盗撮で逮捕された従業員は懲戒解雇できますか?私生活上の非行行為と懲戒解雇の可否について弁護士が解説!-名古屋地判令和6年8月8日(日本郵便事件)-
よくある相談
①従業員による不倫行為が発覚したので、懲戒処分したい。
②従業員が逮捕され、会社の信用が低下しているため、懲戒解雇したい。
③従業員が業務外で個人のSNSを利用したところ、会社もトラブルに巻き込まれた。
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事案の概要
被告の従業員である原告が、通勤途上の勤務時間外、地下鉄の電車内において、小型カメラで被害者のスカート内を撮影しようとした行為(以下「本件行為」という。)によって、迷惑行為防止条例違反により逮捕されたため、被告が本件行為を理由に懲戒解雇を行ったところ、原告が懲戒解雇が無効であると主張した事案である。
なお、本件行為について、逮捕翌日に釈放となり、被害者に被害弁償を行い、示談が成立し、被害届も取り下げられ、結果として不起訴処分となっている。
判旨のポイント①ー懲戒処分の可否
「原告は本件行為に及んだことが認められるところ、職務遂行と直接関係のない従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの、又は、企業の社会的評価の毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものについては、企業秩序の維持確保のための懲戒の対象となり得るものというべきである。」
「本件行為は、被告の企業秩序に直接の関連を有するものであり、被告の社会的評価の毀損につながるおそれがあると客観的に認められるから、懲戒の対象となり得るということができる。そして、原告は、被害者を撮影したことを認めているから、本件行為は、愛知県迷惑行為防止条例に違反する行為であるといえ、法令に違反したとして就業規則81条1項1号に該当する。また、従業員による盗撮行為は、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為といえるから、就業規則81条1項15号にも該当するというべきである。」
判旨のポイント②ー懲戒解雇を無効
本件行為については、「行為時においては条例違反にとどまり、その法定刑に照らせば、他の法令違反行為と比較して重い法令違反行為であるとまではいえない。原告は被害者と示談をし、令和5年11月16日には不起訴処分がされており」、「刑事手続において有罪判決を受けたものではない。」
「本件行為が行われて以降、本件行為ないし本件行為に係る刑事手続について報道がされておらず、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったことが認められ、原告自身も本件行為日の翌日には釈放されており、通常の勤務に復帰できる状態になったことが認められる」。
「そうすると、本件懲戒解雇時点において、本件行為及び原告の逮捕によって、被告の業務等に悪影響を及ぼしたと評価することができる具体的な事実関係があるとはいえない。
これらの事情に加え、原告が過去に懲戒処分歴を有していないこと等も考慮すると、本件行為を懲戒事由として、懲戒解雇を選択したことは、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したものとして無効であるといわざるを得ない。」
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私生活上の非行行為と懲戒処分の可否
ほとんどの会社では、就業規則において、会社の信用や名誉を毀損する行為を懲戒事由と規定したり、犯罪行為や法令違反を懲戒事由と規定しており、従業員が私生活上の非行行為や犯罪行為を行った場合、懲戒処分を検討することになります。
もっとも、企業には、あくまで企業における事業活動を円滑に遂行するために必要な限度において、懲戒権(企業秩序違反行為に対する制裁罰)が付与されているにすぎず、従業員の私生活上の問題行為について、直ちに懲戒処分が肯定されるわけではありません。
従業員の私生活上の問題行為に対して、懲戒処分を行うためには、その問題行為が事業活動に直接の影響を与えたり、企業の社会的評価を毀損するものでなければ、懲戒処分が無効と判断されることがあるため、注意が必要です。
特に、懲戒解雇は、懲戒処分のうち、最も重い処分(懲戒処分の極刑)であり、対象従業員の再就職の障害ともなるため、懲戒行為があったとしても、その行為の性質や態様等から、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります。
本判決から考える実務的な注意点やポイント
①私生活上の問題行動によって、企業秩序に影響を与え、企業の名誉・信用を低下させるため、懲戒処分を行う必要があるとしても、懲戒処分の内容(けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇)については、慎重に検討する必要があります。
②従業員が業務外で逮捕された事例でも、直ちに、懲戒解雇と判断するのではなく、ア)違反法令の性質・内容、イ)被害者との示談の有無・処分の有無、ウ)会社に与える影響、エ)過去の懲戒処分歴等を総合的に考慮する必要があります。
③従業員のプライベートな問題行動によって、企業秩序を維持するため、対象従業員に退職してもらう必要がある場合、対象従業員との話し合いや退職勧奨によって合意によって解決できる場合も多く、深刻な労働トラブルを回避できることも多くあります。
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