業務外の酒気帯び運転でも懲戒解雇はできる?~社用車を使った私生活上の飲酒運転を理由に「有効」と判断された大阪地裁判決(令和7年9月26日)~

よくある相談
- 勤務時間外・私生活での酒気帯び運転でも、会社として懲戒解雇はできるのでしょうか?
- 事故は起きていない酒気帯び運転でも、いきなり懲戒解雇とするのは重すぎる判断ではないでしょうか?
- これまで特に問題のなかった社員であっても、酒気帯び運転が一度あれば懲戒解雇は有効になるのでしょうか?
事案の紹介ー大阪地判令和7年9月26日(以下「本判決」といいます。)
① 事案の概要・ポイント
本件は、勤務時間外に社用車を使用して酒気帯び運転を行った従業員に対する懲戒解雇の有効性が争われた事案です。
被告会社は、工作機械の製造等を行う株式会社であり、原告は平成30年8月1日に期間の定めのない労働契約を締結し、営業業務等に従事していました。被告会社は就業規則において、業務命令違反や刑事上の罪に問われた場合などを懲戒解雇事由として定めていました。
また、被告会社は、社用車を通勤に利用する従業員に対し、道路交通法の遵守及び「通勤・業務以外の目的での使用を一切禁止する」旨の通達を事前に出していました。
そのような中、原告が業務終了後、社用車を使用して飲酒運転を行ったことを理由に、被告会社は懲戒委員会の決議を経て原告を懲戒解雇しました。
これに対し原告は、酒気帯び運転は私生活上の行為であり、懲戒解雇は重すぎて無効であるとして、解雇の有効性を争いました。
② 従業員(原告)の問題行為のポイント
原告は、令和5年12月26日、被告会社の業務終了後、一度社用車で帰宅した後、社用車を運転して友人宅を訪問しました。
原告は、同日夜から翌日未明にかけて、発泡酒やハイボールを複数本飲酒し、その後、酒気を帯びた状態で社用車を運転して帰宅しようとしました。
運転中、原告は低速での蛇行運転、急な加速・停止を繰り返すなど、明らかに異常で危険な運転を行い、約1.4キロメートル走行した後、住宅街の狭い道路に車両を停車させ、エンジンと前照灯をつけたまま居眠りしていました。
近隣住民の通報を受けて警察官が臨場し、職務質問を行いましたが、原告は呼気検査を長時間にわたり拒否し、警察官に対して怒鳴る、暴言を吐くなどの不適切な言動を繰り返しました。
その結果、原告は道路交通法違反(呼気検査拒否)で現行犯逮捕され、その後の強制採血により、高濃度のアルコールが検出されました。
さらに、原告は後日、酒気帯び運転について罰金50万円の略式命令を受けています。
本判決の内容ー懲戒解雇を有効と判断
① 懲戒解雇事由該当性
「被告は、本件通達を発し、社用車を通勤に利用する従業員らに対し、道路交通法等の関連法規を遵守すること、通勤及び会社業務以外の目的による使用を禁止することを命じ」ており、「本件酒気帯び運転は、通勤及び会社業務以外の目的で使用し、かつ道路交通法に違反する酒気帯び運転に及んだものであるから、被告の業務命令に反する」
「よって、本件酒気帯び運転は、本件就業規則59条(4)の懲戒解雇事由に該当する。」
② 合理性及び相当性
「本件酒気帯び運転は、長時間にわたり相当量の飲酒をした後に行われたものであり、原告の血中アルコール濃度が本件酒気帯び運転から約8時間経過した時点でも高濃度(呼気1リットルにつき0.75ミリグラムに相当)であったこと」、「運転中の異常な運転態様及び警察官から職務質問を受けた際の異常な対応」に照らせば、「運転中のアルコールによる影響は非常に強いものであったというべきであり、交通事故を起こす可能性の高い非常に危険なものであった」
「本件酒気帯び運転は、被告の業務終了後に行われたものであるものの、社用車を運転するものであり、その運転中に交通事故を起こした場合、被告に自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任等による民事上の損害賠償責任が発生し得るものであったといえるから、単なる私生活上の行為にとどまるものであったとはいえない」
