よくある相談例
①従業員がどのような義務を負っているか伝えたい。
②従業員が会社情報を第三者に提供している。
③従業員の義務違反に対して厳しく対応したい。
雇用契約とは?~会社と従業員との契約関係〜
「雇用契約」とは、従業員(労働者)が、会社(使用者)の指揮命令に従って労働することを約束し、会社(使用者)がこれに対して、報酬を支払うことを約束する契約のことをいいます(民法623条)。
従業員と会社との間で雇用契約を締結している場合、従業員には、①労務提供に対する対価(賃金)を会社に請求する権利や②年次有給休暇(労働基準法39条)を取得する権利等があります。
その一方で、従業員は、雇用契約に基づく権利を有するだけでなく、「義務」を負っていることも理解する必要があります(労働契約法3条4項)。
例えば、従業員は、雇用契約に従い、労務提供義務・誠実労働義務・職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務等を負っています。
従業員がこれらの義務に違反して使用者に損害を与えた場合、従業員は、債務不履行責任や不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法415条、民法709条)。
また、従業員が労務提供中に、自らの義務に違反して、第三者に損害を発生させ、会社が使用者責任(民法715条)に基づき当該第三者に対して損害を賠償した場合、従業員は会社から当該損害の全部又は一部について求償される可能性があります(民法715条3項)。
さらに、従業員が雇用契約に基づく義務に違反する場合、懲戒処分の対象となることもあります。
そのため、従業員は、自身の権利だけでなく、義務について、しっかり理解し、日々の業務を遂行する必要があります。また、会社も従業員に対して従業員が雇用契約に基づく義務があることを周知し、自覚してもらう必要があります。
もし会社が従業員に対して、従業員の義務を周知することや義務違反に対して注意や指導を放置していると、会社が従業員に対して責任追及できないこともあるため、注意する必要があります。
また、会社が人事制度(人事ルール)を検討する上でも、従業員の義務内容を踏まえて、従業員が働きやすく、また、活躍できるような仕組み(システム)を構築する必要があります。
労働法の枠組みを検討する上では、従業員の権利だけでなく、従業員の義務もしっかりと理解しておく必要があります。
民法623条(雇用)
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
労働契約法3条(労働契約の原則)4項
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
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従業員が負担する義務の具体例
従業員は、会社に対して、雇用契約に従い、以下の義務を負っています。
①労務提供義務
②誠実労働義務
③職務専念義務
④秘密保持義務
⑤競業避止義務
従業員の義務の内容
①労務提供義務とは?
従業員は、雇用契約の内容の範囲内で、労働の内容・遂行場所及び遂行方法等に関する会社の指揮命令に従って労働する義務があります。これを労務提供義務といいます。
労務提供義務は、会社と雇用契約を締結している労働者の代表的な義務であり、雇用契約に基づく本質的な義務といえます。
例えば、毎週月曜日から金曜日の午前9時から午後6時まで(うち休憩1時間)、会社で勤務するという内容の雇用契約を締結しているとします。
この場合、雇用契約の内容に従って業務を行っている場合は問題ありませんが、正当な理由なく、勤務時間内に勤務場所を離れたり、プライベートな用事をしていると、労務提供義務に違反していることになります。
②誠実労働義務とは?
従業員は、ただ出勤すれば良いというわけではなく、雇用契約を遵守するとともに、会社の就業規則等のルールを守り、誠実に労務を提供する必要があります。これを誠実労働義務といいます。誠実労働義務は、雇用契約に付随する労働者の義務の1つです。
例えば、会社の就業規則に、会社や他の従業員の誹謗中傷をしないという規定があるにもかかわらず、SNS等で会社の誹謗中傷を行った場合、誠実労働義務違反と判断される可能性があります。
また、会社の許可なく、会社の物品や施設等を私的な理由で使用した場合も、誠実労働義務違反と判断される可能性があります。
従業員は、労務提供義務に加えて、誠実労働義務を負担していることを理解しておく必要があります。
③職務専念義務とは?
会社と雇用契約を締結している従業員は、就業時間中は会社の指揮命令下で、職務に専念する必要があります。これを職務専念義務といいます。
職務専念義務は、誠実労働義務同様に、雇用契約に付随する労働者の義務の1つです。
例えば、就業時間中の携帯電話・インターネットの私的利用や業務時間中の副業は、職務専念義務違反と指摘される可能性があります。
従業員は、労務提供義務に加えて、職務専念義務を負担していることを理解しておく必要があります。
④秘密保持義務とは?
