解雇権濫用法理とは?従業員を解雇する際、企業が注意すべきポイントについて、弁護士が解説します。

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解雇権濫用法理とは?従業員を解雇する際、企業が注意すべきポイントについて、弁護士が解説します。

よくある相談

①協調性がなく、何度も注意しているが、改善されない従業員を解雇する予定です。

②解雇する際に注意すべきポイントを知りたい。

③問題行動のある従業員を解雇したら、解雇が無効と言われています。

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解雇権濫用法理とは?

解雇権濫用法理とは、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、解雇権の濫用として無効になる法理をいいます。

日本では、解雇の種類について、①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇がありますが、長期雇用制度を重視する中で、従業員(労働者)を保護するため、解雇権濫用法理による厳格な解雇規制があります。

解雇権濫用法理は、労働契約法16条に明文化されています。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇権濫用に該当し、解雇が無効とされたケース

①東京地決平成11年10月15日(セガ・エンタープライゼス事件)

判旨

「債権者は、人材開発部人材教育課において、的確な業務遂行ができなかった結果、企画制作部企画制作一課に配置転換させられたこと、同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、ゲームアーツから苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、加えて、平成一〇年の債権者の三回の人事考課の結果は、それぞれ三、三、二で、いずれも下位一〇パーセント未満の考課順位であり、債権者のように平均が三であった従業員は、約三五〇〇名の従業員のうち二〇〇名であった」

「債務者において、債権者の業務遂行は、平均的な程度に達していなかった」

「債権者が、債務者の従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。」

「就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、二号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、二号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」

「人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。」

「債権者にはやる気がない、積極性がない、意欲がない、あるいは自己中心的である、協調性がない、反抗的な態度である、融通が利かないといった記載がしばしば見受けられるが、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はな」い。

「債務者としては、債権者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべき」

「本件解雇は、権利の濫用に該当し、無効である。」

判旨のポイント

①普通解雇事由が「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」と極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、能力不足による解雇についても、同事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効とされるべきとして、解雇できる場合を極めて限定的に解しています。

②人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできないと判断しました。

③債務者としては、債権者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきとして、解雇に先立ち、会社が、教育や指導を行うことで、労働能率の向上を図るなどの措置をとることができたことも踏まえて解雇を無効と判断しました。

②東京地判平成19年6月22日(トラストシステム事件)

判旨

「原告の私用メールなどについては、原告の義務に違反するところがあるといわざるを得ないが、これを解雇理由として過大に評価することはできず、また、要員の私的あっせん行為についても、そのような事実が窺われるとする余地はあるものの、これを認めるに足りず、このような被告が主張する服務規律違反、職務専念義務違反については、解雇を可能ならしめるほどに重大なものとまでいうことはできない。」

被告の指摘する原告の能力不足についても、「多くは抽象的に原告の能力の欠如を指摘するにすぎないものであって、必ずしも具体的事実に裏付けられたものではなく、また、他からの苦情といったものも、原告にどのような能力がどの程度欠け、どのような不都合があったというのかも確定し難いことからすると、原告の能力が必ずしも優れているとの評価を受けるものとはいい難かったことは窺われるものの、これが解雇の理由となるほどの能力不足を示すものとまでみることは困難である。」

「これらの事情を総合すると、原告の勤務態度、能力につき全く問題がないとはいえないものの、これをもってしても、いまだ原告を解雇するについて正当な理由があるとまでいうことはできず、本件解雇は、解雇権の濫用として、その効力を生じないものといわざるを得ない。」

判旨のポイント

①電子メールの私的利用が服務規律違反や職務専念義務違反があるとしても、一定の限度において私的な利用を行うことは通常黙認されていることや私的利用によって、取引先等との間で何らかの問題が生じたものではないことからすると、服務規律違反、職務専念義務違反による解雇理由として過大に評価することは疑問が大きいといわざるを得ないと判断しました。

②私的に要員派遣業務のあっせん行為をしたことについて、具体的な業務上の支障があったことも窺われないから、被告の職場規律に触れる部分があったとしても、解雇の理由として過大に評価することはできないと判断しました。

③能力不足について、具体的事実に裏付けられず、抽象的な指摘にとどまる場合、解雇の理由となるほどの能力不足を示すものとまでみることは困難であると判断しました。

解雇権濫用と判断され、解雇が無効とされた場合のリスク

①解雇無効による従業員の復職

裁判所が解雇を無効と判断した場合、解雇された従業員は雇用関係が継続しているとみなされ、復職する権利を有します。会社側は、その従業員を再び職場に受け入れる義務が生じるため、元の職務に復帰させる必要があります。

当該従業員の復職により、解雇時の経緯が原因で職場の雰囲気が悪化する可能性があります。他の従業員のモチベーション低下や、労使関係の悪化につながるリスクがあります。

②賃金の支払義務(バックペイ)

解雇が無効と判断された場合、解雇後の期間も「解雇されていなかった」ものとみなされるため、その間の賃金(バックペイ)の支払いが必要となります。これは、解雇が無効とされた場合の大きな財務上のリスクです。

解雇から解雇無効の判断までの賃金を遡って一括で支払わなければならないため、会社にとって大きな出費となります。特に裁判が長引いた場合、多額の金額に達することがあります。