「加えて、原告は、深夜の住宅街に、エンジンをかけ、前照灯を点灯した状態で本件車両を停車した上、臨場した警察官から呼気検査等を求められたにもかかわらず、これを拒否し、長時間、その場にとどまることとなり、さらに、警察官に対し、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりしたものであ」り、「近隣住民に与えた不安及び迷惑並びに警察官の職務を遅滞させたことは軽視できない」
「以上によれば、本件酒気帯び運転は、非常に危険で悪質なものであったというべきであり、また、単なる私生活上の行為にとどまらず、被告の社会的評価を毀損するおそれがあるものであった」。
「加えて、昨今の飲酒運転に対する社会的な非難の高さなどに照らせば、原告が本件解雇以外に懲戒処分を受けたことはうかがわれないことなどの原告のために有利な事情を考慮しても、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」
「よって、本件解雇は、懲戒権を濫用したものとは認められない」
本判決における3つのポイント
ポイント ①業務外の行為でも「社用車の使用」と業務命令違反があれば、懲戒解雇の対象となり得る
本判決では、酒気帯び運転が勤務時間外に行われた点は前提としつつも、原告が社用車を業務・通勤以外の目的で使用し、かつ道路交通法に違反したことを重視しました。
会社が事前に社用車の私的利用を一切禁止する業務命令を出していた以上、その違反は就業規則上の懲戒解雇事由に該当すると判断しています。「私生活だから懲戒できない」という単純な整理は通用しないことを示した点が参考になります。
ポイント ②懲戒解雇の相当性は「行為の悪質性」と「危険性の程度」で判断される
裁判所は、単に酒気帯び運転であったか否かではなく、
- 多量飲酒後であったこと
- 異常かつ危険な運転態様
- 呼気検査拒否や警察官への暴言といった事後対応
などを踏まえ、本件行為を「非常に危険で悪質」と評価しました。その結果、最も重い懲戒処分である懲戒解雇であっても、社会通念上相当であると判断しています。事故の有無だけで処分の重さは決まらない点が実務上の重要ポイントです。
ポイント ③業務外行為であっても、会社の信用・責任に直結する場合は「私生活の範囲」を超える
本判決は、社用車による酒気帯び運転について、仮に事故が発生していれば、会社が運行供用者責任を負う可能性があった点を明確に指摘しました。このように、行為が会社の法的責任や社会的評価に直接影響する場合には、単なる私生活上の行為にとどまらないと評価され得るとしています。「会社との結び付き」が強いかどうかが、業務外行為の処分可否を分ける決定的要素となります。
私生活上の問題行為を理由とする懲戒解雇が有効と判断されるための要件
業務外、すなわち私生活上の問題行為を理由に懲戒解雇を行う場合、業務上の問題行為以上に、慎重な判断が求められます。裁判実務上、特に重視されるのは、次の3点です。
① 就業規則上の根拠の有無
まず、私生活上の行為であっても懲戒の対象となり得ることが、就業規則上、明記または想定されている必要があります。
単に法令違反があったというだけでは足りず、当該行為が就業規則上の懲戒事由に該当すると評価できるかが問われます。
② 懲戒解雇という処分の相当性
次に、当該行為が会社の業務、信用、職場秩序にどの程度の悪影響を及ぼしたか、または及ぼすおそれがあったかを踏まえ、懲戒解雇という最も重い処分が相当といえるかが判断されます。
行為の性質・態様、悪質性、社会的非難の程度、会社の業種や社会的立場、従業員の職種・地位、過去の処分歴などを総合考慮した結果、客観的合理性を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用として懲戒解雇は無効となります(労働契約法15条)。
③ 手続的相当性(適正手続)
