私生活の盗撮行為でも懲戒解雇はできる?~勤務時間外・職場外の盗撮を理由に「有効」と判断された名古屋高裁判決(令和7年3月25日)~

よくある相談
- 私生活での盗撮行為を理由に、会社が懲戒解雇をすることは本当に許されるのでしょうか?
- 不起訴や処分が決まっていない段階でも、『懲戒解雇は有効』と判断されるケースはあるのでしょうか?
- どのような事情があれば、職場外の行為でも『私生活の範囲を超える』と評価されるのでしょうか?
事案の紹介ー名古屋高判令和7年3月25日(以下「本判決」といいます。)
① 事案の概要・ポイント
本件は、勤務時間外・職場外で盗撮行為を行った従業員に対する懲戒解雇の有効性が争われた事案です。
被告会社は、日本郵便株式会社であり、原告は、長年にわたり郵便事業に従事し、郵便局の課長職など管理的立場を歴任してきた従業員でした。
原告は、令和5年9月21日付けで、職場外での盗撮行為を理由として懲戒解雇され、退職金については一部(3割)のみが支給されました。
これに対し原告は、盗撮行為は勤務時間外・職場外の私生活上の行為であること、刑事事件については不起訴処分となり、報道もされていないことなどを理由に、懲戒解雇は重すぎて無効であるとして、地位確認及び解雇後の賃金・賞与の支払を求めて提訴しました。
第一審(名古屋地裁)は懲戒解雇を無効と判断しましたが、控訴審である名古屋高裁はこれを覆し、懲戒解雇は有効であると判断しました。
② 従業員(原告)の問題行為の概要・ポイント
原告は、令和5年7月12日、勤務時間外の通勤途上において、名古屋市営地下鉄の車内で、自己所有の小型カメラを録画状態にし、これをリュックサックの中に設置した上で口を開けたリュックサックを足元に置き、他の乗客(被害者)のスカート内を撮影しようとしました。
この行為により、原告は同日、愛知県迷惑行為防止条例違反で逮捕され、翌日に釈放されました。
その後、原告は会社に始末書を提出し、被害者との間で示談が成立し、被害届は取り下げられ、刑事手続については不起訴処分となりました。なお、本件について報道は一切されていませんでした。
しかし、会社は、次の点を踏まえ、原告を懲戒解雇としました。
- 本件行為が性的な盗撮行為という極めて悪質な内容であること
- 通勤途上とはいえ、会社職員による職場外の非行として社会的信用に重大な影響を及ぼすおそれがあること
- 就業規則及び懲戒規程において、業務外の非行であっても懲戒の対象となること
③ 第一審判決(名古屋地判令和6年8月8日)の概要ー懲戒解雇を無効
まず、第一審である名古屋地方裁判所は、原告による電車内での盗撮行為について、勤務時間外・職場外の私生活上の行為であっても、会社の企業秩序と直接の関連を有し、社会的評価を毀損するおそれがある以上、懲戒の対象となり得るとし、本件行為が愛知県迷惑行為防止条例に違反する違法行為であり、就業規則上の懲戒事由にも該当すると判断しました。
しかし、一方で、懲戒解雇という最も重い処分の相当性については、行為当時は条例違反にとどまり、被害者との示談成立により不起訴処分となっていること、事件が報道されておらず会社の社会的評価が実際に低下したとは認められないこと、原告が速やかに釈放され通常勤務に復帰可能な状態であったことなどを重視しました。さらに、懲戒規程上、有罪判決を受けた職務外非行とは異なる類型に位置付けられることや、原告に懲戒処分歴がないことも考慮すると、本件行為を理由として懲戒解雇を選択することは相当性を欠き、懲戒権の濫用として無効であると判断しました。
本判決の内容ー懲戒解雇を有効と判断
「本件行為は、被害者の性的な姿態の撮影を目的とするものであるところ、本件行為は、勤務時間外とはいえ、職場に向かう通勤途上の名古屋市営地下鉄の電車内において行われたものである上、自己の所有する小型カメラを録画状態にしてリュックサック内に設置し、口を開いたリュックサックを足元に置いて、被害者のスカート内を撮影しようとしたというもので、その態様からみて、繰り返し行われていたことがうかがわれるものであり、現に、一審原告は、令和4年の夏頃から同様の手口で盗撮をしていたと供述しているように」「本件行為発覚時に限られる一過的なものであったとは到底いえるものではなく、極めて卑劣な行為である。」
「このような性的な姿態に対する撮影行為は、従前条例等により処罰対象とされていたものであるが、近年被害が増加しており、撮影時以外の他の機会に不特定又は多数の者に見られるという重大な危険をはらんでいること等から、その被害の発生及び拡大を防止することを目的として、令和5年6月23日には、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が制定され、厳罰化が図られており、本件行為日の翌日である同年7月13日に施行されて」おり、「本件行為は、社会的に厳しい非難を免れ得ないものである。」
