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大阪の弁護士による企業労務相談 > 企業労務コラム > 競業避止義務違反への対応で企業が失敗する7つのケース|原因と対策を弁護士が解説

競業避止義務違反への対応で企業が失敗する7つのケース|原因と対策を弁護士が解説

はじめに

退職した従業員が競合会社に転職した、元の顧客に営業を始めた、独立して同じ事業を始めた――。

このような場合、企業としては、顧客情報や営業ノウハウなどの重要な資産を守るため、競業避止義務違反として対応を検討することがあります。

しかし、就業規則や誓約書で競業を禁止していても、必ずしも競業避止義務違反として責任を追及できるわけではありません。

また、競業避止義務が有効であっても、違反行為の証拠が不足していたり、損害を立証できなかったりすることで、会社が期待した結果を得られない場合もあります。

今回は、企業が競業避止義務違反への対応で失敗しやすい7つのケースを取り上げ、それぞれの原因と対策について、企業側の立場から弁護士が解説します。

失敗ケース ①誓約書があれば競業を禁止できると思っていた

【失敗例】

会社は、従業員の入社時に「退職後は競合他社に転職しない」という誓約書を取得していました。

その後、退職した従業員が競合会社に転職したため、会社は誓約書に基づいて競業行為の差止めを求めることを検討しました。

しかし、誓約書には禁止期間や地域、対象となる業務が具体的に定められておらず、競業避止義務の有効性が問題となりました。


【失敗の原因】

退職後の競業避止義務は、誓約書に署名していれば当然に有効になるわけではありません。

従業員には職業選択の自由が保障されているため、競業避止義務が有効かどうかは、会社が守るべき利益、従業員の地位、制限期間、地域、禁止行為の範囲、代償措置の有無などを総合的に考慮して判断されます。


【企業側の対策】

誓約書を作成する際には、単に「競業を禁止する」と定めるのではなく、会社が守るべき利益を明確にし、その保護に必要かつ合理的な範囲で競業行為を制限することが重要です。

また、従業員の職種や役職、取り扱う情報に応じて、個別に競業避止義務の必要性を検討することが望まれます。

失敗ケース ②競業禁止の期間・地域・業務範囲を広く設定しすぎた

【失敗例】

会社は、退職後2年間、日本全国で同業他社への転職や独立を一切禁止する規定を設けていました。

退職した従業員が同業他社に転職したため、会社は競業避止義務違反を主張しました。

しかし、禁止する地域や業務範囲が広く、従業員の職業選択の自由を過度に制限するものとして、規定の有効性が問題となりました。


【失敗の原因】

競業避止義務は、会社の利益を守るために必要かつ合理的な範囲でなければなりません。

例えば、特定地域の顧客情報を守ることが目的であるにもかかわらず、日本全国で一切の競業を禁止する場合、その必要性や合理性が問題になります。

また、営業担当者に対して、営業活動だけでなく競合会社でのあらゆる業務を禁止する場合も、過度な制限となる可能性があります。


【企業側の対策】

競業避止義務を定める際には、期間・地域・禁止する業務内容を具体化し、必要以上に広い制限を設けないことが重要です。

例えば、競合会社への転職を一律に禁止するのではなく、特定の顧客への営業活動や、重要な営業秘密を利用する競業行為などに対象を限定することも考えられます。

なお、競業避止義務の有効性は個別事情によって判断されるため、「退職後1年間であれば必ず有効」といった一律の基準があるわけではありません。

失敗ケース ③退職時に初めて競業避止義務の誓約書を求めた

【失敗例】

会社は、重要な顧客を担当していた営業担当者の退職が決まった際、競合会社への転職を防ぐため、退職後の競業避止義務に関する誓約書への署名を求めました。

しかし、従業員は署名を拒否しました。

会社は、就業規則や雇用契約書にも退職後の競業避止義務を具体的に定めていなかったため、退職後の転職を制限する法的根拠が問題となりました。


【失敗の原因】

退職後の競業避止義務は、原則として、有効な合意や就業規則上の定めなどの根拠が必要です。

退職時に初めて競業避止義務への同意を求めても、従業員が応じるとは限りません。

また、退職時に強引に署名を求めることは、合意の有効性をめぐる新たな紛争につながる可能性があります。


【企業側の対策】

退職時だけでなく、入社時や在職中から、就業規則・雇用契約書・誓約書などを適切に整備しておくことが重要です。

特に、重要な顧客情報や技術情報を取り扱う従業員については、職務内容や情報へのアクセス状況に応じて、競業避止義務の必要性を事前に検討しておくことが望まれます。

なお、就業規則に競業避止義務を定めていても、その内容が当然に有効となるわけではありません。就業規則の周知状況や規定内容の合理性なども問題となるため、必要に応じて個別の合意を取得することが重要です。

