よくある相談
①試用期間中であれば、能力不足を理由に解雇してもいいですか?
②試用期間中の従業員による業務ミスが多く、困っています。
③従業員の適性を見極めるため、試用期間の導入を検討しています。
事案の概要ー大阪地判令和6年1月9日(以下「本判決」という。)
原告(従業員)が、2022年4月4日から被告(会社)との間で雇用契約を締結し、本社工場において、プラスチック製品の検品・箱詰め作業等に従事していたところ、作業ミスが多いこと等を理由に、同年4月12日に即日解雇する旨の通知を行った。
そのため、原告(従業員)が、被告(会社)から解雇されたことにつき、同解雇が無効である旨を主張した事案である。
被告(会社)が主張する解雇理由
原告は、勤務開始当初から、数量確認作業や原料投入作業のミスを発生させ、その後、2台の機械を担当した際もミスやトラブルを頻発させたことから、いったん1台の機械の担当に戻すことにした。
しかし、原告は、注意力が散漫な状況がみられ、ベルトコンベア上にしばしば製品を滞留させ、周囲の従業員が常に原告の就業状況を注視しつつ作業の手助けをしなければならないような状態が2日間にわたって続いた。
そのため、被告は、原告が機械装置の動作を認識し装置の動きに合わせて作業を行う被告工場における就業に不向きであり、複数台の機械を担当するという本件雇用契約の目的に応じた就業が困難であると判断し、周囲の従業員への負担等の影響や安全面等も考慮の上、やむなく試用期間中の解雇に至ったものであり、本件解雇は相当なものとして是認されるべきである。
本判決の判旨-試用期間中の解雇を無効
「試用期間中にされた本件解雇の法的性質は、留保解約権の行使であるところ、留保解約権の行使は、通常の解雇よりも広い範囲で認められるものの、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解するのが相当である」
「原告は、勤務開始2日目に数量確認ミス、勤務開始3日目に原料投入ミスを発生させたことが認められるものの、これらは、いずれも勤務開始早々の出来事であり、単純なミスによるものであること、他の数量確認作業や原料投入作業の機会にはミスを発生させておらず、その頻度が頻回であるとはいえないこと、ミスによる影響も取り返しのつかないほどの重大な支障を生じさせるものとまでいえないことからすると、これらのミスを発生させたことをもって留保解約権行使の客観的合理的理由になるとはいえない。」
「原告は、勤務開始4日目に2台の機械を担当する準備をした後、勤務開始5日目に2台の機械を担当し、その際、複数のミスやトラブルを発生させたことが認められるものの、原告は、この日、初めて2台の機械を担当したものであり、その原因も、目視する箇所が増え、作業が追い付かなかったというものであって、2台の機械での作業に不慣れであったことに起因する面もあることからすると、原告が本件雇用契約で予定された複数台の機械を担当することがおよそ見込めないとか、被告工場での作業に適性がないとまではいえず、これらのミスやトラブルを発生させたことをもって留保解約権行使の客観的合理的理由になるともいい難い。」
「原告は、勤務開始6日目及び7日目、検品・箱詰め作業がベルトコンベアの速度に追い付いておらず、他の従業員が常に原告の状況に目を配りフォローを要する状態であったことが認められるものの、特段のミスを発生させたわけではなく、原告の上記状態をもって原告が被告工場での作業に対する意欲を喪失していたとまではいえない」
「以上によれば、原告は、機械の動作を認識してその動きに合わせて作業を行ったり、複数の作業を同時並行的に行ったりする被告工場での作業が不得手であった可能性は否定できないものの、少なくとも本件解雇時点で、原告が本件雇用契約で予定された複数台の機械を担当することがおよそ見込めないとか、被告工場での作業に適性がないなどといえなかったことはもとより、原告が被告工場での作業に対する意欲を喪失していたともいえないから、試用期間中であることを考慮しても、本件解雇は、客観的に合理的な理由によるものとはいい難く、無効である」
試用期間とは?