懲戒解雇は、被処分者にとって再就職にも大きな影響を及ぼす極めて重い処分です。そのため、弁明の機会を与えるなど、処分に至る手続が適正であることも重要な判断要素となります。手続的相当性を欠く場合、それだけで懲戒解雇が無効と判断されることもあります。
労働契約法15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
本判決から考える懲戒解雇の実務的な注意点・ポイント
① 懲戒事由を裏付ける客観的証拠を十分に確保する
業務外行為を理由に懲戒解雇を行う場合、会社側には、問題行為の存在や悪質性を具体的に立証する責任があります。
本判決では、刑事手続における処分内容、警察官の対応経緯、血中アルコール濃度の鑑定結果などの客観的証拠を踏まえ、酒気帯び運転及び一連の行為が認定されました。
後から事実関係を争われることを前提に、客観的資料を可能な限り確保しておくことが重要です。
② 行為の悪質性・影響を踏まえ、処分の重さを慎重に判断する
懲戒処分では、行為の有無だけでなく、行為の態様や悪質性、会社への影響を踏まえた処分選択が求められます。
本判決では、酒気帯び運転に加え、多量飲酒、危険で異常な運転態様、呼気検査拒否、警察官への暴言といった事情が重視され、懲戒解雇もやむを得ないと判断されました。
もっとも、懲戒解雇は最も重い処分であるため、業務外行為の場合には特に、他の懲戒処分では足りないのかを慎重に検討する必要があります。
③ 業務外行為と会社との結び付きを具体的に整理する
私生活上の行為を理由に懲戒解雇を行う場合には、当該行為が会社の業務・信用・企業秩序とどのように結び付くのかを具体的に説明できることが重要です。
本判決では、社用車を使用していた点から、事故が発生した場合に会社が運行供用者責任を負う可能性があること、社会的評価を著しく損なうおそれがあることなどが重視されました。
単なる「違法行為があった」という説明にとどまらず、なぜ会社として看過できないのかを整理しておくことが、処分の有効性を支えるポイントとなります。
まとめ|懲戒解雇・退職金対応は「判断前」の相談が重要です
本判決は、業務外の酒気帯び運転であっても、社用車の使用、行為の悪質性、会社への影響といった事情次第では、懲戒解雇が有効と判断され得ることを示しました。
もっとも、業務外の問題行為を理由とする懲戒解雇や退職金の不支給・減額は、判断を誤ると、後に労働審判や訴訟に発展しやすい分野でもあります。
実務の現場では、
- 「このケースで懲戒解雇まで踏み込んでよいのか」
- 「退職金を不支給にして問題はないのか」
といった点で、不安や迷いを感じる企業の方も少なくありません。
当事務所の主なサポート内容
弁護士法人かける法律事務所では、問題社員対応・懲戒処分に関し、次のような実務支援を行っています。
- 懲戒解雇や退職金の減額・不支給に対応できる就業規則・退職金規程の整備・見直し
- 法改正や最新裁判例を踏まえた規程改定および社内運用に関する実務的アドバイス
- 問題行為が懲戒解雇に相当するか(悪質性・相当性)の事前整理・検討
- 懲戒委員会や弁明機会付与など、懲戒手続の適正性チェックと進行支援
- 退職金の不支給・減額が法的に妥当かの判断およびリスク分析
- 労働審判・訴訟・交渉における会社側代理人としての紛争・訴訟対応
「どのように処分を進めるべきか不安がある」
「退職金制度を見直したいが、どこから手を付けるべきかわからない」
このような場合には、紛争になる前の段階でご相談いただくことが、結果的にリスクを最小限に抑えることにつながります。
弁護士法人かける法律事務所では、企業法務に精通した弁護士が、事実関係の整理から方針決定、書面作成、労働審判・訴訟対応まで、実務に即したサポートを一貫して提供しています。
懲戒解雇・退職金トラブル、問題社員対応でお悩みの際は、弁護士法人かける法律事務所まで、どうぞお気軽にご相談ください。
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