仮眠時間は労働時間?残業代を支払う際の注意点とは?仮眠時間の労働時間該当性について、弁護士が解説します。

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仮眠時間は労働時間?残業代を支払う際の注意点とは?仮眠時間の労働時間該当性について、弁護士が解説します。

労働時間についてよくある相談

①深夜に仮眠している従業員にも残業代を支払う必要がありますか?

②どのような場合に、労働時間と認められますか?

③仮眠時間中でも電話対応やクレーム対応をさせても問題ありませんか?

仮眠時間は労働時間?

夜勤勤務シフトで働く従業員や宿泊を前提とする従業員等のように仮眠時間を前提として働く従業員が一定数います。

このような従業員が、仮眠によって体力を回復し、リフレッシュすることで、業務の生産性を向上させることは、企業にとっても大きなメリットとなります。

しかし、仮眠時間等実際に作業を伴わない不活動時間について、具体的な労働密度が低く、労働時間であるか否かをどのように判断するかが問題となります。具体的には、仮眠時間の労働時間性について、企業と従業員との間で争われることがあり、労働トラブルや労働紛争に発展することもあります。

仮眠時間が労働時間に該当すると判断されれば、従業員に対して未払残業代の支払が必要であると判断されることもあります。

本コラムでは、仮眠時間が労働時間に該当するかについて、裁判例を踏まえた判断基準や企業側の対応について、解説します。

労働時間とは?

そもそも「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。そして、「労働時間」に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に決まります。

仮眠時間においても、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとして、労働時間に該当すると評価される場合、使用者は、仮眠時間についても賃金を支払う必要があるので注意が必要です。

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仮眠時間の労働時間該当性の判断基準

企業の立場から、仮眠時間が労働時間に該当するかどうかを判断する際、以下のポイントが重要です。

①指揮命令下にあるかどうか

仮眠時間中も従業員が業務対応を求められる可能性がある場合(例えば夜間の緊急対応等)、労働時間として判断される傾向にあります。そのため、仮眠時間を設定する際は、従業員が業務から完全に離れられる状況が確保されているかどうかを確認するとともに、そのことを明示することが大切です。

②対応義務と実際の拘束性の確認

業務の一環として、「仮眠中でも対応が必要」という義務が発生する場合、労働時間に該当する傾向にあります。

例えば、宿直業務や夜間待機を含む仕事の場合、たとえ仮眠時間が設定されていても、急な対応が求められる状況では労働時間として扱われる可能性があります。そのため、従業員が確実に仮眠を取れる環境を整え、拘束されていないという状況を作ることがポイントとなります。

③深夜勤務における実際の活動状況

深夜勤務において、実際に、頻繁に対応が求められたり仮眠時間中に呼び出される場合、実質的に労働していると見なされる可能性が高まります。

そのため、仮眠時間中の業務発生をどの程度想定しているかを再検討し、実際の活動状況に基づき取り扱いを見直すことがリスク回避につながります。

仮眠時間の労働時間該当性が問題となった裁判例

過去の裁判例でも、仮眠時間中の労働時間該当性について争われてきましたが、多くの判例での判断基準は、「指揮監督下」「対応義務」「拘束性」の三要素を総合的に考慮しています。

以下、仮眠時間の労働時間該当性を肯定した裁判例、否定した裁判例をそれぞれ紹介します。

仮眠時間の労働時間性を肯定した裁判例~最判平成14年2月28日(大星ビル管理事件)~

事案の概要

ビル管理会社の従業員が従事する泊り勤務の間に設定されている連続七時間ないし九時間の仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例

判旨

「労基法三二条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである」

「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

「本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、上告人らは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。」

「労働契約において本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について時間外勤務手当、深夜就業手当を支払うことを定めていないとしても、本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上、被上告人は本件仮眠時間について労基法一三条、 三七条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある。」

判決のポイント

①労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まることを明示しました。

②不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるとしました。

③本件事案において、労働者は、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられていたことを重要な事実として、本件仮眠時間の労働時間性を肯定しました。

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仮眠時間の労働時間性を否定した裁判例~東京高裁平成30年8月29日(カミコウバス事件)~

事案の概要

夜行バスの交替運転手として車内にいた時間が労働時間に当たらないとされた事例

判旨

「運転者が一人では運行距離等に上限があるため、被控訴人は交代運転手を同乗させているのであって、不活動仮眠時間において業務を行わせるために同乗させているものとは認められない。」

「交代運転手の非運転時間は拘束時間には含まれるものの、休憩時間であって労働時間ではないことが前提とされている」

「交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり、飲食することも可能であ」り、「不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。」

「交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし、その際に、制服の着用は義務付けられていたものの、被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。」

「交代運転手が不活動仮眠時間に乗客の苦情や要望に対する対応を余儀なくされることがあったとしても、それは例外的な事態であると考えられる。」

「交代運転手は被控訴人から非常用に携帯電話を持たされていたものの、被控訴人からの着信がほとんどな」く、「非常用に携帯電話を持たされていたことをもって、携帯電話に関して役務の提供が義務付けられていたとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することもできない。」

