
物流の2024年問題とは
日本では、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立等働く方のニーズの多様化等の状況に直面しており、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる職場環境を作ることが重要な課題になっています。
この課題を解決するために、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が2018年に成立し、「働き方改革」(働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を 自分で「選択」できるようにするための改革)が進められています。
「働き方改革」の具体的な内容は、①年次有給休暇の時期指定、②時間外労働の上限制限、③同一労働・同一賃金等です。
運送業(物流業)でも、慢性的な人手不足・採用難や従業員の高齢化が加速している中で、働き方改革は喫緊の課題といえます。特に、2024年4月からドライバーの時間外労働の上限制限(年960時間)が適用されることになります。また、2024年4月からトラック運転者の改善基準告示が改正されます。
これを「物流の2024年問題」といい、運送業界において、人手不足・採用難や従業員の高齢化が加速する中で取り組むべき重要な問題といえます。
時間外労働の上限規制
自動車運転業務について、時間外労働の上限規制の猶予期間が終了し、2024年4月1日から、時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間となり、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含みません。)を限度に設定する必要があります。
時間外労働の上限規制に違反する場合、罰則(労働基準法119条・6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。
*ただし、時間外労働の上限規制のうち、時間外労働と休日労働について「月100時間未満」「2~6か⽉平均80時間以内」 とする規制や「時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か⽉まで」とする規制は適用されません。
トラック運転者の改善基準告示
トラック運転者の改善基準告示が改正されます。
①1年の拘束時間 :3516時間 → 原則:3,300時間(最大:3,400時間)
②1か月の拘束時間:原則293時間(最大320時間) → 原則284時間(最大310時間)
③1日の休息期間 :継続8時間 → 継続11時間を基本とし、継続9時間
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ(25%→50%)
2023年4月1日から、大企業のみならず、中小企業についても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。中小企業に該当するかどうかは、資本金の額又は出資の総額と常時使用する労働者数で判断されます。
この割増賃金率の引き上げは、運送業者にも適用されることになり、運送業者にとっては対応すべき課題となります。
運送業における2024年問題による影響
1 運送会社の売上・利益の減少
運送業界のビジネスモデルは、人の労働量が売上に直結する労働集約型産業ともいわれています。ドライバーの時間外労働の上限規制が適用されることによって、運送会社の売上・利益が減少するおそれがあります。
2 ドライバーの収入減少と離職の増加
ドライバーの時間外労働の上限規制が適用されることによって、従来支払われていた時間外手当等が支払われなくなると、ドライバーの収入が減少し、その結果、離職も増加することが懸念されます。
また、ドライバーの収入の減少に伴い、残業代請求のリスクも増加する懸念もあります。
3 運賃の上昇
ドライバーの処遇を改善するためにも、また、運送会社の売上・利益を維持するためにも、運送会社は荷主と協議し、従前の運賃を見直す必要があり、運賃が上昇する可能性があります。
運送業者の2024年問題への対処方法について
1 現状の整理・分析
まず、会社内に時間外労働が年960時間を超える従業員がいるかどうかを確認する必要があります。もしいる場合、その原因を洗い出します。原因として業務量が過重になっていないか、社内体制に問題がないか、また、荷主先における待機時間・荷役時間、無理な運航依頼がないかを検討します。
原因が判明すれば、時間外労働の削減に向けた具体的な取組みを行います。
2 ドライバー人材の確保・定着
会社の売上確保に向けて、また、時間外労働の削減に向けて、ドライバー人材を確保 し、定着に向けた取り組みが必要となります。そのためには、ドライバーの賃金・処遇の 改善とともに、働きやすい環境作りが必要となります。
3 荷主との調整
労働時間を削減するためには、荷待ち時間や荷役時間を削減する必要があり、荷主との 間で業務フローや手順の見直しを調整する必要があります。
また、ドライバーの処遇改善のために料金体系の協議・見直しも必要となります。また、AIやIOTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も検討する必要があります。
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弁護士による残業代請求対応についてはこちらから Last Updated on 2024年10月31日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
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代表弁護士 細井大輔
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