試用期間とは、従業員の能力や適性を判断するために、就業規則や雇用契約において定める期間をいいます。試用期間の長さは、法的に規制があるわけではないですが、1か月、3か月又は6か月等企業の実情に応じて定めます。
試用期間を定める雇用契約の性質は、解約権留保付き雇用契約と解釈されているところ(最判昭和48年12月12日)、その解約権留保は、採用時には、従業員の資質、性格や能力等を十分に見極めることができないときに、採用後の調査や検討によって最終決定権を留保することに、その趣旨や目的があります。
そのため、試用期間中の解雇は、通常の解雇の場合よりも広い範囲で認められることになります。
もっとも、解約権留保の趣旨、目的に照らして、試用期間中の解雇であったとしても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されることになります。本判決でも、そのことが指摘されています。
試用期間中の解雇の注意点とは?
①試用期間中でも無条件に解雇が認められるわけではありません。
経営者の方だけでなく、いわゆる専門家(弁護士や社労士)の中にも、試用期間中であれば、無条件に解雇が認められると考える方がいます。
もっとも、これは、労働法の観点からすると、誤りであって、試用期間中の解雇であっても、客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当といえることが必要です。価値観があわないとか、挨拶をしないとか、態度が悪いという主観的・抽象的な理由では解雇できません。
万が一、試用期間の解釈を誤って、解雇してしまい、労働トラブルや紛争に発展してしまった場合は、労働法に精通する弁護士に早急に相談し、問題解決に取り組む必要があります。
万が一、解雇が無効となると、従業員の復職を認めなければならなくなったり、バックペイ(*)を支払わなければならなくなったりします。
*会社が主張する解雇が無効である場合、会社は、従業員に対して、解雇によって就労が拒否されていた期間の賃金を支払わなければなりません。これを、「バックペイ」といいます。このバックペイの金額は高額化する傾向にあります。
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②試用期間中に本採用を判断できない場合、試用期間の延長も検討します。
試用期間を1か月や3か月とか、比較的、短期間で定めている場合、従業員の適性や能力を判断できない場合があります。
特に、マネージャーや管理監督者等役職・ポジションが高い方を採用する場合、試用期間が短いと、その資質等を正確に判断できない場合があったり、焦って解雇してしまうと、深刻な労働トラブルに発展してしまうことがあります。
もし、試用期間中に本採用の可否を判断できない場合、試用期間の延長も検討ください。十分な検討がないまま、試用期間中の解雇を行うよりは、重大なトラブルやリスクを回避することができます。
試用期間中の延長を行う場合、就業規則や社内規則の規定の有無や要件も確認するようにしてください。
③試用期間中の解雇を巡っては、深刻な労働トラブル・紛争に発展することがあります。
入社して間もないからとか、能力がないことを隠していたからとか、感情的になって、試用期間中の解雇を行う企業や経営者の方がいます。
もっとも、雇用契約の長さ・期間にかかわらず、解雇を行うことは、深刻な労働トラブルや紛争に発展することがあります。
特に、丁寧な手続(理由の説明等)を踏まないと、従業員側の不満やフラストレーションも大きく、試用期間中の解雇に納得しないケースも多く、労働裁判や労働審判に発展することがあります。試用期間中の解雇以外の選択肢(退職勧奨や退職合意)も検討し、円満な解決を目指すことが企業の持続的な成長のためには必要です。
また、試用期間中の解雇を行うときに、主観的な判断となっているのではないか、また、改善の見込みがあるのではないか等第三者の意見を確認しながら、判断することをお勧めします。社会や時代の変化に伴う価値観の多様化によって、会社と従業員のコミュニケーション不足が理由となっている場合もあり、従業員としっかりと話し合うことで問題が解決する場合も多くあります。
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試用期間中における解雇については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください
弁護士法人かける法律事務所では、顧問契約(企業法務)について、常時ご依頼を承っております。企業法務に精通した弁護士が、迅速かつ的確にトラブルの解決を実現します。お悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
顧問契約では 問題社員(モンスター社員)対応、未払い賃金対応、懲戒処分対応、ハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、労働紛争対応(解雇・雇止め、残業代、ハラスメント等)、労働審判・労働裁判対応、雇用契約書・就業規則対応、知財労務・情報漏洩、等の労働問題対応を行います。
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Last Updated on 2025年2月4日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。
代表弁護士 細井大輔
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