セクハラを理由に従業員を解雇できますか?~セクハラ行為を理由に普通解雇を無効と判断した大阪地判令和6年8月23日を弁護士が解説します~
よくある相談
①従業員がセクハラを行ったため、処分を考えていますが、解雇できますか?
②ハラスメントが発覚しましたが、その対応法がわかりません。
③セクハラ被害者から、加害従業員に対する解雇を求められています。
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ハラスメントの種類・具体例・注意点について、企業側の注意点を交えて弁護士が解説します
事案の概要ー大阪地判令和6年8月23日(以下「本判決」という。)
被告(会社)が原告(従業員)に対して、女性従業員に対するセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)が普通解雇事由に該当するとして解雇する旨を通知したところ、原告から当該解雇が無効であると主張された事案である。
本判決におけるセクハラの内容
①原告は、入社後2週間程度の部下の女性従業員Dに対し、背後から同人の両肩付近に自身の両手を置き、右手の上に額を乗せた状態を3~5秒程度継続するという身体的接触を伴う行為を行った。
②原告は、女性従業員Dに対し、合気道の実演の相手をさせ、同人の手を取ったり、同人の肩に手を触れたりした。
本判決の判旨ー解雇無効
「原告は、入社後2週間程度の部下の女性従業員であるDに対し、背後から同人の両肩付近に自身の両手を置き、右手の上に額を乗せた状態を3秒~5秒程度継続するという身体的接触を伴う行為をしたものであるところ、同行為は、就業規則25条が禁止する性的な言動により他の社員に苦痛を与え、就業環境を害する行為」であり、また、「原告は、Dに対し、合気道の実演の相手をさせ、同人の手を取ったり、同人の肩に手を触れたりしたものであるところ、同行為も、正当な理由なく女性従業員に身体的接触を伴う行為の相手をさせるものであり、就業規則25条が禁止する性的な言動により他の社員に苦痛を与え、就業環境を害する行為」に該当する。
「原告の上記各行為は、その内容及び原告が被告のセクハラ相談窓口の担当者であったこと」に照らせば、「職場環境を害する明らかに不適切な行為であったというべきである。」
他方で、「原告は、令和5年1月31日の事情聴取の際、Dに対する身体的接触があったことを認め、反省の態度を示していること」、「過去に被告から懲戒処分を受けたり、女性に対する身体接触について指導を受けたりしたことはうかがわれないこと」から、原告のDに対する上記各行為は、「決して軽視できるものではないものの、重大なものであるとまではいえないことなどの事情を総合すると、本件解雇について、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たるとまでは認められない。よって、本件解雇は無効である。」
本判決のポイント
本判決は、原告(従業員)の行為について、就業規則に違反する不適切な行為(セクハラ)であることを認めたものの、原告が反省の態度を示していることや過去に懲戒処分を受けたことがないこと等を理由に、解雇が客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たるとまでは認められないとして無効と判断しました。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは?
職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
①「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること」を対価型セクシュアルハラスメントといい、②「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること」を環境型セクシュアルハラスメントといいます。
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セクハラ(性的な言動)の具体例
・性的な事実関係を尋ねること
・性的な内容の情報(うわさ)を流すこと
・性的な冗談やからかい
・食事やデートへの執拗な誘い
・必要なく身体に触れること
すべての企業は、職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)を防止するために対策を行う義務がありますし、セクハラが発生した場合、迅速かつ適切な対応を行う必要があります。
セクハラ対策の主な内容
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③セクハラ発生時の事後の迅速で、かつ、適切な対応
本判決から考える実務的な注意点やポイント
①セクハラは決して許される行為ではないが、直ちに解雇が有効となるわけではないこと
日本の労働法では、解雇権濫用法理があり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではない場合、解雇権の行使が濫用したものとして無効となります。つまり、企業が労働者を解雇するためには、客観的な合理的な理由や社会通念上の相当性が求められ、不当解雇について、厳格な規制があります。
そのため、セクハラ行為が決して許されるべき行為ではないことは間違いありませんが、セクハラを理由とする解雇が直ちに有効となるわけではありません。解雇権濫用法理に従い、セクハラを理由とする解雇について、客観的に合理的な理由があるか、また、社会通念上相当いえるかどうか十分に検討する必要があります。
②総合的な事情を考慮して、セクハラ行為に対する懲戒処分を判断する必要があること
セクハラ行為に対して懲戒処分を行う際には、事実関係を確認し、行為態様の悪質性とともに、セクハラ行為者(加害者)の反省の態度や過去の懲戒歴・処分歴も総合的に考慮し、懲戒処分の内容を決定する必要があります。
もちろん、被害者が加害者に対して重い処分を望むこともありますが、懲戒処分の種類(戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇)について、適切に判断する必要があります。
特に、懲戒解雇を行う場合、当該解雇が無効と判断されるリスクも想定しておく必要があります。
③セクハラ行為者(加害者)に対する処分のみならず、再発防止策も十分に検討する必要があること
セクハラ行為を防止するためには、セクハラ行為者(加害者)に対する処分も検討する必要がありますが、行為者に対する処分だけでは、問題が解決しないことがあります。
つまり、セクハラを含むハラスメントでは、行為者だけの問題ではなく、組織の文化・風土に起因して発生することもあります。また、従業員の中には、ハラスメントが問題であるということを十分に認識できていない方もいます。
そのため、ハラスメント対策としては、問題行動が起きたときに、行為者を処分するだけでなく、事前に予防するための対策、特に、ハラスメント予防研修やコンプライアンス研修が重要です。
セクハラやハラスメント行為が一度起きてしまうと、就業環境が悪化したり、優秀な人材が退職・休職してしまったり、企業が被る弊害やリスクが甚大であるため、ハラスメント予防策を重要な経営課題として、早期に、また、計画的に取り組むことが重要です。
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