人事担当者必見!勤務成績不良の社員への対応と解雇の適法性について弁護士が解説します

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人事担当者必見!勤務成績不良の社員への対応と解雇の適法性について弁護士が解説します

よくある相談

①何度指導してもミスを繰り返す社員がいます。改善の兆しも見られず、そろそろ解雇を検討してもよいですか?

②ある社員の能力が低く、他の社員にしわ寄せが出ており、職場の士気が下がっています。会社としてはどう対処すべきでしょうか?

③試用期間中に明らかに能力が足りないことが判明しました。正社員登用せずに終了するのは問題ないですか?

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試用期間中であれば、能力不足を理由に解雇できますか?~試用期間中の解雇を無効とした大阪地判令和6年1月19日を弁護士が解説します~

勤務成績不良を理由とする解雇の有効性

日本の労働法では、長期雇用システムの下、従業員保護の観点から解雇権を制限しており、客観的に合理的な理由がない解雇や、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として無効となります。これを、解雇権濫用法理といいます。労働契約法16条では、解雇権濫用法理を明文化しています。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、企業が従業員を解雇するためには、①客観的に合理的な理由とともに、②社会通念上相当といえることが必要です。

企業が、従業員の勤務成績・態度が不良で、職務を行う能力や適格性を欠いていることを理由に解雇を行う場合、ア)企業と従業員との雇用契約上、その従業員に要求される職務の能力・勤務態度がどの程度のものか、イ)勤務成績や勤務態度の不良はどの程度か、ウ)指導による改善の余地があるか、エ)他の従業員との取扱いに不均衡はないか等の事情を総合的に考慮して、解雇の有効性が判断されます。

一般的には、長期雇用システムの下、職務経験や知識の乏しい従業員について、教育・指導による改善や向上が期待される限り、解雇の相当性は厳格に判断される傾向にあります。つまり、教育・指導を尽くしたが、それでも改善の余地がない場合に、はじめて解雇が有効と判断されます。

*その一方で、高度の技術能力が評価され、即戦力として高水準の給与で中途採用された従業員について、期待された能力を有していなかった場合、教育・指導が十分であったといえない場合でも、前者と比較すると解雇の相当性が肯定されやすい傾向にあります。

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勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇について、弁護士が解説します。-問題社員(モンスター社員)対応-

大阪地判令和4年1月28日~能力不足を理由に解雇を行ったが、能力改善の兆しがあることを理由に当該解雇を無効と判断した事例~

1 事案の概要

被告(会社)に営業担当職員として雇用されていた原告が、被告に対し、被告が行った解雇(本件解雇)は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案です。

2 判旨

「原告は、被告に営業担当職員として採用され、令和2年2月から被告における勤務を開始したものであるが、なかなか顧客からの受注を取り付けることができず、同年7月31日の本件解雇に至るまでの原告の受注件数は3件にとどまった。上記受注件数は、被告から示された同年6月に2件、同年7月に3件とのノルマを下回るものであった。」

「しかし、原告が取り扱っていた商品は、歯科医院で使用するレセプト作成補助用のソフトウェアであり」、「その性質上、顧客側のニーズは限定的で、被告の営業担当職員が顧客に対して営業をかけても、容易く契約を受注することができるものではなかった」

「加えて、同年4月10日から同年5月6日までの期間においては、新型コロナ感染症拡大の影響により、被告においても対面での商談が禁止されていたところであり」、「原告は、同時期において未だ試用期間中又は試用期間が終了して間がなく、被告における業務の経験も少なかったから、同時期及びその直後頃において原告が的確な営業活動を行うことは困難であった」し、「原告の上司であったCも、同時期頃における原告の業務内容について、特段苦言を呈するようなことはなかった」

「原告は、同年7月の1か月間に合計3件の契約を受注することに成功し、これを受けて、Cは、原告に対し、同月27日、「3本目の受注おめでとうございます。7月は今週までなので、遠慮なく、5本受注まで張り切っていきましょう。」と述べて原告を労うとともに、更なる奮起を促すなどしていた」