従業員は、会社の情報(会社の営業秘密や顧客情報等)を外部に漏らすことを禁止されています。これを秘密保持義務といいます。
秘密保持義務に関しても、雇用契約に付随する労働者の義務の1つです。
例えば、業務上知りえた顧客情報や商品・サービス情報を他社の従業員がいるような飲み会の場で話して、他社に真似されてしまうと、会社に損害を与えることもあります。これは、秘密保持義務に違反していると判断される可能性があります。
従業員は、雇用契約に基づき秘密保持義務を負っていることを理解し、プライベートでも、その言動に注意する必要があります。
⑤競業避止義務とは?
競業避止義務とは、従業員が会社の競業にあたる事業を行うことを禁止する義務をいいます。競業避止義務についても、雇用契約に付随する労働者の義務となります。
従業員は、在職中に、会社の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があり、違反行為を行った場合、就業規則の規定に従って懲戒処分が行われたり、損害賠償責任を負うことがあります。
例えば、従業員が雇用契約期間中に競業会社を設立した場合、競業避止義務に違反していると判断される可能性があります。
その一方で、従業員も職業選択の自由があり、退職後については、当然に競業避止義務を負うわけではありません。退職後も競業避止義務を負わせるためには、会社は就業規則や雇用契約書、誓約書の中で競業避止義務を規定しておく必要があります。
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労働者の義務違反を認め、諭旨解職処分を有効と判断した裁判-東京地判平成21年11月27日(平成21年(ワ)6598号)
①事案の概要
被告から本件研究所への赴任を命じられた原告が、その着任後、就業先である本件研究所にまる一日出社しないか、出社しても昼時までのごく短時間職場にいるだけで、すぐに外出し、そのまま戻らないといった勤務状態を連日繰り返したため、諭旨解職処分を行ったところ、原告が、本件諭旨解職処分には合理性が認められず、解雇権濫用に当たるものであって、無効であると主張した事案である。
②判旨
「本件研究所に配属されて以降、原告は、業務上の必要性の認められない不出社を全出勤日数の3分の1にわたって敢行し、また、被告から度重なる注意・指導及び本件懲戒を受けたにも関わらず、その後も業務上の必要性が認められない半日ないしそれ以上の外出行為を行ってきたものであって」、原告の一連の行為は、「正当な理由なく業務上遵守すべき法令に違反し、または会社の諸規定、もしくは指示・命令に従わなかった場合であって、会社に重大な不利益を与え、または情状の特に重いとき」であり、また、「過去に懲戒処分を受けたにもかかわらず繰り返し、改悛の見込みがないと認められたとき」に該当するものと認められる。
そのため、「本件諭旨解職処分の対象となった事由の態様、継続性、これに関する被告の注意・指導及び本件懲戒に対する原告の対応にかんがみれば、本件諭旨解職処分には社会的相当性が認められ、本件諭旨解職処分には何らの瑕疵も認められない」と判断した。
③ポイント
本判決は、従業員の義務違反を認め、諭旨解職処分を有効と判断している。
・原告が、研究所に配属されて以降、合理的な理由なく、外出を繰り返したこと
・原告が合理的な理由なく、外出を繰り返したことに対する被告の再三の業務指示を拒否したこと。
・原告が繰り返し行った外出が、被告の就業規則に記載されている「正当な理由なく業務上遵守すべき法令に違反し、または会社の諸規定、もしくは指示・命令に従わなかった場合」に当たること
従業員の義務違反を予防するための対策
①雇用契約書や誓約書の作成
従業員に義務を守ってもらうための対策として、まずは雇用契約書や誓約書を作成し、従業員に義務内容を理解してもらうことが必要です。
雇用契約書や誓約書において、わかりやすく、しっかりと記載しておくことによって、従業員による義務違反を予防できます。
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②就業規則の作成と周知
従業員に義務を守ってもらうため、そして、義務違反を行った場合のためにも、就業規則を作成し、従業員に内容を周知しておくことが必要です。
万が一、従業員トラブルについて、裁判になってしまった場合、就業規則に従業員の義務や懲戒事由、その手続が適切に記載されていないと、懲戒処分が無効となる等会社にとって不利な状況になってしまう可能性もあります。
就業規則は、労働条件や職場内の規律を定めた職場のルールであり、このルールを定めることによって、従業員も安心して働くことができますし、無用なトラブルを未然に回避することもできます。
③定期的な社内研修の実施
従業員に義務を守ってもらうため、定期的な社内研修を実施することも、重要です。従業員が、自らの義務を認識していない(知らない)可能性もありますので、社内研修を行うことで、うっかり(過失)による義務違反を回避できます。
社内研修の具体例
・雇用契約とは?
