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大阪の弁護士による企業労務相談 > 企業労務コラム > 試用期間中の解雇はどこまで許される?コミュニケーション不全を理由に試用期間中の解雇を有効とした裁判例(大阪地判令和7年6月5日)

試用期間中の解雇はどこまで許される?コミュニケーション不全を理由に試用期間中の解雇を有効とした裁判例(大阪地判令和7年6月5日)

よくある相談

  1. 試用期間中であれば、コミュニケーションの問題を理由に解雇しても問題ないのでしょうか?
  2. 「相性が悪い」「職場に合わない」と感じる社員について、試用期間中の解雇に先立ち、どこまで指導や改善の機会を与える必要がありますか?
  3. 本人が「指示があいまい」「説明が不十分」と主張している場合でも、会社の評価を理由に、試用期間中に解雇することはできますか?

事案の紹介ー大阪地判令和7年6月5日(以下「本判決」といいます。)

本件は、試用期間中の社員について、職場内外でのコミュニケーショントラブルを理由として解雇したことの適否が争われた事案です。

被告会社は、医療機関向けの建築工事や医療機器の販売等を行う中小企業で、従業員数は約25名でした。原告は、中途採用として営業業務等を担う前提で採用され、3か月の試用期間付きの雇用契約を締結して入社しました。

雇用契約書には、試用期間中に執務態度や能力、適性等に問題がある場合には解雇できる旨の定めがありました。

原告は入社後まもなく、上司や同僚との間で、業務の進め方や指示の受け止め方を巡るトラブルが生じました。被告会社は、面談等を通じて状況の改善を求めましたが、改善が見られなかったことから、「協調性がなく、注意・指導をしても改善の見込みがないため、従業員として不適格である」として、解雇予告手当を支払ったうえで、試用期間中に解雇するに至りました。

解雇事由として認められる原告の言動等の概要・ポイント(裁判所が認定した事実)

本件では、原告が入社後わずか数週間の間に、複数の場面で業務上の関係者との間にトラブルを生じさせていたことが、解雇事由として認められました。

まず、入社直後の業務に関連する会食の場において、下請け業者を含む関係者が同席する中、自身の学歴や経歴を繰り返し持ち出し、学歴や経歴による優劣に言及する発言を行っていました。

また、業務上の要請として自動車の運転を求められた際には、過去に苦手であると伝えていたことを理由に強く反発し、相手の態度を非難するとともに、パワーハラスメントに該当するという趣旨の発言を行っていました。

さらに、同じ夕食の場において、当該上司が席を外した後、周囲の同僚に対し、その上司の能力や人柄を否定する趣旨の発言を行っていました。加えて、当日の出来事の後には、会社の風土が自身に合わないことや、当該会社で働いたことは自身の経歴上の汚点になるといった趣旨の発言も行っていました。

その後、上司からこれらの出来事について説明や指摘を受け、なぜ周囲が問題視しているのかを考えるよう促された場面においても、原告は、自身の言動を振り返るのではなく、周囲や会社側の考え方を否定する趣旨の発言を行っていました。

本判決の内容ー試用期間中の解雇を有効

裁判所は、上記各事実について、「上司や同僚らとコミュニケーションを取り、協働していく際に必要となる協調性が不足しているという原告の問題性を端的に現すエピソードであって、上記の問題性については、被告入社前に限られた時間で行われた2度の採用面接でうかがい知ることは困難であった」と指摘しました。

また、これらの事実は、「複数の先輩社員や上司とのあつれきやいさかいであり」、かつ、会食や夕食の場に「同席していた取引先(下請け業者ら)をも困惑させるものであったと認められ」、「原告の雇用を維持した場合、同僚や取引先らとの間で更なるトラブルが起き、業務上の支障が生じた可能性は相当程度高かった」と評価されています。

さらに裁判所は、原告が、新卒や未経験者ではなく、営業職として一定の社会人経験を有する者であることを前提に、「取引先等との円滑なコミュニケーションが求められる営業業務を担当する前提で中途採用されたにもかかわらず、被告に入社してからわずか3週間余りで立て続けに周囲とトラブルを起こしていること、被告は、全社員25名のいわゆる中小企業であって」、「人間関係は限定的であり、原告をeやh、d取締役と切り離して処遇することは実際には不可能であったと認められることなどからすれば、本件解雇は、留保解約権の行使として客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当であり、有効というべきである。」と判断しました。

本判決が試用期間中の解雇を「有効」と判断したポイント

ポイント①問題行動が「単なる相性」ではなく、業務遂行に直結する協調性の欠如として具体化していた点

本判決では、原告の問題点を「コミュニケーションが苦手」「職場に合わない」といった抽象的な評価にとどめず、入社後に実際に生じた具体的な言動を通じて、業務上の支障が生じていたかどうかを検討しています。

特に、業務に関連する会食の場で、取引先を含む関係者が同席する中、学歴や経歴による優劣に言及する発言を繰り返していたことや、上司・同僚からの業務上の要請に対し、強い言葉で反発するなどの言動を行っていた点が重視されました。