判旨のポイント

夜行バスに乗車している交代運転手の不活動仮眠時間について、①休憩時にはリクライニングシートで仮眠でき、飲食することも可能であったこと、②交代運転手が乗客への対応等の業務を本来行うことを予定している時間であるとはいえないこと、③非常用に携帯電話を持たされていたものの、会社からの着信はほとんどなかったこと等を理由に、役務の提供が義務付けられているとはいえず、労働時間に該当しないと判断しました。

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仮眠時間とトラブル回避の対応策

仮眠時間の取扱いについて、労働トラブルや労働裁判を防ぐため対応策を講じておくことが大切です。

企業の労務トラブルは使用者側に特化した大阪の弁護士にご相談ください

①労働条件通知書の明記

仮眠時間が労働時間に該当するかどうか、どのような場合に労働時間とみなされるかについて、労働条件通知書で明確に定めておくことが重要です。

労働条件通知書に記載しておくことで、後に従業員から、仮眠時間が労働時間であるとして、未払賃金の請求を受けるリスクが軽減されます。また、訴訟になった際、企業にとって有利な証拠になり得ます。 

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②業務の特性に応じた仮眠時間の環境整備

宿直や夜勤が伴う業務については、従業員が確実に仮眠を取れる環境を整えたり、緊急対応の頻度を管理することで、仮眠時間を労働時間から除外できる可能性が高まります。

具体的には、ある従業員が仮眠を取る場合、仮眠室で仮眠をとることを徹底し、電話対応は他の従業員に行わせる、緊急対応を頻繁に強いられる日時を把握し、当該日時に、多くの従業員にシフトに入ってもらうなど、業務の特性に応じ、労働環境を整備することが大切です。

③トラブル発生時のリスク管理

実際に、残業代請求された場合、反論を行うため、まずは資料の準備を行う必要があります。本コラムでは、仮眠時間について言及しているため、仮眠時間が労働時間であるとして、未払賃金を請求されている場面を想定します。

企業側とすれば、仮眠時間が労働時間に該当しない(使用者の指揮命令下にない)という反論を行うため、仮眠時間中の労働密度が低いことを基礎づける証拠(仮眠時間中に入電がなかったことを示す電話記録、仮眠時間中は飲食を許可し、仮眠室に用意しているベッドで仮眠することを許容する旨の覚書等)を準備しておくことが重要です。

弁護士による未払残業代請求への対応サポート

①従業員等の請求根拠に対する法的検討・法的精査

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金が請求されたとしても、その請求が法的に正しいとは限りません。実際、従業員から法的根拠なく残業代を請求されるケースがよくあります。

そのため、法律の専門家である弁護士によって従業員等の請求根拠を法的な観点から緻密に精査することが必要となります。法的な根拠・理由を十分に精査することなく、安易に残業代や未払い賃金を支払ってしまうと、その情報が流布され、他の従業員から同様の請求がされてしまうケースもあります。

②残業代や未払い賃金対応の代理交渉

従業員/元従業員から残業代や未払い賃金を請求されたとき、経営者や人事担当者の皆様が従業員等と交渉することは精神的・物理的な負担が大きく、また、従業員との過去のトラブル等から冷静に対応できないことも多々あります。また、従業員等が弁護士に依頼し、従業員側弁護士が交渉を求めてくることがあります。

このような場合、経営者や人事担当者の皆様が直接交渉を行うことは、得策ではない場合もあり、法律やトラブル・紛争の解決の専門家である弁護士に代理交渉を依頼する方がメリットが大きいといえます。

弁護士に代理交渉を依頼することによって、経営者や担当者の皆様の負担軽減につながるとともに、適切なタイミング・方法で解決することも可能となります。また、企業の主張・考えを法的枠組みで整理することによって、企業側の主張をより説得的に伝えることができます。

③労働裁判の代理活動

労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。

④労働組合対応

多くの会社経営者や役員の方にとって、団体交渉を経験した人は少なく、また、団体交渉の準備・参加について、心理的にも物理的にも過度な負担がかかります。

そのため、紛争・訴訟や労働法に精通する弁護士に団体交渉対応を依頼することによって、経営者の皆様の負担を軽減し、団体交渉を有利に進め、労働問題の適切な解決を目指すことができます。

労働問題を深刻化させないためにも、団体交渉申入書を受け取ったら、早めに労働法の専門家である弁護士に相談することを検討ください。

弁護士によるサポート内容

・労働組合との窓口対応

・団体交渉申入書に対する回答書の作成

・団体交渉への立会・参加

・団体交渉の準備・資料作成サポート

・和解書(合意書)の作成

・団体交渉に向けたアドバイス

・不当労働行為の対応

⑤労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)

残業代や未払い賃金トラブルが起きないようにするためにも、労働条件を整備する必要があります。具体的には、企業のニーズや実情を把握して、雇用契約書や就業規則・給与規定を法的な観点・枠組みを踏まえて検討しなければなりません。

そのためにも、労働条件を記載している雇用契約書や就業規則・給与規定のリーガルチェックが必要であり、企業の持続的な成長のためには将来のリスク予防は重要です。

また、残業代や未払い賃金トラブルは、他の従業員にも波及してしまう可能性もあるため、そのトラブルの原因や問題点を早期に把握して、見直し・改善していくことが必要となります。

弁護士は、企業の立場で、労働条件の整備(雇用契約書や就業規則の作成)をサポートします。

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弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。

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Last Updated on 2024年11月20日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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