就活ハラスメントとは?企業が取るべき防止策とリスク対策を弁護士が解説

よくある相談
- 結婚や出産の予定を面接で質問したところ、ハラスメントだと指摘されました。問題になりますか?
- 学生を親睦のつもりで食事に誘ったら、内定の見返りと誤解されてしまいました。どうすればよいですか?
- 面接で厳しめの質問をしたところ、“圧迫面接”とSNSで投稿されました。どのように対応すべきですか?
就活ハラスメントとは?
「就活ハラスメント」とは、採用する企業やその採用担当者等が優越的な立場を利用して就職活動中の学生に行うハラスメントのことをいいます。
厚生労働省の調査では、学生の4人に1人がハラスメントを経験しているとされ、その深刻さが社会的にも問題視されています。
就活ハラスメントには、性的な言動を伴うセクシュアルハラスメントのほか、威圧的な発言などのパワーハラスメント、採用に無関係なプライベートな質問など、さまざまな形があります。また、他社への就職活動を取りやめるよう強要する「オワハラ(就活終われハラスメント)」も含まれます。
これらはすべて学生の人格や尊厳を侵害する行為であり、パワハラやセクハラと同様に、企業の社会的信用にも大きな影響を及ぼします。就職活動は学生にとって将来を左右する大切な機会です。その過程での不適切な発言や対応は、学生に心理的な負担を与えるだけでなく、企業の信頼やブランド価値の低下にも直結します。
採用活動が多様化する今こそ、企業には「ハラスメントをしない・させない」体制づくりが求められています。
就活ハラスメントの具体例
具体例 1プライバシー侵害型(不適切な質問・発言)
採用選考に関係のない、個人の私生活や価値観に踏み込む質問・発言です。特に性別・家庭・信条などに関する質問は、採用差別とも評価されかねません。
- 「結婚の予定は?」「出産したら仕事を続けたい?」など家庭状況や将来設計を質問する。
- 「親の職業は?」「家は持ち家?」「宗教は?」など、就労能力と無関係な情報を尋ねる。
- SNSアカウントを特定し、プライベートな投稿内容を面接で話題にする。
具体例 2性的言動・セクシュアルハラスメント型
学生に対して性的な言動・関係の強要を行うケースです。「就職活動」という立場の弱さを悪用した行為として、重大な法的・社会的リスクを伴います。
- 面接官や採用担当者が学生に好意を示し、交際・性的関係を迫った。
- 外見や服装・体型などに関して容姿を評価する発言をした。
- インターンシップ中に食事・飲み会・デートに執拗に誘った。
具体例 3パワーハラスメント型(人格否定・威圧的言動)
面接やインターン中に、学生を威圧したり人格を否定するような発言を行うケースです。「本気度を見たかった」「ストレス耐性を確認したかった」という意図でも、人格攻撃と受け取られるおそれがあります。
- 面接中に大声で叱責したり、「やる気がない」「そんな人は社会に出られない」などと発言した。
- インターンシップ中に「無能」「価値がない」など人格を否定する暴言を吐いた。
- 面接の目的を超えて長時間にわたり詰問した。
- 内定を出す代わりに、他企業からの内定を辞退するように迫った。
具体例 4アルコール・私的関与型(接待・飲み会等の強要)
採用・インターンシップの場で、不必要な飲食・接待への参加を強要するケースです。
- 学生に対して、飲み会や懇親会への参加を強く求めた。
- 飲酒を断れない雰囲気をつくり、飲酒を強要した。
- 上司・採用担当者と学生が二人きりで食事・飲酒を伴う場を設けた。
就活ハラスメントの予防の必要性~企業のリスク~
就活ハラスメントは、学生という立場の弱さにつけ込み、不適切な発言や行為を行うものであり、企業にとって深刻なリスクを伴います。たとえ一部の社員による言動であっても、企業全体の信用やブランド価値を損なうおそれがあります。
具体的には、①損害賠償等の法的リスク、②企業イメージの失墜によるレピュテーションリスク、③採用力の低下という人材面でのリスクが生じる可能性があります。これらを防ぐためには、採用担当者の教育、ハラスメント防止方針の策定・周知、相談窓口の整備といった体制づくりが不可欠です。