裁判所は、これらの言動が社内の人間関係にとどまらず、取引先をも困惑させ、円滑な業務遂行を妨げるものであったとして、「性格や相性の問題」ではなく、協働に不可欠な協調性を欠くという業務適性上の問題として位置付けています。

ポイント採用時には把握が困難であり、試用期間中に初めて顕在化した問題であった点

裁判所は、原告の問題性について、被告会社が入社前に行った限られた回数の採用面接の場面では把握することが困難であったと明確に指摘しています。

一方で、入社後わずか3週間余りの短期間のうちに、複数の上司や同僚との間で立て続けにトラブルが生じていたことを重視しました。

この点は、試用期間の趣旨が「本採用に向けた適性の見極め」にあることを踏まえれば、試用期間中に初めて顕在化した業務適性上の問題として、留保解約権を行使する合理性を基礎づける事情であると整理されています。

ポイント会社規模・業務内容等からみて、配置転換等による問題回避が現実的でなかった点

本判決は、被告会社が従業員25名程度の中小企業であり、社内の人間関係や業務上の関係性が限定的である点にも言及しています。

そのうえで、原告を特定の上司や同僚、取引先から切り離して配置することは現実的に困難であり、雇用を維持した場合には、同僚や取引先との間で更なるトラブルが生じ、業務に支障が生じる可能性が高かったと判断しました。

また、原告が取引先との円滑なコミュニケーションが強く求められる営業業務を担当する前提で採用されていた点も踏まえ、配置転換等によって問題を回避することは困難であったとして、解雇の社会通念上の相当性を補強しています。

試用期間の法的性質と試用期間中の解雇の基本的な考え方

1. 試用期間の法的性質と試用期間中の解雇

試用期間は、労働者の資質・性格・能力等が自社の業務や職場環境に適しているかを、企業が実際の就労を通じて観察・評価するために設けられる期間です。

法的には、試用期間中の労働契約は「解約権留保付雇用契約」と理解されており、企業側には、本採用を見送る(解雇する)権利が一定範囲で留保されていると考えられています。

もっとも、試用期間中であっても労働契約は有効に成立しており、試用期間中の解雇も法的には「解雇」の一種です。そのため、労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用され、企業が自由に解雇できるわけではありません。

最高裁判例(最三小判昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)は、試用期間中の解雇について、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される」と判示しています。

このように、試用期間中の解雇は、通常の解雇よりも比較的広い範囲で認められる傾向にあるものの、無制限に許されるものではなく、企業の恣意的な判断は許されません。

特に、試用期間の満了を待たずに解雇する場合には、労働者の資質・能力等に著しい問題があり、改善の見込みが乏しいことが明らかであるなど、より慎重な判断が求められます。 

また、試用期間中であっても、解雇予告や解雇予告手当の支払いなど、労働基準法上の手続規制が適用される点にも注意が必要です。

2. 試用期間中における解雇(コミュニケーショントラブル)の可否

試用期間中の解雇について会社側に一定程度広い判断の余地が認められるのは、採用時には把握しきれなかった能力や適性を、実際の業務を通じて確認する期間であるという試用期間の性質を踏まえたものです。

コミュニケーショントラブルを理由とする解雇についても、この考え方は同様であり、指示の理解不足や報告・連絡・相談の欠如が繰り返され、業務に具体的な支障が生じている場合には、コミュニケーション能力の不足を理由として、試用期間中の解雇が認められる余地があります。

もっとも、「コミュニケーションがうまくいかない」「職場に合わない」といった抽象的な評価だけでは足りません。裁判所は、単なる性格や相性の問題ではなく、業務にどのような支障が生じていたのか、会社が業務内容や求められる役割を明確にし、注意や面談等を通じて改善の機会を与えていたか、それでも改善が見られなかったかといった点を重視します。

十分な説明や指導を行わないまま、短期間で「コミュニケーション能力がない」と判断して解雇することは、試用期間中であってもリスクが高い点に留意が必要です。

本判決から考える実務的な注意点やポイント

注意点・ポイント①「コミュニケーション能力不足」を理由とする解雇では、業務上の支障を具体化することが不可欠であること

本判決では、「話が合わない」「意思疎通が難しい」といった抽象的な評価にとどまらず、指示の理解不足や報告・連絡・相談の欠如により、業務の進行や職場における協働関係に具体的な支障が生じていた点が重視されました。

コミュニケーションの問題は主観的に評価されやすい分野ですが、解雇の可否が問題となる場面では、「なぜ業務上問題となるのか」「どの業務に、どのような影響が生じていたのか」を客観的に整理しておくことが重要です。

単に「相性が悪い」「職場に合わない」といった説明にとどまらず、業務遂行に必要な能力・適性の問題として第三者にも説明できるかどうかが、解雇の成否を大きく左右します。

注意点・ポイント②試用期間中であっても、指導・改善の機会を与えたかが重要な判断要素となること

本判決では、会社が面談や日常のやり取りを通じて、原告に対し改善を促していた点が、解雇を有効と判断する一つの根拠とされました。

試用期間は「見極めの期間」ではありますが、「放置してよい期間」ではありません。業務内容や求められる役割を明確に伝え、注意や助言、面談などを通じて改善の機会を与えていたかどうかが、裁判実務では重視されます。

