服務規律とは?服務規律に違反した従業員の解雇について、判例や具体例を用いて解説します~客先の女子トイレへの侵入を理由とする解雇を有効と判断した東京地判令和6年3月27日~

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服務規律に違反した従業員を解雇できますか?~客先の女子トイレへの侵入を理由とする解雇を有効と判断した東京地判令和6年3月27日を弁護士が解説します~

よくある相談

①服務規律に違反した従業員を解雇できますか?

②服務規律違反を行った従業員に注意を繰り返しても改善が見られません。

③従業員を普通解雇したところ、従業員から解雇が無効だと主張する訴状が届きました。

事案の概要ー東京地判令和6年3月27日(以下「本判決」という。)

被告(会社)が、原告(従業員)が常駐している客先の本社ビルにおいて、約2か月間にわたって毎日のように故意に女性用トイレに侵入していたことを理由に、原告(従業員)に対して普通解雇を行ったところ、原告から当該普通解雇は無効であると主張された事案である。

判旨ー普通解雇を有効と判断

1 客観的に合理的な理由(解雇理由)

「原告は、本件事件を起こし、その後、戸部警察署で取調べを受けた際、令和2年11月19日と同月20日の2回、本件ビル3階の女性用トイレに侵入したとの上申書を提出した上、同月25日、dから本件事件に関してヒアリングを受けた際、同年9月中旬から本件ビル3階の女性用トイレに侵入していたと説明し、ほとんど毎日ではないかと問われると、「まあそんな感じかもしれない。」と回答していることに照らすと、原告は、令和2年9月以降、毎日のように本件ビル3階店舗内の女性用トイレに故意に侵入していたと認めることができる。そして、本件ビルは被告の客先であり、原告は本件ビルに常駐してシステム関連業務に従事していたこと、故意に多数回にわたって女性用トイレに侵入しているという態様に照らすと、原告の行為は就業規則13条1項6号に反し、就業規則44条1項4号及び5号、52条1項10号及び11号に該当するということができる。」

2 社会通念上の相当性

「原告は、常駐している客先の本社ビル(本件ビル)において約2か月間にわたって毎日のように故意に女性用トイレに侵入して本件事件を起こし、その結果、被告は、dから訴訟を提起されて合計270万3234円の損害を受けるとともに、取引先の信用を失ったと認められる。仮に被告が原告との雇用関係を維持すれば、再び同様の事件を起こし、被告に多大な損害を発生させかねず(原告は本人尋問で毎日のように女性用トイレに侵入した事実を否定しているから、なおさらである。)、このような事件を起こした原告が就労する新たな客先を探すことも困難であるから、被告が本件解雇をしたことはやむを得ないものと認められる。」

解雇権濫用法理とは?

日本の労働法では、解雇が従業員の経済的・社会的生活に直接な影響を及ぼし、従業員の生活基盤を脅かすおそれがあることから、従業員保護の観点から解雇権を制限しており、客観的に合理的な理由がない解雇や社会通念上相当と認められない解雇を解雇権の濫用として無効としており、これを解雇権濫用法理といいいます。労働契約法16条では、解雇権濫用法理を明文化しています。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする。つまり、企業が従業員を解雇するためには、①客観的に合理的な理由とともに、②社会通念上相当であることが必要です。

本判決では、ア)故意に多数回にわたって客先の女性用トイレに侵入していること、イ)実際に損害賠償請求を受け、取引先の信用を失ったこと、及びウ)雇用関係を維持すれば、再び同様の事件を起こし、被告に多大な損害を発生させる可能性があることから、①客観的合理的な理由や②社会通念上の相当性を肯定しています。

問題行動に対する解雇を検討する上では、以下の要素を総合的に検討する必要があります。

A)問題行動の重大性や悪質性

B)問題行動の期間や回数(頻度)

C)問題行動が故意(意図的)か否か

D)問題行動によって会社に与えた損害(実害)の有無や内容

E)問題行動の改善可能性

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問題社員に対する解雇の注意事項

①解雇の有効性の主張・立証責任は会社が負うこと

解雇理由は会社側が主張・立証する責任があるため、会社側は、実際に解雇を行う前に、丁寧に事実関係を調査するとともに、証拠を収集しておく必要があります。抽象的な理由や主観的な判断では、解雇できないため、具体的で、かつ、客観的な事実・証拠が必要です。問題社員に対する解雇が無効となる事例では、企業(経営者)が感情的に解雇してしまった事例や協調性がないとか、価値観が合わないという抽象的・主観的な理由で、安易に解雇の判断をしてしまうケースが多くあります。

解雇の判断を行う前に丁寧な事実関係の調査や証拠の収集を必ず行ってください。

②解雇を回避するための努力を尽くすこと

解雇が社会通念上相当であり、有効と判断されるためには、企業は解雇を回避するための努力を尽くしていることが必要です。

例えば、問題行為を理由に解雇する場合、本人に対して注意や指導を行い、改善の余地があるかどうかを検討しておく必要があります。改善の機会を与えたにもかかわらず、反抗の態度があるとか、反省の態度がないという事情がある場合、解雇を回避するための努力を尽くしたが、改善の余地がないとして解雇が認められる可能性があります。

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③従業員の問題行動によって会社に損害を発生させた場合、従業員に対する損害賠償請求も検討できること

本判決では、「常駐している客先の本社ビル(本件ビル)において約2か月間にわたって毎日のように故意に女性用トイレに侵入して本件事件を起こし、その結果、被告は、dから訴訟を提起されて合計270万3234円の損害」を受けているため、会社が原告(従業員)に対して不法行為に基づく損害賠償も求めている事案です。

会社の従業員に対する損害賠償請求では、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し上記損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」とされ、従業員に対する請求が制限されることもあります。

もっとも、本判決では、「被告は、客先であるcの本社ビル(本件ビル)に原告を常駐させ、人事給与システムの運用、保守業務に従事させていたところ、勤務時間終了後に本社フロアとは異なる店舗フロアにある女性用トイレに故意に侵入して本件事件を起こしたのであって、原告の本来の業務であるシステムの運用、保守業務に内在する危険性が現実化したことによって被告に損害を与えたものでない。また、原告は、勤務時間終了後に原告が労務を提供していた本件ビルの本社フロアのある10階とは異なる3階の店舗フロアに移動して本件事件を起こしたのであって、被告がこのような原告の行為を予防することはほとんど不可能であり、加えて、原告が過失によって本件事件を起こしたのではなく、故意に本件事件を起こしているというその態様も考慮すると、損害の公平な分担という見地から被告の原告に対する損害の賠償を制限することが信義則上相当とは認められない。」とし、従業員に対する損害賠償請求の制限を認めませんでした。

つまり、原告(従業員)の問題行為が業務時間外で、かつ、本来業務と関連性がないことや、故意(意図的)に行っていることを強調して、原告(従業員)に対する損害賠償責任を肯定しています。

そのため、従業員の問題行動によって会社に損害を発生させた場合、従業員に対する解雇とともに、損害賠償請求も検討する必要があります。

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Last Updated on 2025年2月27日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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