無断欠勤を理由に従業員を懲戒解雇できますか?~無断欠勤を繰り返したことを理由とする懲戒解雇を肯定した東京地判令和6年4月24日を弁護士が解説します~

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無断欠勤を理由に従業員を懲戒解雇できますか?~無断欠勤を繰り返したことを理由とする懲戒解雇を肯定した東京地判令和6年4月24日を弁護士が解説します~

よくある相談

①無断欠勤している従業員を解雇できますか?

②従業員と連絡がとれなくなりました。

③業務命令違反を繰り返す従業員に対して懲戒処分を行いたい。

事案の概要-東京地方裁判所令和6年4月24日(以下「本判決」という。)

被告(会社)が原告(従業員)に対して、①就労を継続する意思の有無及び健康状態について回答するよう求めたものの、これに回答しなかったという業務命令違反、また、②原告が無断欠勤を繰り返したことを理由に、懲戒解雇(本件解雇)を行ったところ、原告から本件解雇は無効であると主張された事案である。

本件の特徴・ポイント

・本件解雇に先立ち、原告(従業員)は、被告(会社)からの就労を継続する意思の有無の確認に対し、回答しなかった。

・原告(従業員)は、被告(会社)へ出勤しなかったため、被告から厳重注意、譴責処分、出勤停止処分を受けている。

本判決の判旨-懲戒解雇を有効と判断

1 懲戒事由該当性

「原告は、被告から就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答すること、出社を命じられるとともに出社できない場合にはその理由について回答することを業務命令として再三にわたり求められたものの、被告に対し回答せず出社しなかった。また、原告は、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分を受けても対応に変わりはなく、本件出勤停止処分後も3回にわたり被告から就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答するように求められたものの、被告に対し回答しなかった。

これらの事実によれば、原告は、被告の業務命令に従わず、かつ欠勤を繰り返していたということができるから、業務命令違反及び欠勤について正当な理由がない限りは、懲戒事由について定めた被告の就業規則70条1号(「法令に違反し、またはこの規則その他の諸規程あるいは業務上の命令に正当な理由なく従わないとき」)及び11号(「正当な理由なく、遅刻、早退、離席または欠勤を繰り返す等、勤務状況、勤務態度が不良であるとき」)に該当するといえる。」

2 正当な理由の有無

「原告には、本件労働契約に基づき、原則として、出勤し、被告の業務命令に従わなければならない義務があり、原告の主張を踏まえても、本件における業務命令の内容等に照らし、原告がこれらに従うことができなかった事情は認められないため、業務命令違反及び欠勤について、正当な理由はないと判断した。すなわち、労働契約の内容に含まれる業務命令については、当該命令が権利の濫用に当たるような場合でない限り、労働者はこれに従う義務があるといえるところ、原告に対し、就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答すること、出社を命じるとともに出社できない場合にはその理由について回答することを求める本件における被告の業務命令は、労働契約の本旨たる労務提供を命じ、その可否や労務提供できない理由について回答を求めるものであり、少なくとも回答を求められた事項に回答することは容易であること、回答を妨げるような事情も見当たらないことからすれば、原告は、これに従わなければならなかったといえる。また、欠勤についても同様であり、労働契約が存続し出社命令により労務提供が命じられているにもかかわらず労働者の就労義務が免除される場合というのは、原則として考え難く、本件においても、原告が欠勤の理由を回答していない以上、欠勤について正当な理由は認められない。」

また、「本件自宅待機命令は社会通念上許容される限度を超えた退職勧奨として部分的に違法であるものの、被告が先行して違法な行為をすれば、原告は、以後、被告の業務命令に従わなくてよいということにならないのは当然であるし、本件自宅待機命令によって、原告が被告に対し不信感及び恐怖心を抱いた可能性はあるものの、上記のとおり本件業務命令の内容等に照らせば、このことによって、原告の業務命令違反及び欠勤について正当な理由があるということはできない。」

3 解雇の客観的合理的理由及び社会通念上の相当性

「原告は、正当な理由なく被告の業務命令に違反し欠勤を繰り返しており、その回数及び期間に鑑みても、原告の違反の程度は重大で企業秩序に与える程度も大きく、被告としては、こうした労働者を放置していては企業秩序を維持することは不可能であった」

「被告は、本件解雇に先立ち、原告に対し、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分をしており、段階を踏み改善の機会を与えているし、原告は、本件厳重注意、本件譴責処分及び本件出勤停止処分を受けても対応に変わりはなく、被告から本件出勤停止処分後も3回にわたり就労を継続する意思の有無及び原告の健康状態(就労可能性)について回答するように求められたものの、被告に対し回答しなかったことが認められるから、被告の業務命令に従わない意思を確定的かつ終局的に示しているといえ、改善の可能性もなかった」