リスク 1法的リスク(損害賠償・企業責任)
就活ハラスメント行為は、学生の人格権を侵害するものとして不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。また、行為者本人だけでなく、企業も使用者責任(民法715条)を問われることがあり、採用担当者への指導や監督体制が不十分であった場合には、企業の責任が重く評価される傾向にあります。さらに、内容によっては男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法の趣旨に照らし、行政指導や社会的非難の対象となる場合もあります。「面接中の発言だから問題ない」という認識は、企業防衛の観点から極めて危険です。
リスク 2レピュテーションリスク(企業イメージ・ブランドの毀損)
就活ハラスメントの情報は、SNSや口コミサイトを通じて容易に拡散します。 特に学生やその保護者による投稿がメディアで取り上げられた場合、「ハラスメント企業」という印象が定着し、企業ブランドに深刻な打撃を与えることになります。
企業の社会的評価が下がることで、株価の下落、取引先からの信用低下、採用イベントへの参加制限など、経営全体に影響が及ぶこともあります。信頼の回復には長い時間と大きなコストが必要となるため、予防の段階でリスクを遮断することが何より重要です。
リスク 3採用・人材確保への悪影響
就活ハラスメントに関する噂や体験談は、学生間で瞬時に共有されます。「面接で不快な思いをした」「あの企業は避けた方がいい」といった情報が広がれば、優秀な人材の応募が減少し、企業の採用競争力が著しく低下するおそれがあります。
特に人材獲得競争が激化する現在、学生から信頼される採用活動の構築は、企業の将来の成長やブランド価値を守るうえで欠かせない経営課題といえます。
就活ハラスメントに関する最近の法改正・国の動向
就活中の学生に対するハラスメントは、近年社会的関心が高まっており、厚生労働省もその防止を重要課題としています。従来は就業中の労働者に対する防止措置が中心でしたが、現在は「就活生も同様に保護すべき対象」として、国の取組や法整備が進んでいます。
厚生労働省は、各種ハラスメント防止指針(パワハラ:令和2年厚労省告示第5号、セクハラ:平成18年同第615号)において、就活中の学生に対しても従業員と同様の防止措置を講じることが望ましいとしています。これにより、採用活動やインターンシップの場も「雇用管理の一環」としてハラスメント防止の対象と位置づけられています。
また、厚生労働省雇用機会均等課では2022年以降、就活ハラスメント防止対策を強化しています。大学生への出前講座、被害学生のヒアリング、違反企業への行政指導、文部科学省との連携による啓発など、学生保護に向けた実効的な取組が進められています。
さらに、2025年6月には男女雇用機会均等法などの改正法が成立・公布され、企業に対し就活生へのセクシュアルハラスメント防止策の実施が義務化されました。施行は公布後1年6か月以内(遅くとも2026年中)とされており、今後は「努力義務」ではなく法的義務として、面接官教育や相談体制の整備が求められます。企業は採用活動全体を見直し、早期に体制整備を進めることが必要です。
企業が対応すべきこと(予防策・対応策)
就活ハラスメントの防止は、企業の信頼を守るうえで欠かせない社会的責務です。
2025年6月に成立した男女雇用機会均等法等の改正により、求職者や就職活動中の学生、インターンシップ生に対しても、セクシュアルハラスメント防止のための必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。
今後は、厚生労働省が定める指針において、事業主が講ずべき具体的な措置内容が示される予定です。企業が取るべき対応の柱は、次の3点に整理されます。
① 方針の明確化と社内外への周知・啓発
