営業秘密侵害行為に関するよくある相談例
①退職した従業員が、会社の技術情報データを持ち出しました。
②会社を独立した社員が、会社の顧客や取引先に接触しています。
③「営業秘密」とは、どのような情報ですか?
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不正競争防止法とは?
「不正競争防止法」とは、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としています(不正競争防止法1条)。
不正競争防止法では、ブランド表示の盗用や形態模倣等を「不正競争行為」と定めるとともに、営業秘密の不正取得・使用・開示行為等を「不正競争行為」と定めて、禁止しています。不正競争防止法は、不法行為法(民法709条)の特則として、位置付けられます。
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不正競争行為の具体例
①周知表示の混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)
②著名表示の冒用行為(同項2号)
③形態模倣行為(同項3号)
④営業秘密侵害行為(同項4号~10号)
⑤限定提供データに係る不正行為(同項11号~16号)
⑥技術的制限手段に対する不正行為(同項17号、18号)
⑦ドメイン名に係る不正行為(同項19号)
⑧誤認惹起行為(同項20号)
⑨信用毀損行為(同項21号)
⑩代理人等の商標冒用行為(同項22号)
本コラムでは、「不正競争行為」のうち、「営業秘密侵害行為」について説明します。
「営業秘密侵害行為」(不正競争行為)によって、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、差止請求や廃棄請求が可能です(不正競争防止法3条)。
また、故意又は過失によって「営業秘密侵害行為」(不正競争行為)を行い、他人の営業上の利益を侵害した者は、損害賠償責任を負います(不正競争防止法4条)。
営業秘密侵害行為の中でも、違法性の高い行為については、刑事罰の対象にもなります(不正競争防止法21条)。
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営業秘密が認められる要件とは?
不正競争防止法において、「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています(同法2条6項)。
そのため、ある情報が「営業秘密」に該当するためには、①当該情報が秘密として管理されていて(秘密管理性)、②事業活動に有用なものであり(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)が必要になります。
これを、「営業秘密」の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)といいます。このコラムでは、営業秘密の3要件のうち、「有用性」について説明します。
営業秘密の「有用性」とは?
有用性とは、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用な情報であることを意味します。例えば、財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つ情報がこれにあたります。
不正競争防止法によって保護されるためには、一定の社会的意義を有する情報であることが求められ、「有用」ではない情報については、営業秘密としての保護に値しないという価値判断に基づきます。
つまり、営業秘密として保護を受けるためには、「有用性」も検討しなければなりません。
例えば、玩具製品の開発、製造、販売等を業としているX社の売上げの大部分を占めている玩具Aの製造マニュアルは、これが流出することにより、他社に模倣され、X社の売上げが減少するおそれがあります。そのため、X社の事業活動にとって客観的に有用なものであり、有用性が認められます。
また、失敗した実験の記録、製品の欠陥情報やある製造方法が役立たないといった消極的情報(いわゆるネガティブ・インフォメーション)についても、「有用性」が肯定されます。
営業秘密の「有用性」が否定される場合の具体例
ネガティブインフォメーションにも有用性が認められる以上、客観的に有用ではない情報はさほど多くないといえます。
ただ、公序良俗に違反する情報については、「営業秘密」として法的に保護に値しないため、有用性が一般的に否定されます。
(公序良俗に違反する情報の具体例)
・犯罪の手口
・脱税の方法
・会社の犯罪行為
また、当業者であれば、通常の創意工夫の範囲内でつくられる情報も、有用性を否定する裁判例があります。
「有用性」に関する裁判例の紹介
上記の通り、有用性を否定する裁判例は多くなく、秘密管理性や非公知性の要件を満たす情報については、有用性が認められることが通常です。そこで、ここでは、有用性が否定された代表的な裁判例を紹介します。
(1)東京地判平成14年2月14日
①事案の概要
原告は、公共土木工事の積算システムのコンピュータソフトウェアの販売等を目的とする株式会社であり、被告らは、原告と同業の有限会社及びその従業員(原告の元従業員)である。原告は、被告らが原告在職中に原告の営業秘密を不正に取得し、被告会社がこれを利用して営業活動をしていると主張し、損害賠償を求めた事案である。
②判旨
「犯罪の手口や脱税の方法等を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は、法的な保護の対象に値しないものとして、営業秘密としての保護を受けないものと解すべきである。」
