令和5(2023)年10月に最低賃金が引き上げられる予定です。
最低賃金額は、最低賃金審議会において毎年審議されており、その都度(毎年10月)、見直される可能性があります。
特に、令和5(2023年)年度の地方最低賃金審議会の答申では、47都道府県で39円~47円の引上げとなり、改定額の全国加重平均額は1,004円となっています。これは、昭和53(1978)年度に目安制度が始まって以降で最高額になっています。
答申された改訂額は、異議申出手続等を経たうえで、都道府県労働局長の決定により、令和5(2023)年10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。
答申された改訂額(令和4(2022)年度の最低賃金額)
東京 1113円(1072円)
大阪 1064円(1023円)
京都 1008円(968円)
兵庫 1001円(960円)
奈良 936円(896円)
和歌山 929円(889円)
滋賀 967円(927円)
最低賃金制度とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低額(時間給)を定めており、会社(使用者)は、その最低賃金額以上の賃金を従業員(労働者)に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金法は、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的としています。
「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」
最低賃金には、①都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と②特定の産業を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
①地域別最低賃金
産業や業種に関係なく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつの最低賃金(全部で47つ)が定められています。地域別最低賃金は、こちらで確認できます。
地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。
②特定(産業別)最低賃金
特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で227件の最低賃金が定められています(令和4(2022)年3月31日時点現在)。特定(産業別)最低賃金は、こちらで確認できます。
特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます。もっとも、18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満の技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。
最低賃金を支払っていない場合のリスク(制裁)
①もし最低賃金額を下回る賃金を会社(使用者)と従業員(労働者)との間で合意したとしても、最低賃金法によって無効とされ(最低賃金法4条2項)、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされ、会社(使用者)は、その差額を支払わなければなりません。
②労働基準監督署による調査の対象となり、行政指導(是正勧告等)の対象となります。
③最低賃金を下回る場合、罰則が適用されます。地域別最低賃金を下回っている場合、罰金50万円以下となり(最低賃金法40条)、特定(産業別)最低賃金額を下回っている場合、罰金30万円以下(労働基準法24条違反)となります。
最低賃金額以上かどうかの確認方法とは?
1 最低賃金額は時給によって定められます(最低賃金法3条)。そのため、時給以外の方法で賃金が決められている場合、時給に換算しなければなりません。
①日給
日給 ÷ 1日の所定労働時間数
②月給
月給 ÷ 月における所定労働時間数
③出来高払い制
賃金算定期間において出来高払制によって計算された賃金の総額 ÷ 当該賃金算定期間において出来高払制によって労働した総労働時間数
2 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であり、残業代や賞与(ボーナス)は対象外となります。
最低賃金の対象とならない賃金
①臨時に支払われる賃金(結婚手当)
②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金)
④所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金)
⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金)
⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
3 最低賃金(地域別最低賃金又は特定(産業別)最低賃金)を確認し、上記で算定した時給を下回っているかどうかを確認します。
①最低賃金以上
最低賃金法には違反せず、適法です。
②最低賃金を下回っている
最低賃金法に違反するため、見直す必要があります。
労基署(労働基準監督署)による最低賃金法違反に対する措置・処分
1 労働基準監督署の役割
最低賃金法に違反する行為の発生を未然に防止し、かつ、早急に是正させ、労働者の権利救済を確保するため、労働基準監督官制度があります。
この制度によって、①事業場への臨検→②事実確認→③法違反の有無が判断され、法違反が確認されれば、是正勧告等がされます。是正勧告等に従わない場合や重大・悪質なケースでは、司法処分(書類送検)も行われます。
2 労働者(従業員)による申告
最低賃金法34条1項では、「労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。」とされており、最低賃金法違反では、労働者(従業員)による申告を端緒として、労働基準監督署による調査・指導が開始されます。
会社(使用者)は、労働者(従業員)による申告を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてはなりません(最低賃金法34条2項)。
3 労働基準監督署による調査
最低賃金法32条1項では、「労働基準監督官は、この法律の目的を達成するため必要な限度において、使用者の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問をすることができる。」とされており、労働基準監督署による調査権限を定めています。
4 労働基準監督署による行政指導(是正勧告等)
労働基準監督署による調査に基づき最低賃金法に違反していると判断される場合、行政指導(是正勧告等)が行われ、最低賃金と実際に支払われた給与の差額の支払を求められるケースがあります。
5 司法処分(書類送検)
最低賃金法33条は、「労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行う。」とされており、是正勧告等に従わないケースや重大・悪質なケースでは、司法処分(書類送検)が行われることがあります。
この書類送検のケースは、厚生労働省のウェブサイト等において、報道発表資料として公表されることがあります。
6 最低賃金法違反の罰則
地域別最低賃金を下回っている場合、罰金50万円以下となり(最低賃金法40条)、特定(産業別)最低賃金額を下回っている場合、罰金30万円以下となります(労働基準法24条違反)。
最低賃金制度におけるポイントとは?
1 最低賃金額は、毎年(10月を目途)見直される可能性があります。
2 最低賃金(時給)の計算方法は、最低賃金法で定められており、最低賃金法で定められた方法で計算しなければなりません。
3 会社(使用者)は、最低賃金以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金を支払わない場合、労働基準監督署の調査の対象となり、行政指導(是正勧告等)や刑事罰(罰金)の対象となります。
弁護士による最低賃金法違反の予防・紛争対応のサポート
弁護士は、最低賃金法違反の予防・紛争対応のサポートが可能です。労働法や紛争・訴訟対応に精通している弁護士だからこそ、できることが多くあります。
①最低賃金の計算方法を確認したい。
②みなし残業制度を導入していたが、最低賃金の引き上げによって最低賃金が下回ってしまった。
③最低賃金法に違反してしまったため、労働者(従業員)やその弁護士(代理人)から未払賃金の支払いを求められている。
④最低賃金法違反について労働基準監督署による調査が開始された。
⑤労働基準監督署から行政指導(是正勧告等)が行われたため、対応を相談したい。
⑥最低賃金法に違反してしまい、刑事手続(罰金)の対応が求められている。
最低賃金や未払賃金、労働基準監督署対応、刑事手続対応については弁護士にご相談を
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
顧問契約では、問題社員対応、未払い賃金対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争(解雇、残業代、ハラスメント等)等の労働問題対応を行います。
Last Updated on 2024年3月14日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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