専門職を別部署へ配置転換できる?最高裁判例から学ぶ職種限定合意の注意点

はじめに
技術職、研究職、エンジニア、経理職など、特定の専門性を前提として採用した従業員について、事業内容の変更や組織再編などを理由に、別部署・別職種への配置転換を検討することがあります。
もっとも、就業規則に配置転換を命じることができる旨の規定があっても、会社が常に一方的に職種を変更できるとは限りません。会社と従業員との間に、職種や業務内容を特定のものに限定する合意(職種限定合意)が認められる場合には、その合意との関係を慎重に検討する必要があります。
令和6年4月26日の最高裁判決では、職種限定合意が認められる事案について、会社は本人の個別的同意なく、その合意に反する配置転換を命じる権限を有しないと判断しました。さらに、その後の令和7年1月23日の差戻審判決では、会社による配置転換が不法行為に当たるとして、損害賠償責任が認められました。
本コラムでは、職種限定合意の基本的な考え方を整理したうえで、最判令和6年4月26日および差戻審判決の内容を紹介し、専門職の配置転換を検討する企業が押さえておきたい実務上のポイントを解説します。
職種限定合意とは
(1)職種や業務内容を限定する合意
職種限定合意とは、会社と従業員との間で、従業員が従事する職種や業務内容を特定のものに限定する合意をいいます。
例えば、「技術職」「研究職」「システムエンジニア」「経理職」など、特定の専門業務に従事することを前提として採用された場合には、職種限定合意が認められることがあります。
職種限定合意がある場合、その職種や業務内容は労働契約の内容となります。そのため、会社がその範囲を超える職種への配置転換を検討する際には、まず職種限定合意との関係を確認する必要があります。
(2)書面がなくても認められる場合がある
職種限定合意は、雇用契約書や労働条件通知書に明記されている場合だけでなく、書面による明示的な合意がなくても認められることがあります。
裁判では、例えば、次のような事情を総合的に考慮して、職種限定合意の有無が判断されます。
- 雇用契約書や労働条件通知書の記載
- 求人票や募集要項の内容
- 採用時の説明や面接でのやり取り
- 専門的な資格や技能を前提として採用されたか
- 長期間にわたり同じ専門業務に従事していたか
また、就業規則に「業務上必要がある場合には配置転換を命じることがある」といった一般的な配転条項があっても、それだけで職種限定合意に反する配置転換が直ちに認められるわけではありません。
そのため、専門職の配置転換を検討する際には、就業規則だけで判断するのではなく、雇用契約の内容、採用経緯、実際の勤務状況などを総合的に確認し、職種限定合意が認められるかを慎重に検討することが重要です。
最判令和6年4月26日の内容と企業実務への影響
(1)事案の概要
本件では、福祉用具の改造・製作や技術開発を担当する技術職として採用された従業員が、長年にわたり同じ技術職として勤務していました。
その後、会社は福祉用具の改造・製作業務を廃止し、本人の同意を得ることなく、総務課施設管理担当への配置転換を命じました。
これに対し、従業員は、会社との間には職種や業務内容を技術職に限定する合意(職種限定合意)があり、配置転換命令はその合意に反するとして、損害賠償を求めました。
差戻し前の大阪高裁は、職種限定合意が認められることを前提としながらも、会社が雇用を維持するために配置転換を行ったことなどを理由に、配置転換命令は違法ではないと判断しました。
(2)最高裁の判断
これに対し、最高裁は、次のように判示しました。
「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しない」
本判決では、職種限定合意が認められる事案であったため、会社には、本人の個別的同意なく、その合意に反する配置転換を命じる権限がないと判断されました。
配置転換の有効性については、会社に配置転換命令権があることを前提として、その命令が権利濫用に当たるかが問題となる場合があります。
しかし、本判決は、職種限定合意がある場合には、配置転換の業務上の必要性や目的の合理性を検討する以前に、そもそも会社がその配置転換を命じる権限を有しているかが問題となることを明確に示しました。
この点が、本判決の重要なポイントです。
(3)本判決から企業が理解すべきポイント
もっとも、本判決は、専門職として採用された従業員であれば、常に別部署や別職種へ配置転換できないと判断したものではありません。
本件は、職種限定合意が認められる事案について判断したものです。職種限定合意の有無は、雇用契約書や労働条件通知書の記載だけでなく、求人票や募集要項、採用時の説明、従業員が有する資格や技能、実際の勤務内容や勤務期間、会社と従業員双方の認識などを踏まえ、個別具体的に判断されます。
そのため、専門職の配置転換を検討する際には、「専門職だから異動できない」「契約書に職種限定と書かれていないから異動できる」と一律に判断することは適切ではありません。