「本件解雇は、懲戒解雇として客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に該当せず、有効である。」

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本判決の判旨ー長期間(約4年半)の自宅待機命令を違法と判断

「長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態というべきであり、退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことからすれば、原告については、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべきである。退職勧奨は任意のものでなければならず強制にわたることは許されないというべきであるところ、原告の勤務状況に問題があったことが被告の退職勧奨のきっかけとなったこと、その後原告が復帰先について希望どおりにならない場合であっても構わないか否かといった被告の問いに対し明言を避けたことが長期化の一因となった面が否定できないことを踏まえても、C参事役が原告の反省を求めることについて終了したとの認識を示し、原告が復帰を明確に求めた平成28年8月9日の面談以降は、原告に退職の意思はないものとして原告の復帰先についての具体的調整を開始すべきといえる。そして、被告は、同月には原告の職場復帰に関する調整を始めなければならない以上、原告に対し同年10月頃までには具体的な復帰先を提示すべきであったといえ、同月以降の本件自宅待機命令は、実質的にみて、原告に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない。さらに、被告は、その後、原告に対し、復帰先について特段の連絡をしていないばかりか、復帰先について検討したことを裏付けるに足りる客観的証拠もなく、原告を今後どのように処遇しようとしていたかすら不明であり、原告が本件自宅待機命令についてK次長に抗議したり内部通報をしたりしても、これに直ちに対応せず結果的に本件自宅待機命令が約4年半もの長期間に及んでおり、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。

したがって、本件自宅待機命令は、平成28年10月頃以降前記のとおり令和2年10月15日に終了するまでの部分については、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する。」

無断欠勤を理由とする懲戒処分の可否

懲戒処分を行うためには、就業規則の根拠規定が存在し、従業員の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。無断欠勤を理由に従業員に対する懲戒処分を行う場合、就業規則にその旨の記載が必要です。

また、無断欠勤それ自体は単に会社に対する誠実労働義務の不履行であり、それが就業に関する規律に反したり、職場秩序を乱したりしたと認められる場合にはじめて懲戒事由となります。

そして、懲戒事由該当行為が認められるとしても、当該行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権を濫用したものとして、懲戒解雇は無効となるので注意が必要です(労働契約法15条)。

労働契約法15条(懲戒)

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使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

無断欠勤を理由とする懲戒処分の注意点

①無断欠勤の回数や期間を考慮する必要があること

本判決では、原告が、被告からの業務命令を無視し続け、無断欠勤を繰り返したことが認定されています。

たとえば数回の無断欠勤で、会社への影響もさほど大きくない場合、懲戒解雇が無効と判断される可能性はあり、実際、無断欠勤の回数が特段多くなく、業務への影響がさほど大きくなかったことを理由に、懲戒解雇が無効とされた裁判例もあるので注意が必要です。

②無断欠勤の背景を確認すること

従業員が、同僚からの嫌がらせや監視を受けていると感じ、精神的な不調を理由に無断欠勤を約40日間続け、会社がこれを理由に諭旨退職の懲戒処分を行ったところ、当該諭旨解雇が無効とされた裁判例があります(最判平成24年4月27日・日本ヒューレット・パッカード事件)。

最高裁は、無断欠勤の背景に精神的な健康問題がある場合、会社は懲戒処分の前に適切な医療対応や支援を行う必要があり、これらの対応を経ずに行った懲戒処分は適切でない旨判示しています。

本判決で、原告(従業員)は、上記最高裁判決を理由に本件解雇は無効であると主張しましたが、裁判所は、「原告は、被告に対し、健康状態等について回答できない状態であったとは認められ」ないとして、原告の主張に理由がないと判断しています。

ただ、無断欠勤の背景を確認せず、安易に懲戒処分を行うと、当該懲戒処分が無効と判断される可能性があるので、注意が必要です。

最判平成24年4月27日(日本ヒューレット・パッカード事件)の判旨

「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者である上告人としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上」で、「その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく,被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。」

長期間の自宅待機命令が違法と判断される可能性があること

本件では、無断欠勤となる前に、退職勧奨に引き続く自宅待機命令が行われており、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間(約4年半)にわたり自宅待機の状態が続けられました。

この状態に関し、本判決は、通常想定し難い異常な事態で、実質的にみて退職勧奨が継続しており、原告に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨と判断しています。

無断欠勤に至る背景において、退職勧奨や自宅待機命令が混在するケースもあって、退職勧奨や解雇のタイミングや時期を間違えてしまうと、労働トラブルがさらに深刻化・複雑化してしまうこともあります。

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Last Updated on 2025年3月3日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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