失敗ケース ④競合会社への転職だけで義務違反と判断した

【失敗例】

退職した営業担当者が競合会社に転職したことを知った会社は、直ちに競業避止義務違反と判断し、元従業員に警告書を送付しました。

しかし、会社が定めていた競業避止義務の内容は限定的であり、元従業員が実際に担当している業務や顧客への営業活動も確認できていませんでした。

そのため、具体的にどの義務に違反しているのかを明確にできませんでした。


【失敗の原因】

競合会社への転職と、競業避止義務違反は同じではありません。

退職後の競業避止義務が有効に成立しているか、実際の転職先での業務が禁止行為に該当するかを確認する必要があります。

また、顧客への営業活動についても、通常の営業競争なのか、営業秘密の不正利用や不法行為に該当する行為なのかを区別する必要があります。


【企業側の対策】

警告書の送付や法的措置を検討する前に、競業避止義務の内容と、実際に行われている競業行為を照合することが重要です。

具体的には、転職先の事業内容、元従業員の担当業務、顧客への営業状況、営業秘密の利用の有無などを確認します。

競業避止義務違反の有無を慎重に検討せず、法的根拠が不十分なまま警告や請求を行うことは、新たな紛争を招くおそれがあるため注意が必要です。

失敗ケース ⑤顧客情報や営業秘密の持出しを防げなかった

【失敗例】

会社は、従業員に競業避止義務の誓約書を提出させていましたが、顧客情報や営業資料へのアクセス管理を十分に行っていませんでした。

その結果、退職する従業員が顧客リストや営業資料を私用の端末に保存していたことが、退職後に判明しました。

しかし、会社にはアクセスログや持出しの記録が十分に残っておらず、どの情報が持ち出され、どのように利用されたのかを確認することが困難になりました。


【失敗の原因】

競業避止義務の誓約書だけでは、顧客情報や営業秘密の流出を防ぐことはできません。

また、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるためには、秘密管理性、有用性、非公知性という要件を満たす必要があります。

重要な情報を適切に管理していなければ、営業秘密としての保護や違反行為の立証が難しくなる場合があります。


【企業側の対策】

競業避止義務だけでなく、秘密保持義務、情報へのアクセス権管理、データの持出し防止、退職時の情報回収を組み合わせることが重要です。

特に、顧客情報や技術情報については、アクセスできる従業員を必要な範囲に限定し、アクセス履歴やデータの操作履歴を適切に管理しておくことが望まれます。

退職時には、会社資料や貸与端末の返却だけでなく、業務上のデータが私用端末や外部サービスに保存されていないかについても、適法かつ適切な方法で確認することが重要です。

