不活動時間とは?12時間または24時間シフトで実作業がない時間帯について労働時間性を否定した裁判例について、弁護士が解説します~東京地判平成20年3月27日【大同工業事件】~

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12時間ないし24時間シフトで、実作業がない時間帯(不活動時間)について労働時間性を否定した裁判例について、弁護士が解説します~東京地判平成20年3月27日【大同工業事件】~

よくある相談

①実作業がない時間(不活動時間)について、労働時間と主張され、未払残業代を請求されています。

②24時間シフトを活用したいが、未払残業代のリスクを低くしたい。

③実作業がない時間帯でも、労働時間と判断されますか?

東京地判平成20年3月27日【大同工業事件】(本判決)のポイント

①労働基準法上の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、このような時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定められる。

②不活動時間の労働時間性を判断するためには、ア)1回のシフト時間帯に現実に労務を提供する回数や実稼働時間、イ)本件不活動時間の長さやウ)不活動時間中の従業員の活動・行動様式を総合的に考慮して判断する。

③実労働の有無を問わず、シフト担当時間帯のすべてが「労働時間」になるという従業員の主張に理由がない場合、未払残業代を主張する従業員は、実際の労働時間に基づき、割増賃金の対象となり得る労働時間を特定する必要がある。

事案の概要

①従業員は、予め、日ごとに、担当する時間帯や担当する作業に応じて分類された勤務割り(シフト)が割り振られ、個々の従業員は、シフトのスケジュールに応じて作業に従事することになっていた。

②シフトの担当時間帯には、ア)午前9時から翌日午前9時までの24時間(24時間シフト)、イ)午前9時から午後12時までの15時間(15時間シフト)及びウ)午前9時から午後9時までの12時間(12時間シフト)の3種類がある。

③原告は、実作業に従事する時間に加えて、不活動時間も被告の指揮命令下に置かれていたものと評価できるから、シフト担当時間帯全体が労働基準法上の「労働時間」に該当すると主張し、時間外割増賃金を請求した事案である。

判旨

「労基法所定の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、このような時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定められるものと解される」

「被告は原告らに対し、シフト担当時間帯に本件委託業者から修理依頼があれば、これに応じて、可能な限り迅速に現場に赴いて、工事に着手することを義務づけていたと認められ」、「本件委託業者から修理依頼のある回数・時期が不定期・不規則であること」も考慮すれば、「原告従業員にとって、シフト担当時間帯は修理依頼に応じて労務提供の可能性を内包する時間であったといえる」

「本件委託業者からの修理依頼には、予め、工事時間を予告しておくものもあり、同業者から寄せられたすべての依頼に迅速な対応が求められていたわけではない」こと、「最も出動回数が多いシフトで平成16年に368回、同17年に352回であり(割合は日に1件前後のものとなる。)、また、午後9時から翌日午前9時までの間の深夜・早朝時間を含んだ時間帯の出動も、最も出動回数が多いシフトで平成16年で40回、同17年で50回程度であること、さらに、車両等の運転作業を担当するシフトでは、その出動回数は、多いもので平成16年の282回、同17年で278回であり、取り分け、ブレーカー担当のそれは平成16年に171回、同17年に183回と格段に少ないこと」、そして、「原告ら従業員はこれらの各シフトをローテーションにより担当していたこと」からすると、「本件委託業者からの修理依頼は、全体としてみると、その頻度は日に1回程度で、深夜・早朝時間帯には少ないといえる。」

「原告ら従業員が実際に出動する頻度は平均で1日に1回以下となる。」

「24時間シフトであっても、その担当時間帯において実稼働時間が占める割合は小さく、むしろ、不活動時間が占める割合の方が格段に大きいと認められる」

「原告ら従業員の本件不活動時間帯の活動・行動様式は、社会通念に照らすと、自宅からの通勤労働者が自宅で過ごすのとさほど異ならないものであったと評するのが相当である」

本件不活動時間の労働時間該当性につき判断すると、労務提供の可能性があるという意味では、本件不活動時間であっても、原告ら従業員の活動・行動には一定の制約が及んでいたことは否定できないものの、原告ら従業員が1回のシフト時間帯に現実に労務を提供する回数や実稼働時間、そして、その逆の関係となる本件不活動時間の長さに加え、本件不活動時間中の原告ら従業員の活動・行動様式をも勘案すると、シフトの開始・終了時刻が、始業時刻・終業時刻と同様な意味での拘束性を有するものとは直ちに評し難く、むしろ、本件不拘束時間において、原告ら従業員は高度に労働から解放されていたとみるのが相当である。すなわち、本件不活動時間が被告の指揮命令下に置かれていたとは評価するには足りない。

