退職勧奨に関してよくある相談例
①退職勧奨をしたら、パワハラと言われている。
②退職勧奨を考えているが、注意点を知りたい。
③退職勧奨を行ったら、労働組合や弁護士から交渉を求められている。
退職勧奨とは?
退職勧奨とは、①会社が従業員に対して退職を勧める行為や②会社による従業員に対する合意退職の申込に対する承諾を勧める行為をいいます。
退職勧奨を会社が従業員に対して行うことは、原則として自由であり、直ちに違法とされるべき性質のものではありません。
例えば、東京地判平成25年11月12日労判1085号19頁(リコー子会社出向事件)でも、「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるから,説得活動のための手段及び方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行いうると解するのが相当である」としています。
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退職勧奨のポイント
退職勧奨そのものが違法行為となるわけではなく、退職勧奨の内容や方法が相当である限り、問題社員(モンスター社員)対応の有用な方法の選択肢として検討できます。
しかも、退職勧奨がうまくいけば、従業員の同意を得て退職手続を行うことになるため、深刻な労働トラブルや労働裁判を回避することも可能で、退職勧奨は、円満に労働契約を終了させるための方法といえます。また、従業員としても、自らが希望する退職時期や退職条件を伝えることが可能であり、転職等を前向きに考えるきっかけにもなって、従業員にも十分にメリットがあります。労使双方にとって、円満な解決を模索する方法として、退職勧奨を否定的に捉える必要はありません。
もっとも、退職勧奨の時期や方法を間違えると、問題解決しないだけでなく、労働トラブルが複雑化したり、深刻化したりすることもあります。特に、会社も従業員も双方が感情的になって、短絡的な提案を行うと、話し合いでは決着がつかず、最終的な手段である解雇を選択することになり、労働裁判に発展することもあります。
そのため、問題社員(モンスター社員)への対応を失敗しないためにも、退職勧奨を行う場合、そのリスクや注意点を知っておくことは大切です。
退職勧奨のリスク
①退職勧奨に応じないリスク
退職勧奨は、解雇(*)とは異なり、退職勧奨に応じるかどうかは、従業員の判断に委ねられ、従業員には退職勧奨に応じる義務がありません。
東京高判平成24年10月31日(日本アイ・ビー・エム事件)でも、「労働契約は、一般に、使用者と労働者が、自由な意思で合意解約をすることができるから、基本的に、使用者は、自由に合意解約の申入れをすることができるというべきであるが、労働者も、その申入れに応ずべき義務はないから、自由に合意解約に応じるか否かを決定することができなければならない」とし、退職勧奨(会社が従業員に対して任意退職に応じるよう促し、説得等を行うこと)があるとしても、「その説得等を受けるか否か、説得等に応じて任意退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであり、退職勧奨は、その自由な意思形成を阻害するものであってはならない」としています。
つまり、退職勧奨を行ったとしても、必ず従業員が退職になるわけではなく、退職勧奨を行う時期や方法、内容については慎重に検討する必要があります。
退職勧奨が失敗してしまうと、会社と従業員との信頼関係も低下してしまい、労働トラブルや労働紛争が顕在化してしまう原因になります。
退職勧奨を行う際には、退職勧奨がうまくいかない可能性があることを踏まえて、その後の対応策も準備しておく必要があります。これによって、冷静に退職勧奨を行うことができて、退職勧奨の成功確率をあげることが可能となります。
*解雇とは、従業員の同意なく、会社の申し出による一方的な雇用契約の終了を指します。
②損害賠償責任が発生するリスク
東京地判平成25年11月12日労判1085号19頁(リコー子会社出向事件)では、「退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負う」とされています。
つまり、会社による従業員に対する退職勧奨について、社会的相当性を逸脱した態様で半強制的に行われた場合や執拗な退職勧奨が行われた場合、違法と判断され、損害賠償責任が発生するリスクがあります。
違法な退職勧奨によって損害賠償責任を認めた裁判例としては、京都地判平成26年2月27日(エム・シー・アンド・ピー事件)(慰謝料30万円)や東京高判平成24年11月29日(日本航空雇止め)事件(慰謝料20万円)があります。
③退職合意が無効となったり、休職期間満了による退職が無効となるリスク
退職勧奨の内容や方法に問題がある場合、退職合意が無効となったり、休職期間満了による退職が無効となるリスクがあります。
A 退職合意が無効とされたケース―横浜地裁川崎支部平成16年5月28日判決(昭和電線電纜事件)
「原告が本件退職合意承諾の意思表示をした時点で,原告には解雇事由は存在せず,したがって原告が被告から解雇処分を受けるべき理由がなかったのに,原告はBの本件退職勧奨等により,被告が原告を解雇処分に及ぶことが確実であり,これを避けるためには自己都合退職をする以外に方法がなく,退職願を提出しなければ解雇処分にされると誤信した結果,本件退職合意承諾の意思表示をしたと認めるのが相当であるから,本件退職合意承諾の意思表示にはその動機に錯誤があったものというべきである」とし、退職合意を無効と判断しています。
B 休職期間満了による退職が無効とされたケース―京都地判平成26年2月27日(エム・シー・アンド・ピー事件)
「平成23年8月22日以降の被告の原告に対する退職勧奨は、原告が退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職勧奨を行ったもので、強い心理的負荷となる出来事があったものといえ、これにより原告のうつ病は自然経過を超えて悪化したのであるから、精神障害の悪化について業務起因性が認められる。そうすると、被告は、原告を休職期間の満了により退職したとすることはできず、休職期間の満了により退職したとの被告の主張は採用できず、原告は、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるというべきである」とし、退職勧奨の方法を問題視して休職期間満了による退職の効力を否定しています。