まずは、職種限定合意が認められる事情があるかを丁寧に確認したうえで、会社に配置転換を命じる権限があるか、本人の同意が必要かを検討することが重要です。
差戻審判決―違法な配置転換と損害賠償
(1)配置転換命令を違法と判断
最高裁判決を受けて審理を行った大阪高裁(令和7年1月23日判決)は、会社による配置転換命令は違法であり、不法行為に当たると判断しました。
差戻審では、会社は職種限定合意の存在を認識することができたにもかかわらず、本人の個別的な同意を得ることなく配置転換を命じたことについて、過失が認められました。
また、会社が事前に技術職を廃止する方針について十分な説明をしていなかったことや、他職種への変更について本人の同意を得るための協議や働き掛けを行っていなかったことも重視されています。
(2)慰謝料80万円等を認定
差戻審は、会社に対し、慰謝料80万円および弁護士費用8万円の合計88万円の支払いを命じました。
もっとも、職種限定合意に反する配置転換が行われた場合であっても、常に損害賠償責任が生じるわけではありません。本件では、会社が職種限定合意を認識し得たにもかかわらず、十分な説明や協議を行わないまま配置転換を命じたことなどの事情を踏まえ、不法行為責任が認められました。
本判決は、職種限定合意の有無だけでなく、配置転換に至るまでの説明や協議の内容も、企業の法的責任を判断する重要な事情となることを示した事例として、企業実務上参考になります。
専門職を配置転換する前に企業が確認すべきポイント
ポイント ①職種限定合意が認められるか確認する
専門職の配置転換を検討する際は、まず職種限定合意が認められる可能性があるかを確認することが重要です。
確認に当たっては、雇用契約書や労働条件通知書だけでなく、求人票や募集要項、採用時の説明内容、従業員が有する資格や専門性、実際の勤務内容や勤務期間などを総合的に検討する必要があります。
ポイント ②異動後の業務が合意の範囲内か確認する
次に、配置転換後の業務が職種限定合意の範囲内といえるかを確認します。
判断に当たっては、部署名だけで判断するのではなく、実際の業務内容や求められる専門性、担当する職務が従前の業務とどの程度共通しているかなどを具体的に比較することが重要です。
ポイント ③範囲を超える場合は本人と協議する
配置転換によって職種限定合意の範囲を超える可能性がある場合には、一方的に配置転換命令を通知するのではなく、労働条件の変更として本人に十分な説明を行い、同意を得ることを検討すべきです。
その際には、配置転換が必要となった理由、新たな業務内容、今後の処遇などについて丁寧に説明し、本人の理解を得ながら協議を進めることが重要です。
ポイント ④説明・協議の経緯を記録する
配置転換に向けた説明や協議の内容は、できる限り記録として残しておくことが望ましいでしょう。
例えば、業務変更が必要となった理由、提案した業務内容、本人の意向、検討した代替案、処遇や研修に関する説明内容などを記録しておくことで、後日の紛争防止にも役立ちます。
専門職の配置転換では、配置転換の結果だけでなく、その判断や協議の過程も重要になります。事前に職種限定合意の有無や異動後の業務内容を十分に確認し、必要に応じて丁寧な説明や協議を行うことが、不要な労務トラブルを防ぐポイントといえるでしょう。
弁護士法人かける法律事務所のサポート
専門職の配置転換は、職種限定合意の有無によって判断が大きく変わります。対応を誤ると、配置転換命令が無効となるだけでなく、損害賠償責任を負う可能性もあるため、配置転換を実施する前に法的リスクを十分に検討することが重要です。
弁護士法人かける法律事務所では、専門職の配置転換に関し、次のような実務支援を行っています。
- 職種限定合意の有無に関するリーガルチェック
- 配置転換の可否や法的リスクの検討
- 本人への説明方法や協議の進め方に関するアドバイス
- 同意書や面談記録などの作成支援
- 業務廃止や組織変更に伴う配置転換への対応
- 雇用契約書、求人票、就業規則などの作成・見直し
専門職の配置転換を検討されている場合はもちろん、職種限定合意の有無や配置転換の進め方について判断に迷われた場合も、お気軽に弁護士法人かける法律事務所までご相談ください。
まとめ
最判令和6年4月26日は、職種限定合意が認められる場合には、会社は本人の個別的同意なく、その合意に反する配置転換を命じることはできないことを明確に示しました。
また、職種限定合意は、雇用契約書などに明記されている場合だけでなく、求人票や採用時の説明、従業員の資格や専門性、勤務実態などを踏まえ、書面がなくても認められる場合があります。
そのため、専門職の配置転換を検討する際には、辞令を出す前に、契約内容や採用経緯、勤務実態などから職種限定合意の有無を確認し、必要に応じて本人への十分な説明や協議を行うことが重要です。
専門職の配置転換は、辞令を出した後ではなく、検討段階で法的リスクを整理することが重要です。配置転換の可否や進め方について不安な点がある場合は、早い段階で弁護士へご相談ください。
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