・従業員の義務とは?
・従業員の義務違反の具体例とリスク
・懲戒処分の具体例
・ヒヤリハット事例の紹介
④従業員との面談
従業員と面談を定期的に行うことで、従業員に義務内容を伝え、義務違反を回避できることもあります。
会社側としても、従業員が会社に対して思っていること、感じていること等を知ることによって、従業員の状況を理解するきっかけにもなり、モチベーションの維持にもつながります。また、義務違反行為に対して、注意や指導を行うことで、従業員の義務違反を予防できます。
⑤従業員に対する適切な注意や指導
従業員に義務を守ってもらうためには、注意や指導をしっかり行うことが重要です。注意や指導を後回しにしてしまうと、従業員が「これは問題ない」と勘違いしてしまう可能性があります。
そのため、後回しにせず、その場で注意や指導をすることも大切です。また、注意や指導を適切に行わないと、退職トラブルや解雇トラブルで深刻な問題となり、重大なリスクが発生することもあります。
ただ、注意や指導の方法によっては、従業員からハラスメントと主張されたり、「言った、言わない」という議論になり、労働裁判では、適切な注意や指導と認められない可能性もあるため、注意する必要があります。
弁護士による従業員の義務違反に対する対応
①雇用契約書・誓約書・就業規則の作成サポート
従業員の義務違反が業務命令違反である場合、懲戒処分を行うためにも、雇用契約書、誓約書及び就業規則において懲戒事由を明確に定めておくことが必要です。 また、義務違反を予防するためにも、また、会社にとって重大な影響を与えることを明確にするためにも、雇用契約書・誓約書・就業規則等の整備が必要不可欠です。
弁護士は、企業(経営者)の立場で、労働条件の整備(雇用契約書・誓約書・就業規則の作成)をサポートします。
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②従業員の義務違反に対する解決に向けたサポート
弁護士は、従業員の義務違反について、冷静かつ客観的に分析・アドバイスを行い、義務違反の解決に向けたサポートを行います。義務違反を行った従業員の対応について、経営者が1人で抱え込まないよう、経営者の立場に立って必要なアドバイス・サポートを行います。
弁護士は、義務違反を行った従業員との円満退職に向けたアドバイス・サポートもできます。
また、問題社員に対して、注意や指導を行うときに、書面による注意や指導(改善命令書や指導書)の作成サポートもできます。
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③懲戒処分に向けたアドバイス
弁護士は、会社(経営者)の立場に立って、法的な視点から、懲戒処分に向けて、適切な手続を踏むことができるようにアドバイスを行います。また、会社(経営者)が懲戒処分の判断を行うに際して、リスクの種類や内容を分析し、アドバイスを行います。
特に、問題行動(義務違反行為)を理由とする懲戒処分を行う場合、事実関係の確定や事後的な紛争に備えた証拠の確保も必要であり、関係者へのヒアリングや懲戒委員会への立会も含めて、弁護士はサポートできます。
弁護士によるサポートによって、適切な手続を行いながら、リスクを踏まえた判断・アクションが可能となります。
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④労働トラブルの窓口対応/代理交渉
対象従業員との間で懲戒処分の有無や内容を含めてトラブルとなる場合、ケースによっては、弁護士に窓口対応や代理交渉を依頼することも検討するべきです。
特に、従業員側代理人(弁護士)が就任した場合や労働組合との団体交渉が必要となる場合には、弁護士によるサポートが有効かつ効果的です。
会社(経営者)の意向を尊重しながら、民事裁判等の重大なリスクに発展する前に解決できるように最善を尽くします。
⑤労働審判や労働裁判の対応
労働審判や労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。
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⑥従業員の義務違反を予防(未然に防ぐ)するための研修サポート
義務違反行為を行ってしまった従業員の中には、義務違反を十分に理解できていない従業員や知らなかった従業員もいます。
そのため、従業員の義務違反を事前に予防するため、また、再発を防止するためには、コンプライアンス研修やハラスメント研修が有効な手段となります。
これらの研修は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環ともいえ、コンプライアンスが強く求められる現代社会において、多くの企業が取り組んでいます。
また、その取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージを向上できます。
コンプライアンス研修やハラスメント研修は、弁護士に依頼できますので、是非、ご相談ください。
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従業員の義務違反に対する対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。
Last Updated on 2024年5月22日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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