「本件不活動時間が労基法上の「労働時間」に当たるとはいえないから、実労働の有無を問わず、シフト担当時間帯のすべてが「労働時間」となるとの原告らの主張はその前提を欠き、採用できない。したがって、原告らの本件各請求が認められるためには、実際の労働時間に基づき、割増賃金の対象となり得る労働時間を特定する必要があるところ、原告らの主張はそのようなものとなっていないので」、「時間外労働に係る割増賃金の支払を求める原告らの主張は失当となる。」

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不活動時間に関する検討

1 不活動時間に関するリーディングケースー最判平成14年2月28日(大星ビル管理事件)

「労基法三二条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである」

「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

「本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、上告人らは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。」

2 本判決の意義

本判決は、シフト担当時間帯に委託業者から修理依頼があれば、これに応じて、可能な限り迅速に現場に赴いて、工事に着手することを義務づけられていたことや寮への寄宿を余儀なくされていたと認定している。

もっとも、ア)1回のシフト時間帯に現実に労務を提供する回数や実稼働時間(原告ら従業員が実際に出動する頻度は平均で1日に1回以下)、イ)不活動時間の長さ(24時間シフトであっても、その担当時間帯において実稼働時間が占める割合は小さく、むしろ、不活動時間が占める割合の方が格段に大きい)及びウ)不活動時間中の従業員の活動・行動様式(不活動時間に原告らも食事・入浴などの日常活動を行っていた)を考慮して、不活動時間が被告の指揮命令下に置かれていたとは評価するには足りないとして、労働時間性を否定した点で重要な意義がある。

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弁護士による未払残業代請求への対応サポート

①従業員等の請求根拠に対する法的検討・法的精査

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金が請求されたとしても、その請求が法的に正しいとは限りません。実際、従業員から法的根拠なく残業代を請求されるケースがよくあります。

そのため、法律の専門家である弁護士によって従業員等の請求根拠を法的な観点から緻密に精査することが必要となります。法的な根拠・理由を十分に精査することなく、安易に残業代や未払い賃金を支払ってしまうと、その情報が流布され、他の従業員から同様の請求がされてしまうケースもあります。

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②残業代や未払い賃金対応の代理交渉

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金を請求されたとき、経営者や人事担当者の皆様が従業員等と交渉することは精神的・物理的な負担が大きく、また、従業員との過去のトラブル等から冷静に対応できないことも多々あります。また、従業員等が弁護士に依頼し、従業員側弁護士が交渉を求めてくることがあります。

このような場合、経営者や人事担当者の皆様が直接交渉を行うことは、得策ではない場合もあり、法律やトラブル・紛争の解決の専門家である弁護士に代理交渉を依頼する方がメリットが大きいといえます。

企業の労務トラブルは使用者側に特化した大阪の弁護士にご相談ください

弁護士に代理交渉を依頼することによって、経営者や担当者の皆様の負担軽減につながるとともに、適切なタイミング・方法で解決することも可能となります。また、企業の主張・考えを法的枠組みで整理することによって、企業側の主張をより説得的に伝えることができます。

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③労働裁判の代理活動

労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。

④労働組合対応

多くの会社経営者や役員の方にとって、団体交渉を経験した人は少なく、また、団体交渉の準備・参加について、心理的にも物理的にも過度な負担がかかります。

そのため、紛争・訴訟や労働法に精通する弁護士に団体交渉対応を依頼することによって、経営者の皆様の負担を軽減し、団体交渉を有利に進め、労働問題の適切な解決を目指すことができます。

労働問題を深刻化させないためにも、団体交渉申入書を受け取ったら、早めに労働法の専門家である弁護士に相談することを検討ください。

弁護士によるサポート内容

・労働組合との窓口対応

・団体交渉申入書に対する回答書の作成

・団体交渉への立会・参加

・団体交渉の準備・資料作成サポート

・和解書(合意書)の作成

・団体交渉に向けたアドバイス

・不当労働行為の対応

⑤労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)

残業代や未払い賃金トラブルが起きないようにするためにも、労働条件を整備する必要があります。具体的には、企業のニーズや実情を把握して、雇用契約書や就業規則・給与規定を法的な観点・枠組みを踏まえて検討しなければなりません。

そのためにも、労働条件を記載している雇用契約書や就業規則・給与規定のリーガルチェックが必要であり、企業の持続的な成長のためには将来のリスク予防は重要です。

また、残業代や未払い賃金トラブルは、他の従業員にも波及してしまう可能性もあるため、そのトラブルの原因や問題点を早期に把握して、見直し・改善していくことが必要となります。

弁護士は、企業の立場で、労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)をサポートします。

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弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。

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Last Updated on 2024年11月20日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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