中小企業の解雇対応と解雇権濫用法理~解雇トラブル回避の基本と注意点~

よくある相談
- 「勤務態度が悪く、同僚とのトラブルも多い社員を辞めさせたい」
- 「営業成績が伸びない社員に退職を求めたが、応じてくれない」
- 「問題行動を繰り返す社員に解雇を伝えたところ、不当解雇だと争う姿勢を示された」
こうした相談は、中小企業でも日常的に発生します。従業員数が増え、組織が多層化するほど、「現場を守るため早く動きたい」という思いと、法が求める手続にギャップが生まれやすくなります。
しかし、安易な解雇や法的要件を欠いた対応は、労働審判や労働裁判に直結します。紛争が長期化すれば、高額なバックペイ(未払賃金)や慰謝料請求が生じ、経営や職場環境に大きなダメージを与えかねません。
本コラムでは、企業として押さえておくべき「解雇の基本」「解雇権濫用法理」「有効・無効を分ける判断基準」を整理し、解雇トラブルを未然に防ぐための実務ポイントをお伝えします。
解雇とは?
解雇とは、会社が従業員との雇用契約を会社側の一方的な意思表示で終了させることです。本人の申出による退職(従業員の意思)や双方の合意で行う合意退職とは異なり、従業員にとって不意打ちになりやすく、最も紛争に発展しやすい処分です。
解雇の種類
- 普通解雇:能力不足、勤務成績不良、正当な業務命令違反など
- 懲戒解雇:横領・窃盗・重大なハラスメントなど、企業秩序に反する行為に対する懲戒処分
- 整理解雇:経営不振など、会社の経営上の理由による人員整理(いわゆるリストラ)
いずれの類型でも、客観的な事実に基づいて行うことが前提です。
解雇権濫用法理とは?
解雇規制に関して、労働契約法16条は次のように定めています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする。」
つまり、解雇が有効とされるには、①客観的に合理的な理由があることと②社会通念上相当であると認められることの両方が必要です。
① 客観的に合理的な理由があること
「どの事実を根拠に解雇するのか」が、会社のルールや一般的な基準に照らして客観的に合理的な理由といえることです。たとえば、
- 重大な職務違反(横領、無断欠勤の繰り返しなど)
- 明確な能力不足(期待される水準を大きく下回る状態が続き、改善の見込みが乏しい場合)
- 経営上の必要性(整理解雇の四要件に適合)
といった、客観的に確認できる事実が必要になります。印象や抽象的評価だけでは足りません。
② 社会通念上相当であると認められること
「解雇という手段を取るまでのやり方が妥当だったか」を見る視点です。特に、以下の3つが重要になります。
- 段階的な注意・指導を行ったか(いきなり解雇するのではなく、口頭・書面での注意や警告を重ね、改善の機会を設けていたかどうか。)
- 改善のチャンスを与えたか(研修、配置転換、注意・指導など、会社として従業員を支援し、改善に向けて取り組ませた実績があるかどうか。)
- 解雇以外の方法を検討したか(降格や職務変更など、より軽い処分や代替策があったのに、それを飛ばして解雇したのではないか。)
これらを総合して、「やむを得ず解雇に至った」と言えるかどうかが問われます。
解雇が無効とされた場合のリスク
企業が「解雇無効」と判断されたときの負担は、想像以上に大きくなります。リスクは金銭だけではありません。長期化による経営資源の消耗と、企業ブランドの毀損という二重の負担を招くことを忘れないでください。
① バックペイ(未払賃金)
解雇が無効とされると、解雇時から判決確定・和解までの賃金相当額の支払いが必要です。紛争が1〜2年続くことは珍しくなく、管理職・専門職では数百万円〜1000万円超に達することもあります。
② 職場復帰リスク
復職が認められると、現場の受け入れ体制の再構築、関係者への説明、職務の再設計など、日常業務に大きな負担がかかります。
③ 風評リスク
SNSや口コミで「不当解雇の会社」と受け取られると、採用活動や既存社員の士気に影響します。労基署や労働組合への通報を受け、外部対応も増加します。
解雇が有効/無効となる場合の具体例
【有効とされやすいケース】
- 繰り返しの重大な職務違反
理由:会社の財産や秩序に直結するため、処分の合理性が認められやすい(例:横領、連続する無断欠勤)。 - 正当な命令違反が続く場合
理由:業務運営に不可欠な指示を無視し続けた事情があり、注意・指導機会付与の経過があれば、やむを得ないと判断されやすい(例:正当理由なき転勤命令拒否の継続)。 - 能力不足で改善見込みがない場合
理由:期待水準の提示→指導→評価→配置転換の検討を経てもなお改善がないときは、合理性・相当性が満たされやすい。
【無効とされやすいケース】
- 抽象的な理由のみ
理由:「協調性がない」「雰囲気を悪くする」といった曖昧な説明では合理性を欠く。 - 段階的指導を経ず、いきなり解雇
理由:改善の機会を与えないままの解雇は、相当性を欠きやすい。 - 解雇以外の手段を検討していない場合
理由:配置転換や降格の余地があるのに解雇した場合は、過剰な対応とみなされやすい。
解雇を考えたときの3つのポイント
ポイント1段階的に注意・指導し、改善の機会を与える
問題の事実を本人に伝え、改善点と期限を明示する。研修やOJT、配置転換など、改善を後押しする取り組みを行う。
ポイント2証拠を残し、理由を説明する
勤怠記録、業務ログ、面談メモ、注意文書などを記録として残す。書面交付や同席者を置いて、やりとりの事実を客観的に示す。本人に理由を丁寧に説明し、意見を述べる機会を与える。
ポイント3解雇以外の選択肢を検討する
配置転換、職務変更、降格、勤務条件の見直しなどを先に検討する。合意退職の提案など、円満に解決できる方法も模索する。「できることは試したうえで解雇に至った」という経過を示すことが重要。
まとめ~解雇トラブルを回避するために~
- 解雇は最終手段であり、常に「客観的な理由」と「適正な手続」の両方が必要です。
- 解雇における無効リスクは金銭だけではなく、長期化による経営資源の消耗や風評被害を伴います。
- 段階的指導、証拠の確保、代替策の検討を徹底することで、解雇の正当性を裏付け、トラブルを防ぐことができます。
弁護士法人かける法律事務所による「解雇・雇止め対応」や「問題社員対応」サポート
当事務所は、企業の実情に合わせ、次の支援をご提供します。
① 退職勧奨・解雇に関するアドバイス
リスクの見極め、交渉の進め方、社内での対応手順を具体化します。
② 書類作成サポート
解雇通知書、指導文書、最終通告書、合意退職書、懲戒関係書類などを法的に適切な形で整備します。
③トラブル発生時の代理交渉
従業員本人・代理人・労働組合・労基署への対応窓口を一本化し、企業の負担を軽減します。
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解雇無効訴訟や残業代請求などに対応し、早期終結・金銭解決の見通しも含めてご提案します。
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