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大阪の弁護士による企業労務相談 > 企業労務コラム > 「試用期間なら解雇できる」は本当?―中途採用者の解雇を無効とした裁判例(東京地判令和7年6月13日)に学ぶ実務対応―

「試用期間なら解雇できる」は本当?―中途採用者の解雇を無効とした裁判例(東京地判令和7年6月13日)に学ぶ実務対応―

よくある相談

  1. 中途採用者が、採用時に想定していたほどの能力や成果を発揮していません。試用期間中であれば、能力不足を理由に解雇することはできるのでしょうか。
  2. 試用期間は「見極め期間」なのだから、通常の解雇よりも会社の判断が広く認められると考えていましたが、本当に問題はないのでしょうか。
  3. 中途採用者は即戦力であることを前提に採用しています。新卒社員と同じような指導やフォローまで行う必要があるのでしょうか。

事案の概要ー東京地判令和7年6月13日(以下「本判決」といいます。)

本件は、中途採用された従業員(原告)を、会社(被告)が試用期間中に解雇したことの有効性が争われた事案です。

被告会社は、公益財団法人の設立・運営に関するコンサルティング業を営む株式会社であり、富裕層の顧客(エンド)を紹介するパートナー候補との関係構築を担う営業職として、原告を中途採用しました。

原告は、年俸1000万円という条件で正社員として採用され、3か月の試用期間が設定されていました。

試用期間中の解雇事由としては、「業務に適性を欠くと判断したとき」などが、雇用契約書・就業規則に定められていました。

しかし、入社から約3か月後、被告会社は、原告に対し、試用期間中であることを理由に解雇しました。これに対し、原告は、十分な指導や改善の機会が与えられていないまま解雇されたとして、解雇の無効を主張し、訴訟を提起しました。

被告(会社)が主張する解雇理由

被告会社は、本件解雇について、試用期間中に留保された解約権の行使として有効であると主張し、主に次の2点を理由に挙げました。

まず、原告が、採用時に期待されていた富裕層人脈や営業適性を欠いていた点です。被告会社は、原告を営業職として中途採用するにあたり、富裕層を紹介できる人物との人脈を有していることを前提としていましたが、原告が提出した人脈リストに記載された人物の多くは実際には知人ではなく、実質的な人脈を有していなかったことが判明したとして、採用時の前提が成り立たなかったと主張しました。

次に、一般の営業担当者としての職務遂行能力が不足していた点です。被告会社は、原告について、営業成果が上がっていないことや、営業手法・顧客対応に問題があったこと、不適切なメール送信があったことなどを理由に、営業担当者としての基本的な能力を欠いており、一定の指導を行っても改善が見られなかったため、今後の改善も期待できないとして、試用期間中の解雇は相当であると主張しました。

本判決の内容ー試用期間中の解雇が無効

1. 試用期間中における解雇の可否の枠組み

裁判所は、まず、試用期間中の解雇について、次のような判断枠組みを示しました。

「本件解雇は試用期間中に行われたものであり」、「本件解雇は、被告に留保された解約権の行使として行われた趣旨と解するのが相当である。そして、このような留保解約権の行使は、解約権の留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当である」

すなわち、試用期間中であっても、解雇が許されるのは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合に限られるとしました。

2. 富裕層人脈を欠いていたことを理由とする解雇の可否

裁判所は、「被告は、原告を含む中途採用する営業社員に対し、従前の職歴を生かす等して、富裕層との繋がりを有する人物に接触しての営業活動を期待していた」とし、会社側の期待自体は認めました。

もっとも、その一方で、「原告が、本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨の説明をしたと認めるには足りないし、被告にとっても、原告と本件名簿の掲載者との人的関係の存在及び内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない」と判示しています。

この点について裁判所は、採用過程において、原告が人脈の存在を明確に説明していたとはいえず、また、会社側もそれを労働契約上の前提条件として確認していなかった点を重視しました。

そのうえで、「そうすると、原告が富裕層との折衝経験を持っていなかった又は富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」(本件労働契約・2条2項2号)ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできない」と判断しました。

