定年後の再雇用を拒否できるか?~高年齢者の継続雇用制度について弁護士が解説~

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よくあるご相談例について

①高年齢者の継続雇用制度とは、どのような制度ですか?

②高年齢者との間で再雇用を拒否できますか?

③再雇用に際して、雇用形態や労働条件を変更できますか?

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定年後の再雇用とは?

定年後の再雇用とは、定年退職する従業員が希望する場合、企業が定年後も引き続き当該従業員を雇用することをいいます。

 日本では、高年齢者の安定した雇用を確保するため、各企業に高年齢者の雇用確保措置が求められています。この措置として、継続雇用制度を導入する企業が多く、定年退職する従業員が企業に再雇用されることがあります。

*日本の企業の多くは定年制度を設けていますが、高年齢者雇用安定法8条では、原則として定年制を設ける場合、60歳を下回ることができないとされています。そのため、定年制度を設ける場合、60歳以上で設定しなければなりません。

高年齢者雇用安定法に定める雇用確保措置について

 高年齢者雇用安定法とは、『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』の略称で、「定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的」としています(1条)。

 高年齢者雇用安定法では、定年(65歳未満)制度を定める事業主に対して、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置(雇用確保措置)を求めています。雇用確保措置は、以下のいずれかを選択することになります。

①定年の引上げ

②継続雇用制度

③定年の定めの廃止

 雇用確保措置は、60歳になる従業員がいない場合でも設けておく必要があるため、すべての事業主(企業)に関係があります。

 雇用確保措置が講じられていない事業主(企業)について、高年齢者雇用確保措置の実施に関する勧告を受けたにもかかわらず、これに従わなかったときは、厚生労働大臣がその旨を公表できることとされています。

 そのため、当該措置の未実施の状況等によっては、企業名が公表され、ハローワークでの求人の不受理・紹介保留、助成金の不支給等の措置を講じられることがあるため、注意する必要があります。

*令和3(2021)年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用確保措置(義務)に加えて、70歳までの就業確保(努力義務)が求められることになりましたので、注意が必要です。

継続雇用制度とは?

 継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいいます。

 以前は労使協定で定めた基準で限定することが認められていましたが、平成25(2013)年以降は、希望者全員を対象とする必要があります。

 もっとも、継続雇用制度は、高年齢者の安定した雇用の確保を目的としているものであって、事業主(企業)に定年退職者が希望する労働条件で雇用を義務付けるものではありません。

 そのため、事業主と従業員との間で協議し、雇用形態(いわゆる嘱託やパート)や従来の労働条件の変更を話し合うことができます。

 また、①心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、②勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないこともできます。

継続雇用制度のポイント

①継続雇用制度は希望者全員が対象になります。

②再雇用後の雇用形態や労働条件の設定は合理的な範囲内において柔軟な対応が可能です。

③継続雇用しない事由(解雇事由や退職事由)を就業規則で定めることは可能です。

定年後の再雇用を拒否できますか?

 継続雇用制度は、希望者全員を対象とする必要があり、従業員が希望する場合、定年後の再雇用を拒否することは、原則として違法となります。

 もっとも、定年後の再雇用を拒否できるケースもあります。以下、具体的に説明します。

①再雇用を拒否する正当な理由があること

 就業規則において、ア)心身の故障のため業務に堪えられないと認められることやイ)勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等を解雇事由や退職事由と定めることは可能です。

 これらの事由がある場合、再雇用を拒否することはできます。もっとも、これらの事由で再雇用を拒否するためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められることについて、注意が必要です。

②再雇用後の雇用形態や雇用条件が合意に至らないこと

 継続雇用制度は、高年齢者の安定した雇用の確保を目的としているものであって、事業主(企業)に定年退職者が希望する労働条件で雇用を義務付けるものではありません。

 そのため、企業側が再雇用後の雇用形態や雇用条件を提示し、従業員が拒否する場合、再雇用を拒否することはできます。ただ、企業側が提示する条件等は、合理的なものでなければなりません。

③再雇用しないことについて従業員と合意できる場合

 従業員が再雇用を希望する場合でも、会社が従業員との話し合いを行うことによって再雇用しないことを合意できます。

 この場合、定年後の再雇用を拒否することはできますし、労働トラブルや労働問題も回避できます。定年後の再雇用について、従業員との話し合いによる解決も選択肢の一つとすべきです。

裁判例・東京地判令和元年5月21日(労判1235号88頁)ー再雇用拒否を肯定

1 事案の概要

 音響機械器具の製造販売等を目的とする株式会社である被告の従業員として稼働していた原告が、被告に対し、原告と被告との間では、定年前の雇用契約の終了後においても再雇用されたのと同じ職務を内容とする雇用関係が存続しており、仮にそうでないとしても、被告が原告に対して定年後の再雇用の条件として原告の希望する従前と同じ職務内容と異なる職務内容を提示した行為等は違法であると主張した事案である。

2 判旨

 「高年法は、継続雇用を希望する労働者を定年後も引き続き雇用する旨求めるにとどまり、同法中に、労働者が希望する労働条件での継続雇用をも使用者に義務づける定めはない。すなわち、継続雇用後の労働条件は、飽くまで、労使間の合意により定まるべきものであって、労働者が使用者に対して希望すれば直ちにその希望するがままに勤務部署や職務内容が定年前と同じ雇用契約が定年後も継続するというかのような原告の主張には、法律上の根拠がない。」

 「原告と被告との間で定年再雇用契約が成立しなかったのは、原告が被告からの申込みを拒否した結果であり、被告が原告からの定年再雇用の申込みを拒否したものではないから、解雇権や配転命令権の濫用を理由として原告と被告との間に原告の定年後も雇用契約が継続しているとする原告の主張は、それ自体、失当である。」

