ローパフォーマー社員対応についてよくあるご相談事例
①従業員を採用したが、能力不足であるため、解雇したい。
②注意や指導しても、改善されず、反抗的な態度であるため、解雇したい。
③勤務成績不良を理由に解雇したところ、訴状が届いた。
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解雇とは?
解雇とは、会社による従業員に対する雇用契約の一方的な解約の意思表示をいいます。会社による一方的な解約通知という点で、自主退職や合意退職とは異なります。
日本の労働法では、解雇について、①時期的規制、②手続的規制、③実体的規制(解雇理由による規制)を設定しています。
勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇では、特に、③実体的規制(解雇理由による規制)のうち、解雇権濫用法理が問題となります。
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解雇権濫用法理とは?
日本の労働法では、解雇権濫用法理において、解雇権の行使について、厳しく規制しています。つまり、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、その権利を濫用したものとして、無効とされます(労働契約法16条)。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇に対する裁判所の基本的な考え方
裁判所は、長期雇用を前提とする正社員について、単に勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇を認めておらず、単に、勤務成績不良や能力不足を超えて、企業経営に対して重大な支障を与え、企業から排斥すべき程度に達していることが必要という考え方に立っています。
例えば、東京地決平成13年8月10日(エース損害保険事件)では、「長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである」としています。
そのため、もし解雇が必要になる場合、勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇は簡単に認められないことを前提として、以下の事情を総合的に考慮して、判断しなければなりません。
少なくとも、企業は、従業員に対する注意や指導によって改善を求めたが、改善の余地がないことが有効な解雇を行うためには必要となります(解雇回避義務)。
①雇用契約上、従業員に要求される職務能力や勤務態度
②勤務成績や勤務態度の不良の内容や程度
③指導や注意による改善の余地の有無
④他の従業員との取扱いの不均衡の有無及び程度
*もっとも、裁判例では、高度で専門的な能力を評価され、特定の職位や職務のために即戦力として中途採用された者については、勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇について、緩やかに認められる傾向もあります。解雇の有無を判断する上では、このような事情も考慮されます。
人事考課が低いことを理由に解雇できるか?
人事考課とは、会社が定めた基準に従い、従業員の実績や業務態度、能力を評価する仕組みをいいます。多くの会社では、一定の期間における社員の成果や取組を四半期や半年ごとに評価する制度を導入しています。この人事考課が低いことを理由に解雇できるかという論点があります。
この点について、東京地決平成11年10月15日労判770号34頁(セガ・エンタープライゼス事件)では、人事考課が従業員の中で下位10パーセント未満の考課順位である者に対する解雇について、「人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない」とし、「このように相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を毎年繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、相対的に一〇パーセント未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのである。したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となる」が、「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、このような「相対評価を前提とするものと解するのは相当でな」く、「常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできない」としています。
つまり、人事考課が低いことだけを理由に解雇することは、裁判では難しいという点について理解しておく必要があります。裁判において、解雇の有効性を主張、立証するためには、人事考課を裏付ける具体的な事実や証拠を準備しておく必要があります。
勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇の注意点
①単に勤務成績不良や能力不足だけでは解雇が認められず、注意や指導によっても改善の余地がないと判断できる必要があること(解雇回避義務を尽くすこと)
単に勤務成績や能力不足を理由とする解雇は、裁判では認められません。安易な解雇は、労働トラブルや労働裁判に発展し、会社側に不利な判断が下されることがあることを理解しておくべきです。