まず、企業としての防止方針を明確にし、採用活動に関わる全ての社員に共有することが重要です。面談・面接時の言動や質問内容など、あらかじめルールを定めておくことで、担当者の判断にばらつきが生じることを防げます。就活ハラスメント防止方針を策定し、社内会議や採用マニュアル、イントラネット等で繰り返し周知することが効果的です。
② 相談体制の整備と周知
学生が安心して声を上げられるよう、相談・通報窓口を明確に設けることが求められます。窓口は、社内だけでなく外部の専門機関を利用することも有効です。また、通報者のプライバシー保護や不利益取扱いの禁止を明確にし、相談先を採用ページや説明会資料に掲載しておくなど、学生への周知を徹底しましょう。
③ 発生時の迅速かつ適切な対応
仮に就活ハラスメントが発生した場合には、相談内容の確認、被害者への配慮、必要に応じた謝罪や再発防止策の実施など、早期かつ誠実な対応が不可欠です。対応を怠ったり、軽視したりすると、SNS等での拡散を通じて企業の信頼が大きく損なわれるおそれがあります。問題発生時こそ、誠実な対応姿勢が企業の信頼を守ります。
弁護士法人かける法律事務所によるサービス~就活ハラスメント防止体制の構築をサポートします~
弁護士法人かける法律事務所では、就活ハラスメントの防止と再発防止に向けて、企業の採用・人事体制を総合的にサポートしています。採用担当者・面接官の教育から、マニュアル整備、トラブル発生時の法的対応まで、企業の実情に応じた支援を提供しています。
① 採用・インターンシップ時のハラスメント防止研修
採用・インターンシップの現場では、無意識の発言や雑談のつもりの質問がトラブルに発展するケースが多く見られます。当事務所では、NG質問(家族・結婚・思想信条・性的指向など)の具体例を提示し、どのような質問が不適切となり得るのかをわかりやすく解説します。また、面接や懇談会での言動トレーニング(ロールプレイ形式)を通じて、現場での判断力・対応力を身につける研修を実施しています。
② 採用活動マニュアル・方針文書の整備支援
就活ハラスメント防止の取組みを社内で継続するためには、ルールと手順の明文化が欠かせません。当事務所では、「採用活動ガイドライン」や「就活生対応マニュアル」の策定を支援し、方針・行動指針・社内規程などへの反映をサポートします。
③ 社内調査・再発防止策の助言
就活ハラスメントが発生した場合の初動対応は、企業の信頼を守るうえで極めて重要です。当事務所では、事実関係の確認から被害者への対応、再発防止策の策定まで、中立的・実務的な観点からの助言を行います。必要に応じて、社内調査への立会いや報告書作成のサポートも可能です。
④ 労務トラブル発生時の弁護士対応
万一、就活ハラスメントを理由とする損害賠償請求やメディア報道が生じた場合には、 弁護士が迅速に対応し、法的リスクの最小化と企業イメージの保護を図ります労務・法務の両面からの支援体制により、企業が安心して採用活動を継続できる環境を整えます。
ハラスメント対応については、弁護士法人かける法律事務所にご相談ください。
「社内でどう対応すべきか分からない」「判断に迷っている」―そのような段階からのご相談も大歓迎です。問題社員対応、未払い賃金請求、懲戒処分やハラスメント対応、団体交渉・労働組合対応、さらには労働審判や裁判に至るまで、企業法務・労務問題に精通した弁護士が、幅広く実務に即したサポートをご提供します。
まずは一度、法律相談を通じて貴社の状況を丁寧に伺い、必要な対応とあわせて顧問契約による継続的なサポート体制をご説明いたします。単発対応ではなく、長期的な視点で労務リスクをコントロールすることが、企業の安定経営につながります。
私たちは「継続的な成長」「持続的な成長」を理念に掲げ、労務トラブルを未然に防ぎ、経営者や労務人事担当者の皆さまが安心して事業に集中できる環境を整えます。企業の持続的成長を支えるパートナーとして、弁護士法人かける法律事務所が伴走いたします。
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