失敗ケース ⑥競業避止義務違反の証拠を確保できなかった

【失敗例】

会社は、退職した営業担当者が元の顧客に営業を行い、取引先を奪ったと考えていました。

しかし、会社が把握していたのは、顧客からの伝聞や、退職後に売上が減少したという事情だけでした。

元従業員が具体的にどのような営業活動を行ったのか、会社の情報を不正に利用したのかを示す証拠が不足していたため、責任追及が難しくなりました。


【失敗の原因】

競業避止義務違反を理由に責任を追及するためには、義務の存在や有効性だけでなく、具体的な違反行為を立証する必要があります。

また、損害賠償請求では、損害の発生や金額、違反行為との因果関係なども問題になります。

単に「顧客が減った」「売上が下がった」というだけでは、元従業員の違反行為によって損害が生じたことを十分に立証できない場合があります。


【企業側の対策】

競業避止義務違反が疑われる場合には、早期に事実関係を確認し、適法な方法で証拠を確保することが重要です。

例えば、業務メール、アクセスログ、顧客との取引履歴、営業資料、退職前後の受注状況などを確認します。

また、退職者による競業行為が疑われる場合には、関係資料や電子データが消失しないよう、速やかに証拠保全の必要性を検討することが望まれます。

ただし、元従業員の私的なメールや端末に無断でアクセスするなど、違法・不適切な方法で証拠を収集しないよう注意が必要です。

失敗ケース ⑦損害賠償請求をしたものの、損害額を立証できなかった

【失敗例】

退職した従業員が競業行為を行い、会社の取引先との取引が減少しました。

会社は、競業避止義務違反によって売上が減少したとして、元従業員に損害賠償を請求しました。

しかし、売上減少の原因が元従業員の競業行為にあることや、会社が失った利益の金額を十分に立証できず、請求額の全部又は一部が認められない結果となりました。


【失敗の原因】

競業避止義務違反が認められても、会社が主張する損害額がそのまま認められるわけではありません。

損害賠償請求では、違反行為と損害との因果関係、損害額などを検討する必要があります。

特に、売上の減少額と損害額は必ずしも一致しません。失われた取引から得られたはずの利益や、必要経費などを考慮する必要があります。


【企業側の対策】

損害賠償請求を検討する場合には、競業避止義務違反の証拠だけでなく、取引先ごとの売上・利益、受注見込み、取引減少の経緯などを整理することが重要です。

また、損害賠償請求だけでなく、事案に応じて、警告書の送付、交渉、競業行為の差止請求や仮処分など、適切な対応方法を検討する必要があります。

なお、競業避止義務違反に基づく差止請求についても、義務違反があれば当然に認められるわけではなく、合意内容や具体的な事情に応じて判断されます。

企業が競業避止義務違反への対応で失敗しないためのチェックポイント

競業避止義務違反のトラブルを防ぐため、企業では次の点を確認しておくことが重要です。

  • 会社として守るべき顧客情報・営業秘密・技術情報などを明確にしている
  • 競業避止義務を課す必要がある従業員を適切に選定している
  • 就業規則・雇用契約書・誓約書を整備している
  • 競業を禁止する期間・地域・業務範囲を合理的に設定している
  • 代償措置の必要性を検討している
  • 顧客情報や営業秘密のアクセス管理を行っている
  • 退職時に会社資料やデータの返却・削除を確認している
  • 競業避止義務違反が疑われる場合の証拠確保の方法を決めている
  • 損害賠償請求や差止請求を行う前に、法的な見通しを検討している

これらの項目に不十分な点がある場合には、退職後のトラブルが発生する前に、社内ルールや情報管理体制を見直すことが望まれます。

まとめ|競業避止義務違反への対応は、事前の制度設計と証拠管理が重要

競業避止義務違反への対応で企業が失敗する原因は、誓約書の不備だけではありません。

競業避止義務の範囲が広すぎること、退職時の対応が不十分であること、顧客情報や営業秘密を適切に管理していないこと、違反行為や損害の証拠が不足していることなど、さまざまな要因があります。

特に重要なのは、「競業避止義務を定めていること」と「実際に違反行為の責任を追及できること」は別の問題であるという点です。

企業としては、競業避止義務を必要かつ合理的な範囲で設定するとともに、秘密保持、情報管理、退職時対応、証拠保全などを組み合わせることが重要です。

また、退職後に競業行為が判明した場合には、競業避止義務の有効性、具体的な違反行為、損害の発生状況などを確認し、適切な対応方針を検討する必要があります。

競業避止義務違反のトラブルを防ぐためには、退職後の対応だけでなく、在職中からの予防法務が重要です。

競業避止義務違反に関するご相談は、弁護士法人かける法律事務所へ

弁護士法人かける法律事務所では、企業・使用者側の立場から、競業避止義務に関する予防法務から紛争対応まで、幅広くサポートしています。

例えば、次のようなご相談に対応しています。

  • 競業避止義務に関する就業規則・誓約書・退職時合意書の作成・見直し
  • 競業避止義務の有効性や、禁止する期間・地域・業務範囲のリーガルチェック
  • 退職予定者に対する秘密保持・競業避止義務の確認
  • 顧客情報・営業秘密の持出し防止と情報管理体制の整備
  • 退職者による顧客の引抜きや競業行為への対応
  • 競業避止義務違反に関する警告書の送付・交渉
  • 損害賠償請求・差止請求などの法的措置

当事務所では、企業法務・労務問題に注力する弁護士が、企業の事業内容や実際のリスクを踏まえ、適切な対応方針をご提案します。

競業避止義務に関する社内ルールの整備や、退職した従業員による競業行為への対応でお悩みの場合には、弁護士法人かける法律事務所までお気軽にご相談ください。

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代表弁護士 細井 大輔

私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。

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