十分な説明や指導を行わないまま短期間で結論を出すことは、たとえ試用期間中であっても、解雇無効と判断されるリスクを高める点に注意が必要です。

注意点・ポイント③解雇以外の選択肢も含め、納得感のあるプロセスを検討すること

試用期間中であっても、無条件に解雇できるわけではありません。そのため、実務上は、解雇のみを前提とするのではなく、退職勧奨や合意退職といった選択肢を含めて検討することも重要です。

繰り返しの指導や説明を通じて本人に問題点を理解してもらい、納得のうえで退職に至るケースも少なくありません。

最終的な結論が解雇であったとしても、その前段階でどのような対応を積み重ねてきたかは、後の紛争リスクを大きく左右します。法的な正当性だけでなく、「プロセスの丁寧さ」を意識した対応が求められます。

まとめ|「コミュニケーションの問題」は最も判断を誤りやすい解雇理由です

本判決は、試用期間中であっても、コミュニケーショントラブルを理由とする解雇が当然に認められるわけではない一方で、業務遂行に支障を来す程度の協調性の欠如が、具体的な事実として認められる場合には、解雇が有効となり得ることを示した裁判例といえます。

コミュニケーションの問題は、能力不足以上に評価が主観的になりやすく、「相性が悪い」「職場に合わない」といった説明にとどまりがちです。しかし本判決では、原告の言動が、上司や同僚との協働を困難にし、さらには取引先をも困惑させるものであったこと、そうした問題が採用面接の段階では把握困難であり、試用期間中に初めて顕在化したことなどが、具体的かつ丁寧に認定されています。

また、被告会社が中小企業であり、人間関係や業務上の関係性が限定的であったことから、配置転換等によって問題を回避することが現実的でなかった点も、解雇の相当性を基礎づける重要な事情として考慮されました。

このように本判決は、「問題行動の具体性」「試用期間中に顕在化した業務適性の欠如」「企業規模や職務内容との関係性」を総合的に考慮して判断が行われている点に特徴があります。

実務の現場では、

  • 「コミュニケーションがうまくいかない社員を、どこまで我慢すべきか」
  • 「注意や指導を続けているが、改善が見られない場合に解雇できるのか」
  • 「主観的・感情的な判断と受け取られずに説明するには、何が必要なのか」

 といった点で、人事・管理職の方が判断に迷われるケースは少なくありません。

コミュニケーショントラブルを理由とする解雇は、対応を誤ると、「単なる相性の問題」「感情的な判断」と評価され、解雇無効とされるリスクが高い分野です。だからこそ、問題行動の整理や記録、指導内容とその経過、解雇以外の選択肢の検討などを含め、解雇に踏み切る前段階での法的整理が極めて重要となります。

当事務所の主なサポート内容

弁護士法人かける法律事務所では、試用期間中の解雇やコミュニケーショントラブルを含む採用後の労務問題について、次のような実務支援を行っています。

  1. 試用期間・解雇事由に関する就業規則・雇用契約書の整備・見直し
  2. 試用期間中の指導・注意・面談の進め方および記録方法に関する助言
  3. コミュニケーショントラブルを理由とする解雇の可否に関する事前検討・リスク分析
  4. 解雇以外の選択肢(指導継続、配置の工夫、退職勧奨等)の検討支援
  5. 労働審判・訴訟・交渉における会社側代理人としての紛争対応

「コミュニケーションの問題で解雇を検討しているが、法的に問題ないか不安がある」
「感情的な判断と受け取られない対応を取りたい」
「将来の紛争リスクを踏まえて、対応を整理しておきたい」

このような場合には、解雇を決断する前の段階でご相談いただくことが、結果として企業リスクを最小限に抑えることにつながります。

弁護士法人かける法律事務所では、企業法務・労務問題に精通した弁護士が、事実関係の整理から方針決定、社内対応の設計、書面作成、労働審判・訴訟対応まで、実務に即したサポートを一貫して提供しています。

試用期間中の解雇や、採用後のコミュニケーショントラブル対応でお悩みの際は、弁護士法人かける法律事務所まで、どうぞお気軽にご相談ください。

  • 顧問契約サービスの詳細は、こちらです。
  • 労働トラブル対応(企業側)はこちらです。

弁護士 林 遥平

「裁判」や「訴訟」と聞くと、あまり身近なものではないと感じられるかもしれませんが、案外、私たちの身近には様々な法律問題が存在しています。また、法律問題に直面したときに、弁護士に依頼するということは、よほど大事なことのように思えます。しかし、早い段階で弁護士に相談することで解決することができる問題もあります。悩んだら、まずは相談することが問題解決への第一歩です。そのためにも、私は、相談しやすく、頼りがいのある弁護士でありたいと考えています。常に多角的な視点を持って、どのような案件であっても、迅速、正確に対応し、お客様の信頼を得られるような弁護士を目指します。弊事務所では、様々な層のお客様それぞれの立場に立って、多角的な視点から、解決策を提示し、お客様に満足していただけるリーガルサービスを提供します。お悩みのことがございましたら、是非一度、お気軽にご相談ください。

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