懲戒解雇とは?個人情報漏洩を行った従業員(社員)への処分について弁護士が解説!-クビにしたい場合の要件とは?-

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懲戒解雇とは?個人情報漏洩を行った従業員(社員)への処分について弁護士が解説!-クビにしたい場合の要件とは?-

従業員の個人情報漏洩が会社(企業)に与える影響とは?

 会社(企業)は、商品やサービスに関する機密情報や、お客様・取引先・従業員に関する情報(個人情報を含む。)を多く保有しており、これらの情報が外部に流出してしまうと、信用やブランドが大きく棄損されてしまうとともに、多大な損害賠償を負担するリスクがあります。また、競合会社に企業秘密が漏洩してしまうと、市場において、競争優位性を確保できない事態が生じてしまうこともあります。

 そのため、現在の情報社会において、情報漏洩は、会社として持続的な活動を阻害する要因になり、情報漏洩を行う従業員に対して、毅然とした対応を行う必要があります。

従業員による情報漏洩に関する最近の刑事裁判

①携帯会社の高速大容量通信システム「5G」の情報を流出させたとして、不正競争防止法違反を理由に、東京地裁は、元従業員に対して、懲役2年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を言い渡しました。

②大手飲食店の元社長が、競合会社への転職時に営業秘密を持ち出したこと等を理由に不正競争防止法違反(営業秘密侵害罪)の罪に問われ、東京地裁は、懲役3年、執行猶予4年、罰金200万円の有罪判決を言い渡しました。

③スポーツ用品大手会社の元従業員が社外秘のデータを不正に入手した行為(私用アドレスに転送)について、不正競争防止法違反を理由に逮捕され、有罪判決が言い渡されました。

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情報漏洩を行う従業員に対する対応方法-情報漏洩で社員をクビにできるのか-

 情報漏洩を行う従業員に対しては、以下の対応方法が考えられます。

①懲戒解雇

②退職金不支給

③損害賠償請求

④刑事告訴手続

従業員が営業秘密や情報漏洩を行った場合について弁護士が解説

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情報漏洩を理由とする懲戒解雇

 会社は、規律違反や秩序違反に対する制裁として懲戒処分を科すことが可能ですが、懲戒解雇は懲戒処分(制裁)として行われる解雇であり、懲戒処分の中で最も重い処分(極刑)です。

 情報漏洩による会社に対する影響を考えれば、懲戒解雇を検討することも可能です。東京地判令和2年1月29日(労判 1254号62頁)でも、情報漏洩を理由とする懲戒解雇を有効としています。

 なお、漏洩した情報の機密性を考慮すれば、第三者に流出がなくても、また、実際に損害が発生していなくても、情報の管理状況によっては、懲戒解雇が認められる可能性もあります。

東京地判令和2年1月29日(労判1254号62頁)ー情報漏洩を理由とする懲戒解雇を有効とした裁判例

①事案の概要

 銀行である被告と期間の定めのない雇用契約を締結した原告が、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に漏えいしたこと等を理由として懲戒解雇された事案です。

②判旨

 「原告は、平成26年5月頃から平成29年11月頃にかけて、本件情報セキュリティ規程に違反していることを認識しながら、対外秘である情報資産を持ち出し、情報を出版社等へ漏えいしたものであり、これら本件各違反行為は、被告の就業規則70条1号ないし3号及び17号に定める懲戒事由に該当する。」

 「被告は、銀行として国内外における金融サービスを提供するという業務の性質上、情報資産の適切な保護と利用が極めて重要であることから、本件情報セキュリティ規程を定め、被告職員に対して、情報セキュリティ対策の徹底を図っていた。そのような中、原告は、約3年半にわたって、被告外への持ち出し及び漏えいの禁止という情報セキュリティにおける基本的な規律に違反していることを認識しながら、漏えいが生じた場合に顧客等の情報主体又は被告グループの経営及び業務に対して重大な影響を及ぼすおそれがあるため厳格な管理を要するとされる「重要(MB)」に分類される情報を含む4件の情報資産を持ち出し、少なくとも15件の情報を出版社等に常習的に漏えいしたものであって、このような原告の行為は、情報資産の適切な保護と利用を重要視する被告の企業秩序に対する重大な違反行為であるというべきである。」

 「本件漏えい行為により、e誌等において、「重要(MB)」に分類される通達を含む複数の通達及び資料そのものが掲載されたほか、漏えいされた情報に基づき多数の記事が執筆されたことが推認され、本件漏えい行為は、被告の情報管理体制に対する疑念を世間に生じさせ、被告の社会的評価を相応に低下させたものといえる。」