「本件行為は、行為時においては条例違反にとどまるものであり、その法定刑のみに着目すれば、他の法令違反行為と比較して重い法令違反行為であるとまではいえない。しかし、上記法律の施行は、本件行為日の正に翌日からであったのであり、それまでに、盗撮行為への社会的非難が高まっている状況にあったからこそ上記法律の制定に至っていたものといえる。このような社会状況に加え、一審被告の行う郵便事業という公共性、公益性の高さをも考慮に入れると、職員による職場外での破廉恥行為により一審被告に生ずる社会的非難の強さは決して軽視することのできるものではない。」
「一審被告においては、上記のような社会状況に鑑み、令和2年4月以降、業務外非行による信用失墜行為につき、研修等により繰り返し指導しているものの未だに根絶には至っていないとして、飲酒運転・人身事故及び物損事故並びに盗撮、児童買春等の破廉恥事案について、原則「懲戒解雇(退職手当一部不支給)」により措置する方針とし、これをミーティング等において社員に周知していた」
「一審被告においては、上記の方針に従い、本件行為と同種の盗撮行為をした職員に対しては、有罪判決の有無、報道の有無にかかわらず懲戒解雇処分を行っている」
「本件行為は、上記のとおり極めて卑劣な行為であり、社会的に厳しい非難を免れ得ないものであって、一審被告の定める懲戒標準にいう重大な非違行為に当たると解することは相当というべきであり、一審被告において、従前職員に周知していた上記の方針に従い、一審被告を懲戒解雇とした上で、退職金についてはその3割相当額を支給したものであることも踏まえれば、一審被告が一審原告を懲戒解雇としたことにつき裁量権の逸脱はなく、本件懲戒解雇は社会通念上相当なものということができる。」
本判決(名古屋高裁)が懲戒解雇を有効と判断したポイント
ポイント①盗撮行為の悪質性・反復性そのものを重く評価したこと
名古屋高裁は、本件盗撮行為について、単なる私生活上の一過性の不祥事とはいえず、小型カメラを用いて通勤途上の電車内で計画的に行われた点や、過去にも同様の手口による盗撮がうかがわれる点を踏まえ、その態様は極めて悪質で反復性のあるものであり、社会的に厳しい非難を免れ得ない行為であると評価しました。第一審が重視した不起訴処分や報道の有無といった結果論よりも、行為の内容・質そのものを重く見た点が、高裁の判断の特徴といえます。
ポイント②盗撮行為をめぐる社会的非難の高まりと、会社の公共性を重視したこと
本判決は、盗撮行為について、被害の拡大防止を目的とする新たな処罰法が本件行為直後に施行されていることを踏まえ、行為当時すでに社会的非難が強く高まっていたと指摘しました。さらに、被告会社が郵便事業という公共性・公益性の高い事業を営む企業であることから、職員による職場外の破廉恥行為が会社の社会的評価や信用に与える影響は決して軽視できないとし、現実に報道がなかったことのみをもって信用毀損が否定されるものではないと判断しました。
ポイント③会社の明確な処分方針と事前周知、一貫した運用を重視したこと
名古屋高裁は、被告会社が、業務外の重大な非行について原則として懲戒解雇とする明確な方針を定め、研修やミーティングを通じて事前に社員へ周知していた点を重視しました。また、実際にも、有罪判決や報道の有無を問わず、同種の盗撮事案について懲戒解雇としてきた運用実態があることから、本件処分は恣意的なものではなく、一貫した基準に基づく判断であると評価しました。その結果、本件行為は懲戒規程上の「重大な非違行為」に該当し、退職金の一部支給という配慮も含めれば、懲戒解雇は裁量権の逸脱・濫用には当たらず、社会通念上相当であるとして、その有効性が肯定されました。
私生活上の問題行為(盗撮)を理由とする懲戒解雇が有効と判断されるための要件
業務外、すなわち私生活上の問題行為を理由に懲戒解雇を行う場合、業務上の非違行為以上に、処分の有効性について慎重な判断が求められます。名古屋高裁令和7年3月25日判決は、勤務時間外・職場外で行われた盗撮行為であっても、一定の要件を満たす場合には懲戒解雇が有効となり得ることを明確に示しました。裁判実務上、特に重視されるポイントは、次の3点です。
① 就業規則上の根拠の有無
まず、私生活上の行為であっても懲戒の対象となり得ることが、就業規則や懲戒規程上、明記または想定されている必要があります。
単に法令違反があったというだけでは足りず、当該行為が「法令違反」「会社の信用を傷つける行為」「企業秩序を害する行為」などとして、就業規則上の懲戒事由に該当すると評価できるかが問われます。
本判決では、電車内での盗撮行為が、法令違反であると同時に、会社の信用を著しく損なう行為として、就業規則上の懲戒事由に該当すると判断されました。
② 懲戒解雇という処分の相当性