退職勧奨の注意点
①退職勧奨に応じるメリットを示すこと
退職勧奨は、従業員が任意に応じることが必要であり、退職勧奨か解雇かという二択を提示するだけで解決することは、あまりありません。そのため、従業員が退職勧奨に応じてもいいと思える条件を事前に準備しておくことが必要であり、退職勧奨に応じるメリットを示すことが大切です。これによって、退職勧奨がスムーズに進み、会社にとっても、従業員にとっても、双方が納得し、円満に問題を解決することができます。
感情的になって、思い付きで退職勧奨を実行しないように注意する必要があり、退職勧奨に応じるメリットを提案できるように、事前の十分な調査や準備が大切です。
退職勧奨前には、交渉戦略や交渉シナリオを作成した上で、冷静になって臨めるようにしておくことが必要です。
②パワハラと言われたり、解雇と言われたりしないように注意すること
退職勧奨では、退職してほしいという思いが強くなってしまい、感情的な言葉を投げかけたり、また、長時間の面談となってしまったり、従業員からパワハラと主張されてしまうことがあります。
退職勧奨を行うこと自体は問題がないため、直ちにパワハラと判断されるわけではありませんが、退職勧奨の方法について、社会的相当性を逸脱していると言われないように注意する必要があります。
退職勧奨の面談の中で、パワハラ行為が行われてしまうと、従業員側からクレームを正当化する理由になってしまったり、問題解決が長期化・複雑化してしまうことになるため、注意する必要があります。
また、退職勧奨の中で、「やめてしまえ」とか、「クビだ」とか言ってしまうと、会社としては、退職勧奨のつもりが、従業員から、「解雇」であると主張され、解雇紛争が発生してしまうことがあります。日本の労働法では、解雇権濫用法理規制の中で解雇権の行使は厳しく制限されています。退職勧奨の中で、解雇と評価されないように注意する必要があります。
退職勧奨の際に注意すべき発言(NG発言)とは?
・あなたは、役に立たない。
・人間失格である。
・退職勧奨に応じなければ、直ちに解雇する。
・怒鳴る、大きな声を出して威圧する。
・辞めてしまえ!クビだ!!
③録音されている可能性があること
退職勧奨では、従業員側も自らの状況を理解していることも多く、退職勧奨の面談において、従業員側が録音していることも想定すべきです。そのため、会社側としても、録音することを検討し、また、録音されたとしても、問題視されないような発言を行わなければなりません。
退職勧奨における面談では、従業員が無断で録音している可能性について、十分に注意しなければなりません。
弁護士による退職勧奨のサポート対応
①退職勧奨を有利に進めるためのアドバイス
弁護士は、退職勧奨対応について、冷静かつ客観的に分析・アドバイスを行い、問題社員(モンスター社員)の解決に向けたサポートを行います。退職勧奨や問題社員対応について、経営者が1人で抱え込まないよう、経営者の立場に立って必要なアドバイス・サポートを行います。
特に、違法な退職勧奨といわれないように、また、退職勧奨の成功確率をあげるために、経営者に寄り添い、法的な視点からアドバイスを行い、冷静かつ客観的な判断ができるようにサポートします。
②退職勧奨に向けた書類作成サポート
退職勧奨に向けた書類作成(退職勧奨を行う理由や退職条件の提案等)が必要となる場合、弁護士は、退職勧奨に向けた書類作成をサポートします。
万が一、退職勧奨が失敗し、労働トラブルや労働裁判に発展した場合、退職勧奨で用いられた書類が重要な証拠となる場合があります。書類づくりに失敗しないためにも、弁護士が会社や経営者の立場に立って紛争を予防するため、また、紛争を解決するための書類作成に協力します。
③労働トラブルの窓口対応/代理交渉
退職勧奨に際して、対象従業員との間でトラブルとなる場合、ケースによっては、弁護士に窓口対応や代理交渉を依頼することも検討するべきです。
特に、労働者側代理人(弁護士)が就任した場合や労働組合との団体交渉が必要となる場合には、弁護士によるサポートが有効かつ効果的です。
会社(経営者)の意向を尊重しながら、民事裁判等の重大なリスクに発展する前に解決できるように最善を尽くします。
④労働審判や労働裁判の対応
労働審判や労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。
この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。
⑤問題行動を予防するための研修サポート
問題行動を行ってしまった社員の中には、問題点を十分に理解できていない社員や知らなかった社員もいます。
そのため、問題行動を事前に予防するため、また、再発を防止するためには、コンプライアンス研修やハラスメント研修が有効な手段となります。
これらの研修は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環ともいえ、コンプライアンスが強く求められる現代社会において、多くの企業が取り組んでいますし、その取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージを向上できます。コンプライアンス研修やハラスメント研修は、弁護士に依頼できますので、是非、ご相談ください。
退職勧奨対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
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Last Updated on 2024年7月10日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の中小企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の中小企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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