 「原告は、業務時間中に一般の顧客を装い、被告の営業店等に多数のクレームの電話を架けたことを理由として、平成27年8月頃にけん責の処分を受けており、同月20日付けの顛末書では、反省の弁を述べるとともに、服務規律違反は一切ない旨誓約していたにもかかわらず、同時期頃から既に情報漏えいという服務規律違反行為を繰り返していたのであって、同懲戒処分による反省は何らみられない。」

 「以上を総合すると、原告と被告との間の信頼関係の破壊の程度は著しく、将来的に信頼関係の回復を期待することができる状況にもなかったといえ、被告において、処分の量定として懲戒解雇を選択することはやむを得なかったというべきであるから、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。」

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情報漏洩を理由とする懲戒解雇の注意点

 情報漏洩を理由とする懲戒解雇でも、懲戒解雇の有効性が否定される場合があるので、注意する必要があります。

 一般論として、①漏えいした情報の種類・機密性・内容、②情報漏洩の期間・頻度、③情報漏洩の目的、④情報漏洩によって実損害の有無、⑤情報の管理状況によって判断されます。

 実際に、情報漏洩を理由とする懲戒解雇の有効性を否定した裁判例(東京地判平成24年8月28日)もあるため、紹介します。

東京地判平成24年8月28日ー情報漏洩を理由とする懲戒解雇の有効性を否定した裁判例

1 事案の概要

①原告は、2回にわたり、別会社の代表取締役に対して、被告の顧客リストをメールで送信したことがあった(本件顧客データ送信)。

②被告においては、顧客情報を電子メールにより移動する際に情報セキュリティ管理責任者の許可を必要とする扱いをしていたところ、原告が、被告の取締役に対し、実際とは異なる利用目的を告げて本件顧客データを取得し、事前にも事後にも上司の許可を得ないまま、本件顧客データ送信を行っていたことについて、懲戒解雇の有効性が争われました。

2 判旨

 「使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても、当該行為の性質や態様等の状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。特に、懲戒解雇は、労働者にとって最も厳しい制裁手段であり、多くの局面で当該労働者に不利益を与えるのが実情であることにかんがみれば、上記の権利の濫用に当たるか否かについては、その行為により使用者側が受けた被害の重大性、回復可能性はもとより、そのような行動に出た動機や行為態様を子細に検討した上で判断する必要があるというべきである。」

 「原告が本件顧客データをBに送信した意図としては、Bの下(a1社〔a社〕)に転職し、同顧客データをBに不正利用させるところにあったのではなく、被告商品の販売代理店であるa1社(a社)の営業を促進させ、被告の売上を伸ばすという面があったことは否定できない。」

 「被告は、顧客情報を厳格に管理しているとはいいながら、実際には、その情報管理がどこまで厳格であったのか疑わせる事情も存するもので、このような被告における情報管理の状況にかんがみ、実質的にみて、原告の本件顧客データ送信行為が即懲戒解雇に該当するような重大な非違行為であるといえるのか、疑問がある。」

 「以上にみたように、原告の本件顧客リスト送信行為が、被告就業規則所定の懲戒事由に該当する行為であることは否定できないものの、その動機が被告における営業を推進するためであって不正なものとはいえないことや、被告に実害が生じていないことなどをはじめ」として「諸事情を総合考慮すれば、原告を懲戒解雇に処することは酷に失するといわざるを得ない。したがって、本件懲戒解雇は、社会通念上相当であるということはできないから、懲戒権の濫用に当たり、無効と認めるのが相当である。」

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情報漏洩を理由とする懲戒解雇のチェックポイント

 情報漏洩を理由とする懲戒解雇を行うに際して、以下のポイントをチェックしておく必要があります。

①漏洩した情報の種類・機密性・内容

②漏洩した情報の範囲・期間・頻度

③自社の情報の管理状況

④情報を漏洩した従業員の目的や動機

⑤情報漏洩による損害の発生の有無・内容

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弁護士による懲戒解雇サポート

 弁護士は、懲戒解雇において、以下のサポートが可能です。労働法や紛争・訴訟対応に精通している弁護士だからこそ、できることが多くあります。

①懲戒解雇事由の調査サポート(関係者へのヒアリング、調査報告書の作成)

②懲戒解雇通知書の作成及び懲戒解雇手続に向けたアドバイス

③従業員(労働者)又はその代理人(弁護士)との交渉・窓口対応

④労働裁判(解雇無効)の代理人対応

④労働組合との団体交渉サポート

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Last Updated on 2024年11月28日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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