名古屋自動車学校事件最高裁判決について解説~同一労働同一賃金・定年後の再雇用について~

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最高裁判決から定年後の再雇用における給与・賞与制度や同一労働同一賃金を考える

最判令和5720日(以下「本判決」といいます。)が注目されるポイント~定年後の再雇用制度における給与・賞与体系を考える~

(1)原審(名古屋高判令和4年3月25日)は、正職員と嘱託職員である従業員らとの間における労働条件の相違のうち、従業員らの基本給が当該従業員らの定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分及び従業員らの嘱託職員一時金が当該従業員らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分は、労働契約法(改正前)20条に違反する不合理な内容であり、当該従業員らによる損害賠償請求を一部認容しました。

(2)もっとも、本判決は、基本給・賞与、嘱託職員一時金の性質やこれらの支給目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、労働契約法20条に違反すると判断した原審の判断について、労働契約法(改正前)20条の解釈適用を誤った違法があるとして、原審を破棄し、更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した点で注目されています。

(3)本判決を考慮すれば、定年後の再雇用における給与・賞与制度や同一労働同一賃金を検討する上では、基本給・賞与・嘱託職員一時金の性質や支給目的が重要であり、また、適切な労使交渉を踏まえた判断が必要ということがわかります。

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事案の概要

 本件は、会社・自動車教習所(上告人)を定年退職した後に、会社と有期労働契約を締結して勤務していた従業員X1と従業員X2(被上告人ら)が、会社と無期労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は労働契約法(改正前)20条に違反するものであると主張して、会社に対して、不法行為に基づく損害賠償(基本給、賞与等の相違に関する差額)を請求した事案です。

労働契約法(改正前)20

 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

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短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

労働契約法(改正前)20条は、202041日から短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(通称:パートタイム労働法)8条に引き継がれました。

事実関係

(1)X1

   昭和51年以降、正職員として勤務

   平成25年7月12日 定年退職(退職金の支給あり)

   平成25年7月12日から同30年7月9日 嘱託職員(再雇用)として教習指導員の業務に従事

定年退職時再雇用後減額率
基本給月額18万1640円月額8万1738円(再雇用後の1年以降は月額7万4677円)約41%~45%
賞与1回当たり平均約23万300 0円(定年退職前の3年間)1回当たり8万1427円から10万5877円まで約35%~約45%

(2)X2

   昭和55年以降、正職員として勤務

   平成26年10月6日 定年退職(退職金の支給あり)

   平成26年10月7日から令和元年9月30日 嘱託職員(再雇用)として教習指導員の業務に従事

定年退職時再雇用後減額率
基本給月額16万7250円月額月額8万1700円(再雇用後の1年以降は月額7万2700円)約43%~約49%
賞与1回当たり平均約22万50 00円(定年退職前の3年間)1回当たり7万3164 円から10万7500円約33%~約48%

*会社(上告人)は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項2号所定の継続雇用制度を導入しており、定年退職する正職員のうち希望する者については、期間を1年間とする有期労働契約を締結し、これを更新して、原則として65歳まで再雇用することとしていました。

*X1とX2は再雇用後、老齢厚生年金(*1)及び高年齢雇用継続基本給付金(*2)を受給しています。

老齢厚生年金(*1)

 「老齢厚生年金は、厚生年金保険に加入していた方が受け取ることができる年金です。厚生年金保険に加入していた時の報酬額や、加入期間等に応じて年金額が計算され、原則、65歳から受け取ることができます。老齢厚生年金にも、老齢基礎年金と同様に「繰上げ受給」や「繰下げ受給」の制度があります。」

日本年金機構・老齢年金ガイド令和5年度版から引用

高年齢雇用継続基本給付金(*2)

 高年齢雇用継続基本給付金とは、高年齢雇用継続給付のうち、基本手当(再就職手当など基本手当を支給したとみなされる給付を含みます。)を受給していない方を対象とする給付金で、原則として60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金(みなし賃金を含む)が60歳時点の75%未満となっている方で、以下の2つの要件を満たした方が対象となります。

①60歳以上65歳未満の一般被保険者であること。

②被保険者であった期間が5年以上あること。

原審(名古屋高判令和4325日)の要旨

 「被上告人らについては、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを 除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の 変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、嘱託職員である被上告人らの基本給 及び嘱託職員一時金の額は、定年退職時の正職員としての基本給及び賞与の額を大 きく下回り、正職員の基本給に勤続年数に応じて増加する年功的性格があることか ら金額が抑制される傾向にある勤続短期正職員の基本給及び賞与の額をも下回って いる。このような帰結は、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の 観点からも看過し難いことなどに鑑みると、正職員と嘱託職員である被上告人らと の間における労働条件の相違のうち、被上告人らの基本給が被上告人らの定年退職 時の基本給の額の60%を下回る部分、及び被上告人らの嘱託職員一時金が被上告 人らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分 は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。」

本判決

(1)労働契約法20条の趣旨

 「労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

 もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである」。

(2)基本給の相違

 「ア 前記事実関係によれば、管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではい えないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。

 他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたとこ ろ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その 基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。 

 また、前記事実関係によれば、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、 役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応 じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。 

 しかるに、原審は、正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の 推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。」

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 「イ また、労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。

 前記事実関係によれば、上告人は、被上告人X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行ってい たところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及 び内容といった具体的な経緯を勘案していない。」

 「ウ 以上によれば、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮し ないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」

(3)賞与と嘱託職員一時金の相違

 「被上告人らに支給された嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。 

 また、上記 イのとおり、上告人は、被上告人X1の所属する労働組合等との間で、嘱託職員としての労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが、原審は、その結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯を勘案していない。 

 このように、上記相違について、賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に 考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当 たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」

本判決から考える再雇用における給与・賞与制度の設計・運用方法の注意点

①労働契約法20条を引き継いだパートタイム労働法8条では、以下の事情を考慮し、不合理と認められる相違を設定してはならないとされています。従業員等から、不合理な相違と主張又は指摘されないように待遇を検討する必要があります。

・職務内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、

・職務内容・配置の変更の範囲

・その他の事情

*「その他の事情」としては、成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯等が考えられます。

②本判決では、相違に関する合理性を検討する上で基本給等の性質や支給目的を検討する必要があるとされているため、基本給等の相違を設定するに際しては、各金員の性質や支給目的を検討しておく必要があります。

③本判決では、労使交渉に関する事情を適切に考慮するべきとされているため、「その他の事情」に労使交渉が含まれることになります。そのため、基本給等の相違を設定するに際しては、誠実な労使交渉を行うことによって、待遇の相違が正当化される可能性があります。

④本判決では、原審の判断に誤りがあるとされましたものの、更に審理を尽くす必要があることから、原審に差し戻されました。そのため、差し戻された原審の判断が注目されます。つまり、本判決を踏まえて、原審の判断が会社にとって有利に変更されるのか、それとも、不利に変更されるのかについて、今後も注視していくことが必要になります。

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③労使交渉や労働組合との交渉におけるサポート

④労働裁判の代理人対応

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Last Updated on 2024年4月30日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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