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再雇用を拒否する場合の注意点・リスク

 定年後の再雇用を拒否する場合、従業員との労働問題や労働トラブルに発展し、企業が重大な不利益・リスクを負うことがあります。

 具体的には、労働裁判において、企業側が敗訴する事例が多数発生しており、多額の金銭の支払いが求められるケースもあります。

 定年後の再雇用を拒否する場合、このようなリスクやトラブルが発生することを想定したうえで、慎重に判断しなければなりません。

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裁判例・名古屋高判平成28年9月28日(トヨタ自動車事件)―再雇用拒否を否定

1 事案の概要

 大学卒業後に被控訴人会社(トヨタ)に事技職として雇用され、その後、定年まで、デスクワークを主体とする事務職に従事し、定年前は所属部署で主任であった控訴人が、定年後再雇用の労働条件として、それまでの事務職ではなく、パートタイマーとしての清掃業務等労働条件の提示を受けたところ、原告がこれに同意しなかったため被告に再雇用を拒否されたが、被告の再雇用拒否が違法であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることや損害賠償等を求めた事案です。

2 判旨

(1)「改正高年法は,継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方,従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。),60歳の定年後,再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから,この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために,老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。

 そうすると,事業者においては,労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても,60歳から61歳までの1年間は,その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって,定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。」

(2)「これを本件について見ると,被控訴人会社が控訴人に対して提示した給与水準は,控訴人がパートタイマーとして1年間再雇用されていた場合,賃金97万2000円(4時間×243日×時給1000円)の他に,賞与として年間29万9500円が支給されたと推測されることが認められるから(弁論の全趣旨),控訴人が主張する老齢厚生年金の報酬比例部分(148万7500円)の約85%の収入が得られることになる。

 上記の給与等の支給見込額に照らせば,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であるということはできない。」

 「次に,被控訴人会社の提示した業務内容について見ると,控訴人に対して提示された業務内容は,シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等)というものであるところ,当該業務の提示を受けた控訴人が「隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べているように,事務職としての業務内容ではなく,単純労務職(地方公務員法57条参照)としての業務内容であることが明らかである。」

(3)「上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。

 そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。

 したがって,被控訴人会社の提示は,控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。」

裁判例・名古屋地判令和元年7月30日(判例タイムズ1471号 106頁)―再雇用拒否を否定

1 事案の概要

 被告の設置する大学の教授であり、定年に達した原告が、被告(大学)に対し、再雇用 を希望する旨の意思表示をしていたのに被告がこれを拒否したが、同拒否の意思表示が正当な理由を欠き無効であり、被告との間で再雇用契約が成立していると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあること等を求めた事案です。

2 判旨

(1)「労働者において定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である」

(2)「被告は、再雇用候補者としてふさわしい者等の要件を充足するか否かをその都度審議する必要があり、被告において、当然に再雇用する慣行は存在しないと主張するけれども、弁論の全趣旨によれば、a大学において、平成24年度から平成28年度まで、65歳定年時に再雇用を希望した原告を除く43名全員が再雇用されていること、平成24年度から平成28年度まで、65歳定年時に再雇用を希望しなかった教授は3名であり、うち1名は懲戒処分を受けた者であること、平成25年度から平成28年度までをみると、再雇用された教員30名のうち、本人の希望により1年間の再雇用であった1名を除く29名全員が満68歳の属する年度末まで再雇用が継続されたことが認められること、原告には別紙1の役職歴があることや平成26年4月から平成28年3月まで専攻主任という役職にあったことも加味すれば、本件処分がされた点を除いては、原告において、定年時、再雇用契約を締結し、満68歳の属する年度末まで雇用が継続すると期待することが合理的であると認められる。」

(3)「本件処分は、懲戒事由該当性すら欠き無効であることは前示判断のとおりであり、再任用規程3条3号の欠格事由には当たらず、(1)の特段の事情にも当たらない。被告は、原告について再雇用の欠格事由に該当したため、再雇用の審査手続を一切していないというのであって、他に原告について再雇用を不適当とする事情の主張・立証はない。

 これらによれば、被告による原告の再雇用の拒否は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、前記のとおり、被告と原告との間に、定年後も再任用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である。」

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弁護士による定年後の再雇用拒否のサポート・対応

 定年後の再雇用拒否について、労働問題や労働トラブルに発展する可能性も高く、定年後の再雇用拒否のサポート・対応について、弁護士に依頼できます。

弁護士によるサポート内容

①定年後の再雇用拒否へのアドバイス

②労働組合との窓口対応・アドバイス

③従業員又は従業員代理人との裁判外交渉

④労働裁判や労働審判の対応

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弁護士に定年後の再雇用拒否のサポート・対応を依頼するメリット

 弁護士に定年後の再雇用拒否のサポート・対応を依頼するメリットは、以下のとおりです。

①紛争・訴訟の専門家である弁護士に労働問題や労働トラブルの解決を依頼することによって、重大なリスクを回避し、事案に即した適切な解決を目指すことができます。

②労働法等の法律の見通しを踏まえた上で、より現実的で柔軟な解決を目指すことができます。

③労働組合(ユニオン)や従業員側の弁護士との交渉を任せることができ、会社担当者の労力や費用を軽減し、心理的な負担も軽減できます。

④労働裁判や労働審判の見通しを踏まえて、労働トラブルが解決可能であり、最悪のリスク(高額な金銭の支払)を回避できます。

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Last Updated on 2023年10月25日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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