「原告は、業務に関するCとのコミュニケーションを密に行い、Cのアドバイスに素直に従って必要な業務に従事し、Cから当日の業務内容と翌日の業務予定を報告するよう求められればこれに速やかに応じ、Cから受注件数を増やすために検討している対応策を尋ねられればこれに的確に回答し、Cも原告の回答内容を肯定的に捉えていた」

以上によれば、「採用当初における原告の営業成績は振るわないものであったとはいえ、本件解雇がされた令和2年7月末頃には、原告の勤務成績又は業務能率には改善の兆しが見え始めていたのであって、原告の勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かったものと証拠上認めることはできない。Cとのコミュニケーションの取り方から見て取れる原告の勤務態度等にも鑑みれば、原告の勤務成績又は業務能率につき、向上の見込みがなかったとはいえないから、原告に就業規則所定の解雇事由は認められない。また、仮に解雇事由が認められる余地があったとしても、原告を解雇せざるを得ないほどの事情があるものと証拠上認めることはできない。

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よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効となる(労働契約法16条)。」

3 本判決のポイント

①本判決における原告の職種は、営業担当職員であり、原告の取り扱っている商品が、その性質上、容易に契約の受注に結び付くものではなかったことを理由に、原告が的確な営業活動を行うことは困難であったと認定しています。

②原告について、被告(会社)から課されたノルマを下回っていたものの、本件解雇がされた頃には、勤務成績や業務能率に改善の兆しが見え始めており、原告の勤務成績又は業務能率が著しく不良である状況が将来的にも継続する可能性が高かったとはいえないことを認定して、本件解雇が無効であるとの結論を導いています。

③本判決では、「原告は、業務に関するCとのコミュニケーションを密に行い、Cのアドバイスに素直に従って必要な業務に従事し、Cから当日の業務内容と翌日の業務予定を報告するよう求められれ「ばこれに速やかに応じ、Cから受注件数を増やすために検討している対応策を尋ねられればこれに的確に回答し、Cも原告の回答内容「を肯定的に捉えていた」という上司とのコミュニケーション方法に問題がないことも、本件解雇が無効であるという判断に結び付いています。解雇の有効性を判断する上では、教育・指導を受ける従業員の態度(反抗的な態度や暴言の有無)も重要なポイントです。

勤務成績不良を理由とする解雇の注意点

①勤務成績不良を基礎づける客観的な証拠・資料が必要であること

勤務成績不良を理由に従業員を解雇する際、会社や上司の単なる主観的評価や一回限りのミスを理由に解雇すると、当該解雇は無効と判断される可能性が高いです。

当該従業員の業務遂行能力や勤務成績が、同種の業務に従事する他の従業員と比較して著しく劣っていることがわかる客観的な証拠や資料が必要になります。会社としては、当該従業員の評価シートや報告書、顧客からのクレーム等の証拠や資料を収集しておく必要があります。

②突然の解雇がリスクが高いこと

勤務成績が不良であっても、突然の解雇は解雇回避努力が尽くされていないとして無効と判断されるリスクがあります。まずは当該従業員に対して、教育や指導が必要になりますし、場合によっては配置転換等により就業環境を変更し、改善の機会を与えることも検討することになります。

③改善の余地があるかどうか検討する必要があること

勤務成績が不良であっても、勤務成績や業務能率の改善が見られる場合には、解雇が難しくなります。特に職務経験や知識の乏しい新卒社員の場合、教育・指導による改善が見られる場合には、解雇が難しくなります。

一定期間の教育・指導を行っても、明らかに改善が見込めない場合には解雇を検討することになりますが、当該従業員の勤務態度も含めて、勤務成績や業務能率に改善が見られる場合には、慎重な判断が必要とされます。

▼解雇に関するチェックリストはこちらから▼

解雇の注意点や解雇トラブルを防ぐ方法を弁護士が解説!-問題社員(モンスター社員)対応のチェックリスト-

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問題社員への弁護士による対応-モンスター社員の解雇・雇止めについて-



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Last Updated on 2025年4月16日 by この記事の執筆者 代表弁護士 細井 大輔

この記事の監修者

弁護士法人かける法律事務所 
代表弁護士 細井大輔

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