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③企業イメージや信頼性の低下(レピュテーションリスク)

解雇された従業員が裁判等で解雇無効を訴えた場合、会社のイメージに悪影響を与える可能性があります。特に、解雇トラブルが公になると、社会的信頼が損なわれ、今後の採用活動や取引先との関係にも支障が生じるリスクがあります。また、既存の従業員の離職リスクも発生します。

解雇にあたって会社が注意すべきポイント

①具体的かつ客観的に解雇理由を検討すること

従業員を解雇するかどうか迷っている場合、安易に解雇すると労働問題に発展しかねません。

解雇に際しては、具体的かつ客観的な解雇理由を提示することが必要です。たとえば、協調性がなく、会社の雰囲気を悪くしている従業員を解雇したい場合でも、「常識」や「協調性」は、人それぞれ異なるもので、曖昧かつ主観的で、解雇理由として十分ではありません。例えば、協調性がない結果、業務にどのような支障が生じたかを具体的に検討する必要があります。

企業の労務トラブルは使用者側に特化した大阪の弁護士にご相談ください

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②解雇に踏み切る前に注意・指導を行うこと

客観的に合理的な理由があっても、社会通念上の相当性がなければ、解雇は無効と判断されます。解雇を行う前に、㋐いつ、どこで、どのような問題があり、㋑それが職場のどのようなルールに違反していて、㋒その結果、どういう不都合(損失)が生じたか、㋓今後はどのように改めるべきか、という内容を簡潔に示して、注意指導を繰り返すことが重要です。

その際、注意指導を書面で行うことで、本人が態度を改めてくれることが何よりですが、会社として、注意指導をきちんと行っているという証拠を残すことも重要です。

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③従業員に対し、解雇理由とその経緯について十分な説明を行うこと

解雇の理由とその経緯を従業員に説明を行うことで、会社は正当な解雇手続を踏んでいることを従業員に対して示すことができますし、不当解雇として訴えられるリスクを軽減することが可能です。

万一、裁判になった際にも、正当な解雇手続を踏んでいると評価され、解雇が有効と判断される考慮要素にもなります。

また、十分な説明や通知を行うことで、従業員や関係者に対して会社の姿勢や誠実さを示すことができ、社会的信用や採用活動への影響も抑えることが可能となります。

弁護士による解雇対応サポート対応

①退職勧奨や解雇を有利に進めるためのアドバイス

弁護士は、退職勧奨・解雇対応について、冷静かつ客観的に分析・アドバイスを行い、問題社員(モンスター社員)の解決に向けたサポートを行います。退職勧奨や解雇対応について、経営者が1人で抱え込まないよう、経営者の立場に立って必要なアドバイス・サポートを行います。

特に、違法な退職勧奨や解雇といわれないように、また、退職勧奨・解雇の成功確率をあげるために、経営者に寄り添い、法的な視点からアドバイスを行い、冷静かつ客観的な判断ができるようにサポートします。

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②退職勧奨・解雇に向けた書類作成サポート

退職勧奨・解雇に向けた書類作成(退職勧奨・解雇を行う理由や退職条件の提案等)が必要となる場合、弁護士は、退職勧奨・解雇に向けた書類作成をサポートします。

万が一、退職勧奨・解雇が失敗し、労働トラブルや労働裁判に発展した場合、退職勧奨・解雇で用いられた書類が重要な証拠となる場合があります。書類づくりに失敗しないためにも、弁護士が会社や経営者の立場に立って紛争を予防するため、また、紛争を解決するための書類作成に協力します。

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③労働トラブルの窓口対応/代理交渉

退職勧奨・解雇に際して、対象従業員との間でトラブルとなる場合、ケースによっては、弁護士に窓口対応や代理交渉を依頼することも検討するべきです。

特に、労働者側代理人(弁護士)が就任した場合や労働組合との団体交渉が必要となる場合には、弁護士によるサポートが有効かつ効果的です。

会社(経営者)の意向を尊重しながら、民事裁判等の重大なリスクに発展する前に解決できるように最善を尽くします。

④労働審判や労働裁判の対応

労働審判や労働裁判では、裁判所が労働法や裁判例に従い判断するため、法的視点から、主張や証拠を準備して、適切なタイミングで提出する必要があります。

この業務は、会社担当者のみで対応することが困難であるとともに、裁判業務に精通している弁護士が対応することが最も適切といえます。

⑤問題行動を予防するための研修サポート

問題行動を行ってしまった社員の中には、問題点を十分に理解できていない社員や知らなかった社員もいます。

そのため、問題行動を事前に予防するため、また、再発を防止するためには、コンプライアンス研修やハラスメント研修が有効な手段となります。

これらの研修は、CSR(企業の社会的責任)活動の一環ともいえ、コンプライアンスが強く求められる現代社会において、多くの企業が取り組んでいますし、その取り組みを社内外にアピールすることで、企業イメージを向上できます。コンプライアンス研修やハラスメント研修は、弁護士に依頼できますので、是非、ご相談ください。

解雇対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください

弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。

顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。

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Last Updated on 2024年12月2日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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