクがあります。
④休憩時間が否定されるリスク
雇用契約書を作成せず、また、労働時間の管理も不十分な場合、休憩時間を把握できず、労働時間として計上され、未払残業代が発生してしまうことがあります。
雇用契約書において休憩時間を定めていれば、休憩時間を客観的に把握することが可能となり、休憩時間を付与していたという一つの証拠となります。
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雇用契約書の作成・整備に当たり注意すべきポイント
注意点① 労働法に違反しないこと
労働契約(雇用契約)も契約(合意)であるため、原則として、使用者と労働者との間で自由に、その内容を決めることができます。
もっとも、実際は、労働契約(雇用契約)において、使用者と労働者との間で交渉力を含めて格差があり、労働者を保護するために、労働契約(雇用契約)に関連する法律によって一部規制を受けます。
労働基準法13条でも、「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」とされており、労働基準法に違反する労働条件を合意することはできません。
そのため、労働契約書(雇用契約書)を作成するに際しては、労働法に違反又は矛盾しないように注意しなければなりません。
労働契約(雇用契約)に関連する法律
①民法
②労働基準法(労基法)
③労働契約法(労契法)
④労働組合法(労組法)
⑤雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)
⑥最低賃金法
*一般的に労働法と総称されることがありますが、労働法という名称の法律があるわけではありません。
注意点② 就業規則と矛盾しないこと
労働契約法12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」とされており、就業規則に違反する労働条件を合意することができないとされています。
そのため、労働契約書(雇用契約書)を作成するに際しては、就業規則に違反又は矛盾しないように注意しなければなりません。
注意点③ 労働条件を変更するに際して、原則として労働者の同意が必要となること
労働契約法3条1項では、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」とされ、労働契約法8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とされており、労働条件を変更するに際して、原則として、労働者(従業員)の同意が必要となります。
労働契約書(雇用契約書)を作成するに際しては、労働者(従業員)から同意を得ることができるかどうかという視点も必要となります。
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業種ごとの雇用契約書のポイント
運送業の雇用契約書のポイント
運送業の雇用契約では、長時間労働や固定残業代制度(みなし残業代制度)の有効性が問題となったり、労働時間の算出方法で労使間の対立が発生することがあります。ケースによっては、労働裁判や労働組合との団体交渉に発展する場合もあります。
また、いわゆる「2024年問題」と言われているように、2024年4月からトラックドライバーには年間960時間という時間外労働の上限規制が適用されることになりました。また、トラック運転者の改善基準告示も改正されます。
チェックポイント
①時間外労働の上限規定(2024年問題)に対応しているか?
②トラックの「改善基準告示」に対応しているか?
・1年の拘束時間 原則:3300時間
・1か月の拘束時間 原則:284時間、最大310時間
・1日の休息期間 継続11時間を基本とし、9時間下限
③固定残業代制度が有効に導入されているか?
飲食業の雇用契約書のポイント
飲食業の雇用契約では、長時間労働、管理監督者や休憩時間の曖昧さから労働トラブルや労働紛争に発展することがあります。また、残業代の抑制のため、固定残業代制度を導入したところ、最低賃金を下回ってしまったというケースもあります。
チェックポイント
①管理監督者の要件(職務内容、権限・責任、勤務態様、待遇)を満たしているか?
②固定残業代制度が有効に導入されているか?
③最低賃金を下回っていないか?
④変形労働時間制が有効に導入されているか?
⑤労働基準法に従い休憩時間が確保されているか(6時間を超える場合であれば、少なくとも休憩45分、8時間を超える場合であれば、少なくとも休憩1時間)?
介護福祉の雇用契約書のポイント
介護・福祉事業者では、慢性的な人手不足によって、長時間労働となりやすい傾向にあります。
そのため、労働時間管理や残業代請求への対応策(変形労働時間制・定額残業代等)が十分ではない介護・福祉事業者に対して、長時間労働による未払い残業代請求が行われることがあります。
また、訪問介護や訪問看護では、移動や待機に要する時間が発生し、サービスの提供に従事した時間や移動・待機に要した時間で賃金を区別する場合もあります。
チェックポイント
①管理監督者の要件(職務内容、権限・責任、勤務態様、待遇)を満たしているか?
②固定残業代制度が有効に導入されているか?
③最低賃金を下回っていないか?
④変形労働時間制が有効に導入されているか?
⑤労働基準法に従い休憩時間が確保されているか(6時間を超える場合であれば、少なくとも休憩45分、8時間を超える場合であれば、少なくとも休憩1時間)?
建設業の雇用契約書のポイント
建設業界では、人手不足や過重労働によって、長時間労働となりやすい傾向にあります。そのため、労働時間管理や残業代請求への対応策(変形労働時間制・定額残業代等)が十分ではない建設業者に対して、長時間労働による未払い残業代請求が行われることがあります
また、建設業では、建設現場に直行・直帰となることもあり、労働時間の把握が難しいとも言われています。
さらに、請負契約と認識していた職人から、雇用契約を主張され、多額の未払残業代が請求されるケースも想定されます。
残業代請求が容易となっている現在社会においては、未払い残業代請求は他人事ではなく、すべての建設業者にとって重大なリスクとなります。
チェックポイント
①雇用契約又は業務委託契約の判断は適切か?
②固定残業代制度が有効に導入されているか?
③最低賃金を下回っていないか?
④変形労働時間制が有効に導入されているか?
⑤労働基準法に従い休憩時間が確保されているか(6時間を超える場合であれば、少なくとも休憩45分、8時間を超える場合であれば、少なくとも休憩1時間)?
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雇用契約書について弁護士が対応できること
雇用契約書の作成は、従業員から信頼を獲得し、無用なトラブル・紛争を回避して、事業を継続・発展させていくためには必要不可欠です。
弁護士は、紛争・訴訟対応や労働法に精通しており、雇用契約書に関し、以下の対応が可能です。
①雇用契約書の作成・チェック
②雇用契約書に関するトラブル・紛争対応
③従業員との労働裁判や労働審判への対応
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雇用契約書については弁護士にご相談ください
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
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Last Updated on 2024年10月30日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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