「本件情報は、地方公共団体の実施する公共土木工事につき、公正な入札手続を通じて適正な受注価格が形成されることを妨げるものであり、企業間の公正な競争と地方財政の適正な運用という公共の利益に反する性質を有するものと認められるから、前記のような不正競争防止法の趣旨に照らし、営業秘密として保護されるべき要件を欠くものといわざるを得ない。」
③判決のポイント
有用性の要件は、社会通念に照らして判断することとされており、公共の利益に反する性質の情報は、営業秘密としての保護を受けないとされている点が重要です。
(2)東京地判平成23年3月2日
①事案の概要
台湾法人である原告会社が、小型USBメモリを台湾の会社に製造委託してこれを輸入・販売する被告会社に対し、当該小型USBメモリは、被告が原告から示された営業秘密を不正に使用して製造されたものであり、不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当することを理由として、損害賠償を求めた事案。
②判旨
「LEDの搭載の可否、搭載位置、光線の方向は、被告から提案された選択肢及び条件を満たすために、適宜、原告において部品や搭載位置を選択したものであって、原告が被告に対して提供した情報の内容は、当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないものと認められる。また、LEDの実装に関する情報についても、同様である。したがって、これらの情報は、いずれも有用性があるとは認められず、原告の保有する営業秘密であると認めることはできない。」
③判決のポイント
当業者であれば、通常の創意工夫の範囲内で到達しうる情報について、有用性を否定し、営業秘密に該当しないとした点が重要といえます。
営業秘密侵害行為に対する対応方法
万一、営業秘密を実際に奪われてしまった場合、当該営業秘密の悪用によって、思わぬ二次被害(顧客データを盗まれ、顧客を奪われるなど)が生じる可能性があります。
そこで、なるべく迅速な対応が必要になります。以下では、実際に営業秘密侵害行為が発生してしまった場合における対応策を紹介します。
①差止請求
漏洩した営業秘密を活用して、競業企業が活動を続けている限り、企業は損害を受け続けることになります。
したがって、損害の拡大を阻止するために、営業秘密の使用の差止めを請求することが可能です(不正競争防止法3条1項)。また、営業秘密がデータで保存されている場合に、当該データの廃棄を求めることも可能です(同条2項)。
②損害賠償請求
営業秘密が漏洩して、企業が損害を被った場合に、損害を与えた相手(従業員や競業企業)に対して、損害賠償請求をすることも可能です(不正競争防止法4条)。
③信用回復請求
さらに、営業秘密の侵害により、営業上の信用を害された者は、裁判上の請求により、侵害者に対して、信用を回復するために必要な措置を求めることもできます(不正競争防止法14条)。
具体的には、新聞への謝罪広告の掲載が一般的です。また、不正競争を行った者の有するホームページへの謝罪広告の掲載を求めた事例もあります。
④従業員への対応
営業秘密の漏洩行為を、企業の就業規則の懲戒事由として規定しておけば、営業秘密を漏洩した従業員に対して、懲戒処分等の制裁を科すことが可能となります。さらに、企業によっては、懲戒解雇した場合には退職金を支給しないと規定したりすることもあります。
⑤刑事告訴
不正競争防止法には営業秘密侵害罪が規定されており、刑事罰の対象となっています。そこで、侵害者を刑事告訴することも考えられます。
最近、営業秘密に関して刑事罰が科される事例が増加しています。刑事告訴によって、「不正競争行為を許さない」という企業の強い姿勢を示すことができ、企業内での再発防止にもつながります。
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弁護士は、企業が行うべき営業秘密を守るための予防策を構築するためのサポートが可能です。
①営業秘密管理規定の策定サポート
②雇用契約書、誓約書や就業規則の作成サポート
③秘密保持契約書や取引契約書のリーガルレビュー
④コンプライアンスや情報漏洩に関する研修
⑤営業秘密侵害行為に対する対応策(裁判外交渉、民事訴訟の提起、刑事告訴)
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Last Updated on 2024年12月4日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔 この記事の監修者 弁護士法人かける法律事務所 弁護士法人かける法律事務所では、経営者の皆様に寄り添い、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、日々挑戦し、具体的かつ実践的な解決プランを提案することで、お客様から選ばれるリーガルサービスを提供し、お客様の持続可能な成長に向けて貢献します。 「裁判」や「訴訟」と聞くと、あまり身近なものではないと感じられるかもしれませんが、案外、私たちの身近には様々な法律問題が存在しています。また、法律問題に直面したときに、弁護士に依頼するということは、よほど大事なことのように思えます。しかし、早い段階で弁護士に相談することで解決することができる問題もあります。悩んだら、まずは相談することが問題解決への第一歩です。そのためにも、私は、相談しやすく、頼りがいのある弁護士でありたいと考えています。常に多角的な視点を持って、どのような案件であっても、迅速、正確に対応し、お客様の信頼を得られるような弁護士を目指します。弊事務所では、様々な層のお客様それぞれの立場に立って、多角的な視点から、解決策を提示し、お客様に満足していただけるリーガルサービスを提供します。お悩みのことがございましたら、是非一度、お気軽にご相談ください。
代表弁護士 細井大輔
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