3. 一般の営業担当としての職務遂行能力不足を理由とする解雇の可否

裁判所は、「被告の営業社員の業務はパートナー候補と被告代表者との面談の設定であり、原告はパートナー候補との面談を継続的に行っており、1名のパートナー候補と被告代表者との面談も実施されている」としたうえで、「被告の事業内容や営業社員の職務内容」「に照らして、営業社員が短期間で成果を出すことは困難であることも考慮すれば、被告が当該パートナー候補を通じてエンドとの契約に至らなかったとしても、そのことをもって原告が「従業員として勤務させることが不適格」であったと認めることはできない」と判示しました。

また、不適切とされるメール送信についても、「単発の事情であり具体的な損害も認められないから、かかる事情をもって、直ちに原告が「従業員として勤務させることが不適格」と認めることはできない」とし、直ちに解雇理由とはならないと判断しています。

さらに、指導状況についても、「被告の指導は営業を行う相手方の属性を指摘するのみで、営業の手法等について具体的な指導を行っているものではないから、かかる指導がされたのみで、今後の指導によっても客観的に改善の見込みがないということはできない」と述べ、能力不足を理由とする解雇を否定しました。

4. 結論

「原告が相当額の賃金の支払を受ける中途採用者であることを考慮しても、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、社会通念上相当として是認できるともいえない。よって、本件解雇は無効である。」

本判決が試用期間中の解雇を無効と判断したポイント

ポイント①採用時に想定していた「能力・人脈」が、労働契約上の前提として明確ではなかった点

被告会社は、原告について「超富裕層を紹介できる人脈を有していること」を前提に採用したと主張しました。しかし、裁判所は、そのような人脈の存在が、労働契約締結の前提条件として明確に合意されていたとは認められないと判断しています。

具体的には、裁判所は、以下の点を重視しています。

  • 提出された名簿について、掲載者との人的関係の内容が採用過程で具体的に確認されていなかったこと
  • 原告が「掲載者と信頼関係がある」と明確に説明していたと認める証拠がないこと
  • 会社側も、掲載者との人的関係の有無や程度を、重要な採用条件として確認していなかったこと

その結果、原告に超富裕層を紹介できる人脈がなかったとしても、それ自体をもって、試用期間中の解雇理由とすることはできないと結論付けています。

本判決は、「企業が内心で期待していた能力や人脈」と、「労働契約上、備えていることが前提とされていた能力・資質」とを明確に区別し、後者が明確でない以上、それを欠いていることを理由とする解雇は許されないことを示しました。

ポイント②試用期間中であっても、営業成果が出ていないことのみで「不適格」とは評価できない点

被告会社は、原告について、一般の営業担当者としての職務遂行能力も不足していたと主張しました。しかし、裁判所は、短期間で営業成果が出ていないという結果のみをもって、不適格と評価することはできないと判断しています。

裁判所は、以下の事情を踏まえ、原告が実際にパートナー候補との面談を継続的に行っていたことや、被告代表者との面談につながった事例があったことを評価しました。

  • 被告会社の事業内容や営業社員の役割
  • 営業社員の業務が、パートナー候補との関係構築や面談設定を中心とするものであること
  • 営業活動の性質上、短期間で成果が現れにくいこと

その上で、エンドとの契約に至らなかったという結果のみを理由として、「従業員として勤務させることが不適格」とまではいえないと判断しています。

本判決は、試用期間中であっても、「成果が出ていない」という結果論だけでなく、どのような業務が行われ、その内容がどの程度であったのかを具体的に検討すべきであることを明確に示しています。

ポイント③指導は行われていたものの、「改善の見込みがない」といえるほど具体的ではなかった点

被告代表者は、原告に対し、営業先の選定が誤っているなどの指導を行っていたと主張しましたが、裁判所は、その指導内容が改善の可能性を否定できるほど具体的・十分なものとはいえないと判断しました。

裁判所は、指導が営業先の「属性」を指摘するにとどまり、営業手法やアプローチ方法についての具体的な指導がなされていなかった点を重視し、その程度の指導のみでは、今後の指導によっても改善の見込みがないとまではいえないとしています。

また、不適切とされるメール送信についても、単発の事情にとどまり、具体的な損害が認められない以上、直ちに「従業員として勤務させることが不適格」と評価することはできないとしました。

本判決は、試用期間中の解雇を正当化するには、具体的な指導を行ったうえで、それでも改善が見込めないことが客観的に示される必要があることを明確にしています。

試用期間の法的性質と試用期間中の解雇の基本的な考え方

1. 試用期間の法的性質と試用期間中の解雇

試用期間は、採用した労働者について、その資質・性格・能力等が、自社の業務内容や職場環境に適しているかどうかを、実際の就労を通じて見極めるための期間として設けられるものです。