次に、当該行為が会社の業務、信用、職場秩序にどの程度の悪影響を及ぼしたか、または及ぼすおそれがあったかを踏まえ、懲戒解雇という最も重い処分が相当といえるかが判断されます。
この判断にあたっては、盗撮行為の態様や計画性、悪質性・反復性、社会的非難の強さ、会社の事業内容や公共性、従業員の地位・職責などが総合的に考慮されます。
本判決では、不起訴処分や報道の有無といった結果論よりも、行為そのものの質や社会的評価への影響の大きさが重視され、懲戒解雇も社会通念上相当であると判断されました。
これらを踏まえ、客観的合理性を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用として懲戒解雇は無効となります(労働契約法15条)。
③ 手続的相当性(適正手続)
懲戒解雇は、被処分者にとって再就職にも重大な影響を及ぼす極めて重い処分であるため、弁明の機会を与えるなど、処分に至るまでの手続が適正であることも重要な判断要素となります。
事実関係の確認や本人からの聴取を十分に行わないまま処分に踏み切った場合には、それだけで懲戒解雇が無効と判断されることもあります。
本判決においても、会社が事前に事情聴取を行い、処分に至る経緯が適切であった点が、懲戒解雇の有効性を支える事情の一つとされています。
労働契約法15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
本判決から考える懲戒解雇の実務的な注意点・ポイント
本判決は、勤務時間外・職場外で行われた盗撮行為であっても、その悪質性や会社との結び付き、処分に至る過程次第では、懲戒解雇が有効と判断され得ることを明確に示したものといえます。ただし、以下に指摘する注意点・ポイントについては、慎重に判断する必要があります。
① 問題行為を裏付ける客観的証拠を十分に確保する
私生活上の盗撮行為を理由に懲戒解雇を行う場合、会社側には、問題行為の存在や悪質性を具体的に立証する責任があります。刑事手続の経過、本人の供述内容、客観的な事実関係など、後に争われることを前提に、証拠を可能な限り整理・確保しておくことが重要です。
② 行為の悪質性・会社への影響を踏まえ、処分の重さを慎重に判断する
盗撮行為は社会的非難が極めて強い行為ですが、すべてのケースで直ちに懲戒解雇が許されるわけではありません。行為の態様や反復性、会社の社会的立場、従業員の地位などを踏まえ、他の懲戒処分では足りないのかを慎重に検討する必要があります。
③ 私生活上の行為と会社との結び付きを具体的に整理する
私生活上の行為を理由に懲戒解雇を行う場合には、当該行為が会社の信用・社会的評価・企業秩序とどのように結び付くのかを、具体的に説明できることが不可欠です。
本判決では、会社の公共性や社会的影響の大きさが重視され、「単なる私生活上の行為」にとどまらないと評価されました。なぜ会社として看過できないのかを整理しておくことが、処分の有効性を支える重要なポイントとなります。
まとめ|懲戒解雇・退職金対応は「判断前」の相談が重要です
本判決は、勤務時間外・職場外で行われた盗撮行為であっても、その悪質性や会社への影響、会社側の対応次第では、懲戒解雇が有効と判断され得ることを明確に示しました。
一方で、業務外の問題行為を理由とする懲戒解雇や退職金の不支給・減額は、判断を一つ誤るだけで、後に労働審判や訴訟に発展しやすい分野でもあります。
実務の現場では、
- 「この事案で、懲戒解雇まで踏み込んで本当に問題はないのか」
- 「退職金を不支給・減額とした場合、後から争われないか」
といった点で、不安や判断の難しさを感じる企業の方も少なくありません。
当事務所の主なサポート内容
弁護士法人かける法律事務所では、問題社員対応・懲戒処分に関し、次のような実務支援を行っています。
- 懲戒解雇や退職金の減額・不支給に対応できる就業規則・退職金規程の整備・見直し
- 法改正や最新裁判例を踏まえた規程改定および社内運用に関する実務的アドバイス
- 問題行為が懲戒解雇に相当するか(悪質性・相当性)の事前整理・検討
- 懲戒委員会や弁明機会付与など、懲戒手続の適正性チェックと進行支援
- 退職金の不支給・減額が法的に妥当かの判断およびリスク分析
- 労働審判・訴訟・交渉における会社側代理人としての紛争・訴訟対応
「どのような処分が妥当なのか判断に迷っている」
「制度自体を見直したいが、どこから着手すべきかわからない」
このような場合には、紛争が表面化する前の段階でご相談いただくことが、結果的に企業リスクを最小限に抑えることにつながります。
弁護士法人かける法律事務所では、企業法務に精通した弁護士が、事実関係の整理から方針決定、社内対応の設計、書面作成、労働審判・訴訟対応まで、実務に即したサポートを一貫して提供しています。
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