問題社員(モンスター社員)について、業務等に重大な支障を生じさせていると判断できる場合でも、まずは十分な注意や指導によって改善の余地がないと客観的に判断できるかどうかを確認しておくことが必要となります。注意や指導を行うときに、反抗的な態度であることは、このような裏付けの一つとなります。
特に、問題社員への注意や指導について、他人の言動を変えさせようとするものであって、多忙な業務の中で消極的になってしまったり、後回しになってしまうことがあります。
また、はじめから反抗的な対応をとる問題社員も存在し、注意や指導をしても、変わらないと思い込み、注意や指導をあきらめてしまう方もいます。
もっとも、注意や指導によっても改善の余地がないことを確認するためにも、注意や指導をあきらめてしまわないようにしてください。注意や指導をあきらめないことが大切です。
②人事考課が低いという理由だけでは解雇できないこと
人事考課が低いだけでは解雇の理由としては、十分ではありません。人事考課を裏付ける具体的な事実や証拠をしっかりと確保し、第三者(裁判所)が見ても、解雇に理由があって、必要不可欠であると考えられる証拠を確保しておくことが大切です。
人事考課に基づき解雇するかどうかを判断するとき、主観的、感情的な判断とならないように、具体的な事実や証拠に基づいた判断が必要となります。
③解雇以外の選択肢も検討すること
解雇権濫用法理において、解雇権は厳しく制限されています。解雇によって労働トラブルや労働裁判となる場合、会社に不利益に判断されることもあります(解雇のデメリット)。また、円満退職(合意退職)であれば、従業員も、退職時期や退職条件も選択可能であり、また、会社も不要な労力や時間を削減することが可能です(円満退職のメリット)。
解雇のデメリットや円満退職のメリットを理解した上で、解雇以外の選択肢(退職勧奨、辞職、合意退職)も一度検討してください。
従業員も退職を希望している可能性があり、退職条件を話し合うことによって円満に解決できる場合もあります。円満退職は、労力・時間・費用を大幅に削減できる効果的な方法です。
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弁護士による問題社員(モンスター社員)対応
①雇用契約書・誓約書・就業規則の作成サポート
問題行動が業務命令違反である場合、懲戒処分を行うためにも、雇用契約書、誓約書や就業規則において懲戒事由を明確に定めておくことが必要です。また、問題行動が会社にとって重大な影響を与えることを明確にするためにも雇用契約書、誓約書や就業規則の整備が必要不可欠です。
弁護士は、企業(経営者)の立場で、労働条件の整備(雇用契約書・誓約書・就業規則の作成)をサポートします。
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②問題社員(モンスター社員)の解決に向けたサポート
弁護士は、問題社員の対応について、冷静かつ客観的に分析・アドバイスを行い、問題社員の解決に向けたサポートを行います。問題社員の対応について、経営者が1人で抱え込まないよう、経営者の立場に立って必要なアドバイス・サポートを行います。
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③懲戒処分に向けたアドバイス
弁護士は、会社(経営者)の立場に立って、法的な視点から、懲戒処分に向けて、適切な手続を踏むことができるようにアドバイスを行います。また、会社(経営者)が懲戒処分の判断を行うに際して、リスクの種類や内容を分析し、アドバイスを行います。
特に、問題行動を理由とする懲戒処分を行う場合、事実関係の確定や事後的な紛争に備えた証拠の確保も必要であり、関係者へのヒアリングや懲戒委員会への立会も含めて、弁護士はサポートできます。
弁護士によるサポートによって、適切な手続を行いながら、リスクを踏まえた判断・アクションが可能となります。
④労働トラブルの窓口対応/代理交渉
対象従業員との間で懲戒処分の有無や内容を含めてトラブルとなる場合、ケースによっては、弁護士に窓口対応や代理交渉を依頼することも検討するべきです。
特に、労働者側代理人(弁護士)が就任した場合や労働組合との団体交渉が必要となる場合には、弁護士によるサポートが有効かつ効果的です。
会社(経営者)の意向を尊重しながら、民事裁判等重大なリスクに発展する前に解決できるように最善を尽くします。
⑤問題行動を予防するための研修サポート
問題行動を行ってしまった社員の中には、問題点を十分に理解できていない社員や知らなかった社員もいます。
そのため、問題行動を事前に予防するため、また、再発を防止するためには、コンプライアンス研修やハラスメント研修が有効な手段となります。
これらの研修は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環ともいえ、コンプライアンスが強く求められる現代社会において、多くの企業が取り組んでいますし、その取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージを向上できます。コンプライアンス研修やハラスメント研修は、弁護士に依頼できますので、是非、ご相談ください。
問題社員(モンスター社員)対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。
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Last Updated on 2024年7月31日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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