法的には、試用期間中の労働契約は「解約権留保付雇用契約」と理解されています。すなわち、労働契約自体は有効に成立しているものの、企業側には、本採用を見送る(解雇する)権利が一定の範囲で留保されていると考えられています。

もっとも、試用期間中であっても、労働契約が成立している以上、試用期間中の解雇も法的には「解雇」の一種にほかなりません。そのため、労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用され、企業が自由に解雇できるわけではありません。

この点について、最高裁判例(最三小判昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)は、試用期間中の解雇について、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される」と判示しています。

このように、試用期間中の解雇は、通常の解雇に比べれば、一定程度広く認められる傾向にあるものの、無制限に許されるものではなく、企業の恣意的な判断は許されません。

特に、試用期間の満了を待たずに解雇する場合には、労働者の資質や能力等に著しい問題があり、今後の改善が見込めないことが明らかであるなど、より慎重な判断が求められます。

また、試用期間中であっても、解雇予告や解雇予告手当の支払いなど、労働基準法上の手続規制が適用される点にも注意が必要です。

2. 中途採用者における試用期間中の解雇

中途採用の場合、即戦力としての資質・能力・適格性が重視されるため、新卒採用に比べると、本採用拒否や試用期間中の解雇が認められやすい傾向があるといわれています。

もっとも、短期間(例えば2~3か月程度)の試用期間では、資質や能力を十分に見極めることが難しいと判断される場合も多く、安易な解雇は無効とされるリスクがあります。
また、会社が即戦力としての能力や適性を期待していたとしても、それが解雇を正当化するためには、単なる「期待」にとどまらず、雇用契約上の前提条件(必要な能力・役割)として明確に位置付けられていることが必要です。

面接の場で口頭で伝えていたにすぎない場合や、業務内容・期待水準が曖昧なまま採用されていた場合には、能力不足を理由とする解雇の合理性が否定される可能性が高くなります。

何が求められているのかが従業員本人に適切に伝えられていなければ、評価や解雇の合理性を基礎づけることはできません。

実際の裁判例でも、中途採用者について、著しい能力不足等を理由とした試用期間中の解雇が無効と判断され、会社側が敗訴するケースは少なくありません。本判決も、そうした裁判例の流れを明確に示すものといえます。

本判決から考える実務的な注意点・ポイント

注意点・ポイント①「中途採用=即戦力」という期待だけでは、解雇理由として足りない

本判決において、会社側は、原告が中途採用者であり、即戦力としての活躍を期待していたことを前提に、能力不足を理由として試用期間中の解雇を行いました。

しかし、裁判所は、中途採用であること自体をもって、十分な指導やフォローを省略できるとは考えていません。

裁判所が問題としたのは、「即戦力として期待していた」という会社側の内心の期待が、労働契約上の前提条件として明確に位置付けられていたかという点です。

どのような能力や経験を前提に採用したのか、どの水準の業務遂行を求めていたのかが明確でないまま、「期待に達していない」「即戦力ではなかった」と評価するだけでは、解雇の合理性を基礎づけることはできないと判断されました。

中途採用者であっても、求める役割や水準を具体的に示さないまま、結果のみを理由に解雇することは許されない点に注意が必要です。

注意点・ポイント②「不適格」という評価は、客観的かつ具体的でなければならない

本判決では、会社側が主張する「能力不足」や「不適格」という評価について、その根拠が客観的かつ具体的に示されているかどうかが厳しく検討されました。

裁判所は、「仕事ができない」「会社に合わない」といった抽象的な評価のみでは、解雇を正当化する理由にはならないとしています。

裁判所が求めたのは、どの業務において、どの点が、どの程度問題であったのかを、第三者にも説明できる形で示すことでした。

単に成果が出ていないという結果だけでなく、業務内容や評価に至る過程を具体的に検討する必要があると判断されています。

特に、本判決のように、業務内容に一定の専門性が求められる場合には、短期間で「将来的な改善が見込めない」と判断するための根拠について、より慎重かつ具体的な説明が求められるといえます。

本判決は、試用期間中の解雇であっても、「不適格」という評価は会社の主観では足りず、客観的事実と評価プロセスにより裏付けられていなければならないことを明確に示しています。

注意点・ポイント③解雇以外の選択肢も含め、納得感のあるプロセスを検討すること

本判決が示すとおり、試用期間中であっても、無条件に解雇できるわけではありません。
そのため実務上は、解雇のみを前提に対応を進めるのではなく、退職勧奨や合意退職といった選択肢も含めて検討することが重要になります。

繰り返しの指導や説明を通じて、本人に問題点を理解してもらい、納得のうえで退職に至るケースも少なくありません。

最終的な結論が解雇であったとしても、その前段階で、どのような説明や対応を積み重ねてきたかは、後の労働紛争において重要な判断要素となります。本判決を踏まえると、企業には、法的な正当性だけでなく、「なぜその結論に至ったのか」というプロセスの丁寧さ・納得感を意識した対応が強く求められているといえます。

まとめ|試用期間中の解雇も「判断前」の相談が重要です

本判決は、試用期間中であっても、会社の判断のみで容易に解雇できるわけではないことを、改めて明確に示しました。

中途採用者であり、高額な報酬を受ける立場であったとしても、採用時にどのような能力・資質を前提としていたのか、実際の業務内容や期間に照らして不適格といえるのか、指導や改善の機会が十分に与えられていたのかといった点が、裁判所により厳格に検討されています。

試用期間は「見極め期間」とはいえ、採用時の期待と労働契約上の前提が曖昧なまま、成果が出ていないという結果のみを理由に、具体的な指導や改善機会を十分に与えないまま解雇に踏み切った場合には、解雇権の濫用として無効と判断されるリスクが高いことを、本判決は示しています。

実務の現場では、

  • 「試用期間中だから解雇できると思っていたが、本当に問題ないのか」
  • 「中途採用者に、どこまで指導やフォローをすべきなのか」
  • 「能力不足を理由に解雇するには、何をどこまで準備すべきか」

といった点で、人事・管理職の方が判断に迷われるケースは少なくありません。試用期間中の解雇は、一つ一つの判断が、その後の紛争に直結しやすい分野です。対応を誤れば、労働審判や訴訟に発展し、結果として、時間的・金銭的・人的な負担が大きくなるおそれがあります。

当事務所の主なサポート内容

弁護士法人かける法律事務所では、試用期間中の解雇や中途採用後の労務トラブルについて、次のような実務支援を行っています。

  1. 試用期間・解雇事由に関する就業規則・雇用契約書の整備・見直し
  2. 試用期間中の指導・注意・面談の進め方および記録方法に関する助言
  3. コミュニケーショントラブルを理由とする解雇の可否に関する事前検討・リスク分析
  4. 解雇以外の選択肢(指導継続、配置の工夫、退職勧奨等)の検討支援
  5. 労働審判・訴訟・交渉における会社側代理人としての紛争対応

「試用期間中の対応に不安がある」
「解雇を検討しているが、法的に問題がないか確認したい」
「制度や運用自体を見直したいが、どこから着手すべきかわからない」

このような場合には、解雇に踏み切る前の段階でご相談いただくことが、結果的に企業リスクを最小限に抑えることにつながります。

弁護士法人かける法律事務所では、企業法務・労務問題に精通した弁護士が、事実関係の整理から方針決定、社内対応の設計、書面作成、労働審判・訴訟対応まで、実務に即したサポートを一貫して提供しています。

試用期間中の解雇や採用後の労務対応でお悩みの際は、弁護士法人かける法律事務所まで、どうぞお気軽にご相談ください。

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  • 労働トラブル対応(企業側)はこちらです。
代表弁護士 細井 大輔

私は、日本で最も歴史のある渉外法律事務所(東京)で企業法務(紛争・訴訟、人事・労務、インターネット問題、著作権・商標権、パテントプール、独占禁止法・下請法、M&A、コンプライアンス)を中心に、弁護士として多様な経験を積んできました。その後、地元・関西に戻り、関西の企業をサポートすることによって、活気が満ち溢れる社会を作っていきたいという思いから、2016年、かける法律事務所(大阪・北浜)を設立しました。弁護士として15年の経験を踏まえ、また、かける法律事務所も6年目を迎え、「できない理由」ではなく、「どうすれば、できるのか」という視点から、関西の企業・経営者の立場に立って、社会の変化に対応し、お客様に価値のあるリーガルサービスの提供を目指します。

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